表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三本角物語  作者: 沢 あさと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/6

第四章 天へ昇る少女と山の民

一 目覚めの混乱


 美里は、神社で目覚めてすぐに行動に移した。

 遠くで中華連合のヘリの音を耳にしたからである。

 まだ頭の中がはっきりせずに体がよろける。

 それでも彼女は気を取り直して神社の裏手から山の斜面に向かう。


 銃弾を受けた体にはもう傷がなかった。

 身体に痛みはない。

 むしろ、以前よりも軽い。

 だが――何かが、自分の内側で蠢いている感覚があった。


 胸の奥に、もう一つの心臓があるような……

 そんな不気味な“脈動”。

 

 (これが鬼の体・・・?)


 美里は自分の体にある紋様を見て呟く。

 彼女は昨夜の記憶を探るように自問自答する。


 (あの時、私は鬼の声を聞いたと思う)

 (その後の記憶がよく思い出せない……)


 その瞬間、美里を鋭い頭痛が襲った。

 まるで電気が頭に走るような痛み。


 (そうだ、私は鬼に襲われて喰われた……っ!?)


 それは生々しい実感だった。

 彼女は確かに鬼の牙の感触を覚えていた。

 それが不思議なことに痛みや恐怖より安心感も感じていたのである。

 それは鬼と自分が融合していくような奇妙な感覚であった。


 (あれは何だったのだろう……?

  確かに私は銃で撃たれて死ぬはずだった。

  でも鬼に話しかけられてその後は鬼に喰われて……

  鬼と一緒になった……?)


 それからの事が記憶にない。

 ただ兵士たちの顔が恐怖に歪み絶叫と悲鳴、銃弾の音と血の匂いだけが断片的に

 フラッシュバックするだけである。

 まるで現実感がない。

 何かの映像記録を見ているような感覚であった。

 しかしこれだけははっきりしてる事がある。


 (私は鬼に喰われて意識だけが残った。)

 (この身体は私のではなくて鬼の体なんだ!)


 それだけは確かな事だとなぜか確信していたのだ。

 体の紋様……

 そして鬼と出会う前とは違う体の違和感。

 それが美里の直感を結びつけていた。

 

 パラパラパラ・・・


 美里は後方の上空を見上げた。

 中華連合のヘリが遠くに視認できる距離まで来ている。


 (今は早く逃げなきゃ……っ)

 (とにかく中華連合から遠くへ逃げないと……っ!)


 美里は恐怖に突き動かされるように歩みを早めた。


 次の瞬間――


 **足が地面から離れた。**


 「え……え? な、何これ……っ!?」


 ふわりと、体が勝手に浮き上がる。

 重力が切り替わったように全身が宙に浮き始めた。

 それは徐々に高度を上げて周りの木を見下ろしている。


 「うそっなんでっ 私、高所恐怖症なんだけどーーー!!」

 「ど、どうしてこんな事に〜っ!!!!」


 情けない悲鳴をあげたが、落ちるどころか――

 **真上へ打ち上げられた。**


 まるで巨大な見えない手に掴まれたように、

 凄まじい速度で空へと吸い上げられる。


 「きゃあああああああーーーーーっっっっ!!」


 涙と鼻水をまき散らしながら、

 美里は一気に高度一万メートルへ到達した。


 雲を突き抜け、空はどこまでも黒に近い青色に包まれている。

 地平線が湾曲して光っていた。

 地球が丸いとわかるほどの高さである。


 「こ、こわい……っ、落ちたら死ぬ……確実に死ぬっ! 

  あ、これ以上高くなっても死ぬじゃない……っ!!」


 成層圏を越えたら生身の人間が死ぬことぐらい美里も知っていた。


 この高さでも本来ならなんの保護装備がなければ死ぬような高度であろう。

 しかし、息はできる。

 寒さもない。

 ただ美里の恐怖だけが体を支配していた。


 (で、でも……どうやってここから移動できるの……?)


 そう思った瞬間――


 今度は斜め後方へ、音速を超えて飛翔した。


 「ひゃあああああやめてぇぇぇ!!??」


 ソニックブームが空気に圧力をかけて大きな破裂音を発生させる。

 森や山が豆粒のように遠ざかり線となり視界が狭まっていく。

 空中でくるりと方向を変えるたびに急激なGで胃が浮き上がる。


 美里はパニックになりながらも安全を最優先に考えた。

 とにかく今は地上に落ちないようにとか山にぶつからないようにとか必死に

 願うばかりである。

 だがその願いに叶おうとするようにその飛行は方向転換している事に美里は

 気づく。

 

 (もしかして願う方向を思うだけで移動するの?)


 それを確かめようと美里は少しだけ左右の方向を選び飛んでと思考してみる。

 そうしたら本当にそのように飛行するではないか。

 そのうち美里はその飛行の制御に夢中になっていって逆に面白く感じるように

 なっていった。

 

 「飛んでるっ……私、自分の意思で飛んでるわっ!!」


 美里は自分の意志で飛べることに今までにないほどの興奮を覚えた。

 どんな人間も空を飛ぶことに憧れを持つものである。

 美里もその例外ではなかった。

 美里が中華連合のヘリがどうなったのかと思いだしたのはそれからしばらくして

 からであった。

 初めての飛行は美里の暗い過去を忘れさせるほどの体験だったのである。


 中華連合のヘリは美里の飛行には気づかなかった。

 治安部隊のヘリは美里のような小さな物体が高速で飛行するのを感知する軍事

 レーダーを装備していなかったのである。

 美里がミサイルのような逃亡方法を取るとは誰も予想だにしなかったのだから

 仕方ないことであった。


 美里はそのような事で中華連合の追跡を完全に断ち切ったのである。

 その副産物として彼女の高所恐怖症も克服されたのは彼女以外は誰も知らない。


 美里は飛行が制御できるようになって冷静に現状を把握できるようになった。

 中華連合の追跡はどうやらもう心配ないらしい。

 これからどこに逃げるかをよく考えて行動するのが先決であると結論づけた。

 それを飛行しながら思考したのだから美里の飛行制御もかなりのレベルになって

 いるだろう。 

 美里はできるだけ市街地や人のいる地域を避けて山や森の上空を飛んだ。


 そして山間の奥深くに小さな村落を見つけたのである。

 それは谷間にある小さな村落であった。


 (あそこなら……隠れられるかも……)


 そう考えた美里は村の入り口付近に着陸をしようと高度を下げていった。

 美里は慎重に下降していく。


 **地面すれすれまで徐々に停止。**


 美里の思い通りに地面スレスレで止まりそこから飛行を打ち切る命令を出す。

 美里の足が静かに地上に着地した。


 「う、うまく着地した〜っ!」


 安心からか美里は膝から崩れ落ちた。

 初めてにしては見事な着地だと自画自賛する美里であった。



## 二 山の民・陳一族


 村の入口は簡素な木造の門で、

 そこに立つ男たちが驚愕の表情で地上に降りてきた美里を見ていた。


 十数名の男たちが一斉に構える。


 「な、なんだっ? 人間が飛んできた……っ!?」

 「空からだとっ……そんな馬鹿な……っ!?」

 「もしや連合軍の新兵器かっ!?」


 村人は弓矢を構えて美里に向けた。

 そんな村人の異常な警戒を見て美里は大いに焦った。

 美里は冷や汗を流しながら両手を大きく振る。


 「ま、待ってくださ〜いっ! 攻撃する気はありませ〜んっ!!」


 何とも間の抜けた発言である。

 そんな確証もない宣言が村人の警戒を解くには至らない。


 美里はそんな村人の緊張を知らずに不用意に村の入り口に近づいていった。

 彼女はこちらから攻撃の意思を見せなければ大丈夫だと自分勝手に思い込んでいたの だ。

 案の定、美里が村の入り口にノコノコと歩き出すと同時に村の若い武人たちが一斉に 襲いかかった。


 「怪しい者! 捕らえよ!」


 若い武人は各々手に棍や槍を持って美里に向かってくる。

 美里は驚き、思わず頭を抱えてしゃがみ込む。


 「わぁぁ待って! 降参、降参しますからぁっ!!」


 美里に向かってまず弓矢が飛んでいく。

 しかしその弓矢は美里の体に届く前に何か透明な壁にぶつかったように弾かれた。

 武人たちはそれを見て驚愕する。


「やはり連合の新兵器かっ!!」


 武人たちの目は怒りと恐怖で吊り上る。

 それと呼応するように美里の容赦ない攻撃が繰り出された。

 殴りかかる拳、蹴り、棒術に槍が恐るべき速度で正確に美里の体を襲う。

 普通の人間なら即死するほどの攻撃である。


 だが――美里の体には、かすり傷ひとつ付かなかった。


 拳が触れた瞬間、

 まるで石に触れたかのように痛みを覚えたのは武人たちの方だった。


 「ぐああっ! こ、拳が……砕けたっ……!?」

 「見えない攻撃かっ!!」

 「危ないっみんな離れろっ!」


 若い武人たちは負傷した箇所を抑えつつ飛び退いて美里を包囲した。

 武人たちの全員が美里に向けて強烈な殺気を放っている。

 それは恐怖の裏返しでもあった。

 そんな武人たちの鬼の形相に美里は困惑し悲しくなってきた。

 美里は泣きながら叫ぶ。


 「何で話を聞いてくれないんですかっ 私は新兵器でも兵士でもないですっ!」

 「安藤美里です! ただの中学生なんですっ!!」


 「ふざけるなっ ただの中学生が空を飛んでくるものかっ!!」

 「それに我らの攻撃を弾き返すその異様な術は何だっ!?」

 「そんな危険な人間を信用なんか出来るものかっ!」


 美里は絶望を感じた。

 彼らの意言うことは尤もであったからだ。

 普通の女子中学生が空をマッハで飛び、たぶん熟練した武術家の殺意を込めた

 打撃技の全てを弾き返すなんて出来るはずもない。

 美里は泣き出したくなる気持ちを必死に抑えてどう説明したら信用してくれるか

 高速回転で思考を巡らせていた。


「これは何の騒ぎじゃ! 

 来訪者があればまずワシに通達するのが掟であろうがっ!!」


 村の入り口にある門から一人の背の低い老人が姿を見せた。

 背は武人たちよりも低いがその眼光は周囲を威圧していた。

 長く伸びた白い髭が歩くたびにゆっくり左右に揺れている。

 

 老人の姿を見て慌てて平伏する村の武人たち。


 長い白髭、深い皺。

 しかし背筋は伸び、鋭い眼光を持つ。


 「しかし老師、この女は連合の兵士かもしれません。」

 「道具も使わずに空を飛ぶ力を有している者は敵と見て間違いないでしょう!」

 「空を飛びこの村に降りてくる輩が味方とは思えません!」


 武人たちは口々に自らの正当性を訴える。

 そのどれもが隠れ里であるこの村の立場からは納得の出来る話であった。

 しかしその老師と呼ばれた老人

 この村に住む陳一族の族長・陳玄道チェン・シュエンダオは美里の様子を

 静かに観察していた。

 美里もその玄道の視線に気づいて思わず緊張して身構える。


 その素人丸出しの動揺を素早く感じ取った玄道は眉を下げて微笑んだ。


 「わしが怖いかい、そこの少女よ。」

 「はい、怖いです。」

 「どこが怖いかね。」

 「だって多勢が武器を持って襲ってきて……

  そんな危ない人たちが老師と呼ぶ人が怖い人じゃないって思えないから……」

 「なるほど道理だのぅ。」

 「だがなワシらもお主が怖いのじゃよ。」

 「少女よ……なぜ攻撃を受けても傷一つ負わぬ?」


 美里は震える声で答えた。


 「わ、私にも……わからないんです……

  官兵に追われて、兄も母も殺されて、必死で逃げたら……ここを見つけて……」


 美里は必死に今までの経緯を話した。

 私はいつも被害者であると敵ではないと訴えたかったのである。



三 互いの本音と利害


 族長は美里をじっと見つめた。

 その瞳には恐れだけでなく――好奇心と打算があった。


 「おぬし、中華連合に追われておるのか?」


 美里は唇を噛んだ。


 「……はい。

  家族は……全員、殺されました。

  私も……必死で逃げてきて……」


 美里の目から涙が流れる。

 玄道は深く息を吸い、頷いた。


 「我らも同じだ。

  中華連合の圧政に逆らい、この山に逃れてきた。

  ゆえに、おぬしの境遇は他人事ではないのぅ。」


 そして――

 玄道は心の内で別の計算もしていた。


(この少女……力は未知数。

 熟練の武人でも傷一つ付けられぬ体術……いや身体か?

 それと空を飛ぶ異能……。

 おそらくこの少女の力を欲して政府が追っているのやもな。

 これほどの力を持つ者を敵にするのは賢明ではない。

 むしろ、味方につけるべきであろう。)


 美里もまた、

 頼れる場所はもうどこにもなかった。


 この村は危険だが、

 それでも今はこの村に頼るしかないように感じる。


 美里は涙を拭き、頭を下げた。


 「お願いです……少しだけでも……ここに居させてください……」


 玄道はその言葉に柔らかく微笑んだ。


 「よい。

  おぬしは今日から我らの客人だ。

  ただし――その力については、

  いずれ聞かせてもらうぞ?」


 美里は不安を覚えつつも頷いた。


 「老師っよろしいのですか!?」

 「こんな得体の知れない者を村に引き入れても!?」

 

 武人たちは老師に詰め寄りながら問いかける。

 彼らは美里の未知の力に警戒心を緩めてなかった。


 「其方らの警戒心は実に誉められたものだが、ちと頭が固すぎるのぅ。」

 「まあ良い。どのみちあの娘から連合の情報を得なくては対処もできまい。」

 「異能は異能を知るものじゃ。今はこのワシに任せてもらおうかの。」


 玄道は若い武人たちを嗜めるように視線を流す。

 彼らも村を取り仕切る老師には最後まで逆らうのは出来ない。

 そして異能はあの少女だけでなくこの老人も持っているのである。

 いざとなれば老師がこの少女を抑えてくれるだろう。

 若い武人たちはそう納得しようと自分に言い聞かせるだけであった。

 

 美里は玄道の従者に促されて村に入っていった。

 村人たちは突然の来訪者に不安になりざわついた。

 だが美里の整った容姿とは裏腹におどおどして警戒している様子に滑稽さを感じ

 妙な安心感を覚えたのであった。

 そんな美里がおそらくは地球上で最も強靭な肉体を持つ少女であることは村人が

 知る由もなかった。



 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ