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2度目の世界で君は僕を殺さない  作者: ちょこだいふく


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8/22

8.剣技と生き方を教える父

朝靄がまだ庭を包んでいた。

 

リアムは屋敷の裏で、ひとり木剣を握っていた。

腕の痛みも、手の豆の裂ける感覚も、もう慣れた。ただ剣を振るたびに、自分の弱さを突きつけられる。


 ――これじゃ、まだ守れない。


セレナを、誰からも。

彼女の光にふさわしい従者になるには、まだ足りない。力も、頭も、覚悟も。


木剣の音が続く中、背後で足音が止まった。

振り向けば、朝日を背に立つアルトリウスがいた。

黒の上着に銀糸の刺繍、深く落ち着いた眼差し。

その存在だけで、空気が凛と引き締まる。



リアムは慌てて膝をついた。

「ア、アルトリウス様……!」

「立ちなさい。対外的な場以外でそんな態度は取らなくていいよ」


声は穏やかだった。

リアムが立ち上がると、アルトリウスはゆっくりと近づき、視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。



「あの夜の事、商人から話は聞いている。お前は、あの夜“殺すこと”を選ばなかったそうだな。そして路地裏に連れ込まれそうになった時も、きちんと否定した。セレナからも話は聞いておるよ。」



リアムは息を詰めた。

アルトリウスの瞳にはただ穏やかな静けさがあった。


「私はな、リアム。娘が“誰かを助けたい”と口にしたのを、初めて聞いた。あの子はあの日からなにか変わった。…だから、私はお前を見ている。あの子を変えた少年として。」


リアムの胸が熱くなった。

息が震える。

「……俺なんかが……」

「“なんか”ではない。」

アルトリウスは短く言い切った。

「リアム、私はお前のような子供、嫌いじゃないんだよ」


そう言って立ち上がると、背後に目を向けた。

「…出てきなさい。」


陰の中から現れたのは、黒い外套の護衛。

あの夜、リアムを助けてくれた男だった。

目尻に笑い皺を刻んだ無骨な顔。


「この男が、今日からお前の師になる。」

アルトリウスの声に護衛が頭を下げる。

「レオン・ファロウだ。好きに“レオン”とでも呼べ。お前を一人前にするのが今日からの仕事だ。」


リアムは慌てて礼をした。

「よ、よろしくお願いします、レオンさん!」

レオンは片眉を上げて笑う。

「ああ、よろしくな、リアム坊!」


アルトリウスがわずかに口角を上げた。

「…頼んだぞ、レオン。」

「へい、旦那。」


そう言い残して、アルトリウスは踵を返す。

去り際、ふと振り向いた。


「リアム。」

「は、はい!」


「剣で一番大事なのは、腕でも脚でもない。 “何のために立つか”を見失わぬことだ。

…その意味を、あの男から学べ。」


リアムは深く頭を下げた。

「はいっ!」


アルトリウスが去ると、レオンが手を叩いた。

「よし、坊。まずは地獄の始まりだ。」

「じ…地獄ですか?」

「おう。汗と泥と痛みでできた地獄だ。だがそれを越えりゃ、ちゃんと“誇り”が残る。」


リアムはごくりと唾を飲み込んだ。

レオンが木剣を二本、砂の上に投げる。


「構えろ、リアム坊。命を賭けて誰かを守る前に、まず自分の足で立つことを覚えろ。」


木剣がぶつかり合う音が、朝の空に響いた。

冷たい空気の中で、その音だけが確かな熱を帯びていた。


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