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2度目の世界で君は僕を殺さない  作者: ちょこだいふく


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5/22

5.セレナ視点の朝

ーー焚き火の光が見えたのは、偶然だった。



1度目の人生ではこの日、父が刺殺された。それを未然に防ぐべく無理を言って同行し、護衛もつけてもらった。その夜の帰り道、馬車に揺られていたときだった。風の隙間から、かすかな声が聞こえた。


「……お願いだ、俺を抜けさせてください……!!」


父は怪訝そうに顔を上げた。

私には、その声の震えだけで、何がおこっているのか分かった気がした。


ーーーあの時のあの少年


その確信に、息が止まった。

刃を握り、血の中に倒れた少年。

あの時、私が刺し殺した相手。


焚き火の向こうに少年の姿が見えた。

泥まみれで、必死に頭を下げていた。

「もう悪いことはしない」と、

「人殺しなんてしたくない」と泣いていた。



私はその声を、息を殺して聞いた。

心臓が痛かった。

その姿が、あまりにも“違った”から。


ーーこの子が、本当にあの少年?



復讐の夜に見た彼は、恐怖に満ちていた。

でも今、私が見ている彼は、自分の罪を抱えて泣く、ただの子供だった。



その瞬間、胸の奥で何かが崩れた。

怒りが、音もなく消えていった。





ーーーー



…あの朝を、思い出す。


父を殺した少年を探し出し、

血の海の中で刃を突き立てた、あの朝。

復讐をこの手で果たすべく、私は自らを鍛えた。


そして彼の胸に刃が沈んだ瞬間、何もかもが止まった。復讐を果たしたのに、心は空っぽだった。


そのまま屋敷に戻った私は、誰にも何も言わなかった。

 


怒りのせいにしていたけれど、

本当はただ、どうしていいか分からなかっただけ。



そしてそのまま私は屋敷の塔に登った。

父と一緒に朝日を見た、あの場所。



街の屋根が遠く霞んで見える。

風が髪を撫でた。

朝の美しい空が悠然と広がる。

父が好きだった、あの色だった。


「……お父様、ごめんなさい。」


その言葉を最後に、私は身を投げた。


冷たい風が頬を裂き、

光が反転し、世界が遠ざかっていく。


これで終わりだと思った。

でも、終わりではなかった。


ーーーーー



気づけば、私はまた生きていた。

まだ幼く、父も生きている世界で。

そして今、あの少年が目の前にいる。


夜が明け、屋敷で眠る彼のそばで見守らせてくれるよう父に頼み込んだ。父は快く許可してくれた。そしてあの歳で悪の誘いをきちんと断れるあの子は将来有望だ…セレナが望むなら従者にしてもいいんだぞ、と言った。


扉を開けた。

白いシーツ。

細い肩。

かすかに震える指先。


眠るその顔は、

あの日、刃の向こうに見た少年と同じだった。



ーーーもしこれが、やり直す機会なのだとしたら。



私は祈るようにその傍らに座り、

ただ、彼が目を覚ますのを待った。




ーーー


そして、光の中で彼が目を開けた。

金の瞳と青の瞳が重なる。


あの瞬間の記憶がすべて蘇る。

怖くはなかった。


今度こそ、正しく。

父のように導き見守る人でありたい。


私は微笑んだ。

「あなたは、まだ何もしていないわ。そうでしょう?」


その声が震えた。

赦すことが、こんなに苦しいとは知らなかった。


でも、心の底から思った。


ーーーこれが、私たちにとっての赦しの朝だ。


だから私は、彼に従者になるよう求めた。




窓の外では、再び朝焼けが空を染めていた。

あの塔の上で見た光と同じ色。

でも、今度は全く反対の命を繋ぐための光だった。

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