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2度目の世界で君は僕を殺さない  作者: ちょこだいふく


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3/22

3.少年の決意

夜の帳が落ちるころ、貧民街の裏通りはざわつき始めていた。

昼間は物乞いと商人で賑わうこの路地も、陽が落ちれば様相が変わる。

酔いどれの笑い声、喧嘩の怒号、硝子の割れる音。

その全部が、リアムの胸を締めつけた。


ーーーもう、ここに戻りたくなかった。


約束の場所は、古い倉庫の裏。

石壁に囲まれた狭い空き地に、焚き火の光が揺れている。

数人の少年たちが酒を回しながら、下品な笑い声を上げていた。


「おお、来たかリアム!」

リーダー格の少年が口角を上げる。

「お前が来ないかと思ったぜ。まさかビビって逃げるつもりじゃなかったよな?」


リアムは小さく首を振った。

 「…今日で最後だ…もうここには来ない…。」


その言葉に、焚き火の音だけが残った。

笑い声が止む。

全員の目が、リアムを見た。


「は?」

最年長の少年が立ち上がる。

「おい、何舐めたこと言ってんだよ。こっちはお前のために段取りしてやってんだぞ。」

「……ごめん。でも、俺はもう悪いことはやらないし、度胸試しもしない。」

「は?何お前、怖いのか?」

「違う。ただ……無闇に人を傷つけたくない。」



その瞬間、乾いた音が響いた。

頬に走る衝撃。

顔を上げると、リーダーが拳を握っていた。


「……ふざけんなよ。お前の仲間入りのために俺たちは段取りしてやってんだ!!いいからさっさと殺してこい!!」

「いやだ!!」リアムが叫ぶ。

「俺は…そんなことはやりたくない!」



殴りかかる拳。蹴り。

焚き火の影が乱れる。

リアムは地面に叩きつけられ、血の味を感じた。

リアムは必死に受け身を取って耐えた。


 

「いいから殺してみろよ!」

誰かが叫ぶ。

「根性見せてみろよ!」

リアムは泣きながら、泥に額を擦りつけた。

「いやだ…頼む…こんな事やめよう……無闇に人殺しなんて、しちゃいけないんだ…!!」



静寂。

笑い声が消える。

焚き火がパチ、と音を立てる。


誰も動かなかった。

それでもリアムは、頭を下げ続けた。

「もう悪いことはしない。それに度胸試しで人殺しなんて俺はしない!!!お願いだ、俺を抜けさせてください……!!」


涙と泥でぐしゃぐしゃの顔を、地面に押しつけたまま。その姿を、遠くから見つめる影があった。




ーーーー


通りを走る馬車の車輪が、砂利を弾いた。

灯りを掲げる従者が前を歩き、後ろには黒衣の男。

カルディナ侯——アルトリウス・カルディナ。

領都への帰り道、彼はこの貧民街を通り抜けていた。


「……誰か、争っているようです。」

従者が立ち止まる。

護衛が言った。

「アルトリウス様、危ないのでお下がりください。」


とそのとき、泥を叩く音と、

かすかな泣き声が風に乗って届いた。


アルトリウスの足が止まった。小さく息を吐き、護衛に言う。

「……行って止めてやれ。とてもじゃないが見ていられん。」


護衛が駆け出す。

焚き火の周りに飛び込むと、驚いた少年たちが後ずさった。

「誰だよ!」

「貴族だ、逃げろ!」

あっという間に、群れは散り散りになった。


残されたのは、泥まみれのリアムと度胸試しで殺される予定だった手足を縛られた旅商人だけ。


リアムは息を荒げ、涙で濡れた顔を上げる。

光が目に刺さる。

見知らぬ男が、焚き火の向こうに立っていた。



黒衣の貴族が近づく。

深い皺を刻んだ顔に、厳しさと慈悲の色が混ざっていた。

「……怖かったか。」


リアムは答えられなかった。

唇が震え、喉がひゅっと鳴る。

アルトリウスはそっと膝をつき、少年の肩に手を置いた。


「生きるのは、怖いことばかりだ。

 だが、間違いに気づけるなら…何度でもやり直せる。仕事がないのか?うちで雇ってやろう。」



リアムの瞳が揺れた。

何かを言おうとして、声にならない。

「……俺、そんな資格……」

「そんな子供が何を言う。資格など、もっと生きてから考えればいい。」



その言葉と同時に、緊張の糸が切れた。

リアムは泣き崩れた。

泥の中で、嗚咽が止まらなかった。


「ごめんなさい…ごめんなさい」

泣きながらリアムは謝りつづける。そしてそのまま意識を失った。



アルトリウスは従者に合図を送り、

「この子を屋敷に運べ」と告げた。


焚き火が小さく弾けた。

光が揺れ、リアムの頬を照らす。

空の彼方では、雲が赤く染まり始めていた。



新しい朝が、もうすぐそこまで来ていた。

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