21/終わらせる決意
塔の上。
世界が崩れ始めていた。
足元の石が薄く透け、
遠くの街並みも夜空の星のように滲んでいく。
風の音ももう聞こえない。
三人の呼吸だけが、ここに存在していた。
リアムは拳を握りしめ、
消えかける景色を見渡す。
「……これで……終わるんですね。」
声は震えていたが、
その背中は初めて“迷いのない従者”のそれになっていた。
レオンが優しく笑う。
「終わる……というより、実際はやっと休めるんだろうな。」
セレナは二人の間に立ち、空へ溶ける朝焼けを見つめた。
その色は、
前の人生で心を折り砕いた光と同じはずなのに——
もう、目にも胸にも痛くなかった。
彼女はゆっくりと振り向く。
世界はもう、三人の輪郭以外ほとんど残っていない。
そしてセレナは、
震える声で、しかし確かな微笑みで言った。
「リアム——あなたは誰も殺さなかったわ。」
リアムの瞳が揺れる。
「……俺…」
「本当に強かった。」
セレナは続ける。
「前の人生で奪った命を、二度目ではひとつも汚さなかった。…それは、誰よりも尊いことよ。」
リアムは涙を堪えながらうなずいた。
「そして、私も……あなたを殺さなかった。」
言葉を発した瞬間、彼女の表情に安堵が広がった。
「あなたを憎むだけで終わらず、あなたを許す道を選べた。…あの時の“私”を、ようやく救ってあげられた気がする。」
リアムは声を詰まらせ、ただ涙を流していた。
最後に、セレナはレオンへ視線を向けた。
世界の崩壊はもう目前。
レオンの輪郭もふちが光に溶けている。
「レオン…あなたは、二人を守ってくれた。」
レオンは驚いたように目を見開き、そして照れ隠しのように鼻を鳴らした。
「守ったなんて立派なもんじゃねぇ。…二人が勝手に走っていくから、仕方なく後ろからついてっただけでさぁ。」
セレナは首を振る。
「違うわ。あなたがいなければ、私たちはここまで来られなかった。」
その一言に、レオンはほんの少し目を伏せた。
「……なら、守れたって思ってもいいか。」
リアムが泣き笑いで言う。
「もちろんです。レオンさんは……誰よりも強くて、優しい大人でした。」
レオンは照れ隠しにリアムの頭をくしゃくしゃに撫でる。
「ったく…坊は泣き虫だったんだな。」
世界の光が強くなる。
三人とも、もう中央だけが辛うじて形を保っている。
セレナは二人の手を取り——
ぎゅっと握った。
「…これで終わりでもいい。でも、三人で来られてよかった。」
リアムが頷く。
「はい……僕もです……。」
レオンが笑った。
「じゃあ、最期は三人一緒に。」
三人の足元が光に溶けていく。
セレナの声が、
最後の風のように優しく響いた。
「もう大丈夫よ。」
光が弾け、三つの影はそっと世界から消えた。
朝焼けだけが、
何もなかった塔の上に残っていた。




