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2度目の世界で君は僕を殺さない  作者: ちょこだいふく


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20/22

20.囚われたままか抜け出すか

翌朝。

リアムは目を開いた瞬間、胸の奥に嫌な違和感を覚えた。


窓の外で鳥がさえずる。

昨日とまったく同じ旋律で。


廊下を歩く使用人の足音も、

皿を並べる聞き慣れた音も、

言葉さえも。


「おはようございます、リアム様。

本日はパンがよく焼けておりますよ。」


昨日と……同じだ。


リアムは喉を鳴らした。


食堂も同じだった。

アルトリウスは同じ新聞を読み、

同じ段落で眉をひそめ、

同じ文句を言った。


「……このあたりの治安対策は、まだ詰める必要があるな。」


セレナの手が止まる。


「お父様、それ昨日も——」


言いながら、彼女も気づいた。


リアムはセレナと目を合わせる。


——気づいている。

——セレナも、だ。


 


訓練場。

レオンが木剣を構え、いつものように声を張る。


「坊、足が開きすぎだ。」


リアムは木剣を握ったまま、固まった。


「……それ、昨日も同じタイミングで言われました。」


レオンは動きを止める。

微かに揺れる手。

いつもなら笑って流すところなのに——笑わない。


「……そうだったか?」


「レオンさん。休憩の時間も、注意された順番も……今日と昨日、まったく同じなんです。」


沈黙が落ちる。


レオンは木剣を地面に突き立て、

低く呟いた。


「……だろうな。」


リアムが息を呑む。


「気づいてたんですか?」


「ああ。…朝からずっと胸がざわついてた。

だが、口に出した瞬間に何かが壊れそうでな……黙ってた。」


そして、レオンはリアムの肩に手を置いた。


「坊……この世界、“昨日”を知らない連中ばっかりなんだ。」


リアムはその意味を飲み込む。


「俺たち三人だけなんですね。昨日を覚えてるのは。」


レオンは眉をしかめ、空を見上げた。


「……どうやら、そうらしい。」


風のない訓練場が、ひどく静かに感じられた。


レオンが短く息を吐く。


「坊。訓練は今日はここまでだ。

——セレナ様にも話さなきゃならねぇ。」


リアムは強く頷いた。


「はい。」


夜のサロン。

灯りはひとつだけ。

広い部屋の中で、三人の影が心細いほど小さく揺れていた。


セレナは窓の外の塔を見つめたまま、

声を落として言った。


「…これが“夢”だとして。…私たちがここに囚われているのだとして。」


リアムは拳を握る。


「出なきゃいけない。このままじゃ…同じ日の繰り返しです」


レオンは眉間に深い皺を寄せた。


「だがよ……外に出たらどうなる?」


その言葉に、空気がふっと冷える。


リアムは息を呑んだ。


「……消える、かもしれない…ってことですか?」


レオンは無言で頷く。


その短い動作だけで、

彼がどれほどその可能性を恐れているか分かった。


セレナはそっと胸元を抑える。


「私たちは……“前の人生の死”のところで時間が切れていて、そこから先は、何もなかったはずなの。」


リアムの喉が震える。


「じゃあ…この世界から出たら…“もういないはずの世界”に戻る可能性もある?」


セレナは静かに言う。


「そう。記憶が消えるのか、私たちが消えるのか…」


レオンは机に肘をつき、

深く、低く吐息を漏らした。


「まったく…厄介な世界に閉じ込められたもんだ。」


沈黙。


その沈黙が、

三人の胸の中に同じ不安を刻む。


逃げたい。


でも、逃げられない。


セレナが、小さく呟く。


「ここに留まれば…誰も死なないのかもしれない。

毎日同じ“今日”を繰り返すだけで。」


リアムはその言葉にぎゅっと唇を噛んだ。


「……でも、“生きてもいない”と思います。」


セレナは少しだけ目を伏せ、

そしてゆっくり頷く。


レオンも静かに言った。


「ここに留まったら、いずれ気が狂う。

何十年経とうが、外の世界は昨日のまま…それでいいわけがねぇ。」


リアムの声が震えながら漏れる。


「でも……怖いです。出た先に何もなかったら……?」


セレナはリアムの手をそっと取った。


「怖いわ。私も同じ。」


レオンはひどく優しい目つきで二人を見た。


「…三人で行こう。」


リアムは顔を上げる。


「レオンさん……?」


「一人で消えるのは、むなしい。

だが三人で向かうなら、たとえどうなるにせよ…それは“歩んだ先の答え”だ。」


セレナは静かに微笑む。


「…そう…ね。狂った世界で止まるより、

震えながらでも、進みたい。」


リアムは涙をひと粒落とした。


「……はい。」


部屋の灯りがふっと揺れる。

壁の影が少しだけ長く伸びる。


“死の前日”の夜。


三人はようやく、

同じ場所に立った。


どこへ続くか分からない道の前で、

互いの影を確かめるように。


セレナがそっと言った。


「……明日。

塔へ行きましょう。

それが……きっと、この夢の終わりだから。」


リアムとレオンは、

静かに、深く頷いた。


——震えながら、進むために。


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