18.真実に近づく
夕刻、カルディナ家のサロンにて。
リアムは躊躇していた。
何度も胸の奥で言葉がつっかえて、
けれど結局、その足はセレナの部屋の前に止まった。
扉をノックすると、すぐに返事が返る。
「入りなさい。」
部屋には淡い夕陽が差していた。
セレナは机の上の本から顔を上げ、柔らかく微笑む。
「どうしたの? そんな顔して。」
リアムは喉を鳴らし、
躊躇いながらも決意して言う。
「…セレナ様。レオンさんのことで……話したいことがあります。」
セレナは一瞬だけ目を細め、
静かにペンを置いた。
「……座って。聞かせて。」
リアムはベッド脇の椅子に腰を下ろし、
ひとつ息を吸い込んだ。
「今日の訓練のあと……レオンさんが、変なことを言ったんです。“塔の上にセレナ様が見えた”と。」
セレナの表情がわずかに硬くなる。
リアムは続けた。
「それだけじゃなくて……“手すりが折れた気がした”って。…その時のレオンさん、とても動揺しているように見えて…」
そこまで言うと、セレナは息を静かに呑んだ。
そして、ゆっくりと自分の胸元に手を添える。
「…私もあるの。」
リアムは顔を上げる。
「…セレナ様も?」
セレナは頷いた。
「夢じゃないの。塔の上で…誰かに腕を掴まれた感覚。落ちる直前の、強い引き止める力。あれは、あの日の私が誰かに助けられようとした“断片”。…でも、誰が掴んだのかは見えなかった。」
リアムの心臓が強く脈打つ。
「俺…レオンさんの言葉が、どうしても気になって…」
セレナはしばらく俯き、
そして顔を上げた。
「…いっそ、三人で話してみない?」
リアムは驚く。
「レオンさんも、ですか?」
「えぇ。私たちだけで抱えても、何もわからない。
覚えていることを、“断片”でもいいから出し合えば、きっと何か見えてくるはずよ。」
その言葉の強さに、リアムは圧倒された。
彼女は前へ進む覚悟を、恐れと共に抱えている。
「…わかりました。レオンさんを呼んできます。」
リアムは立ち上がりかけて、ふと足を止めた。
「…セレナ様。…怖く、ないんですか…?」
セレナは少し驚いた表情をし、それから柔らかく笑った。
「怖いわ。でも——」
窓の外の塔のシルエットを見ながら続ける。
「この“二度目の世界”が本物でも、夢でも、私たちが立ち止まったら先に進めない。…私は、真実を知りたいの。」
リアムは息を飲んだ。
その横顔は、前の人生で復讐に染まった少女とはまるで違う。
「…すぐに、呼んできます。」
リアムの声は震えていたが、目は真っすぐだった。
部屋を出る前、セレナが小さく言う。
「リアム。」
「はい。」
「あなたが言ってくれた勇気に、私も背中を押されたのよ。」
リアムの胸に熱いものが広がる。
そして彼は走り出した。
—— 三人で真実に近づく“第一歩”が、静かに始まろうとしていた。




