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2度目の世界で君は僕を殺さない  作者: ちょこだいふく


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15/22

15.存在しない人

部屋の空気は重かった。

リアムはセレナの向かいに座り、膝の上で拳を握りしめていた。


「……名前を、思い出しました。

 前の人生で俺が…最初に殺した女性の。」


セレナは静かに頷く。

「大丈夫?」


リアムは震える声で続けた。


「たしか名前は…ミリア・ローヴァ、旅の商人で、子どもが一人いるって、言ってました。」


セレナは書架から一冊の古い記録簿を引き出す。

カルディナ領の“住民・商人の登録名簿”。


机の上で頁がめくられていく。


だが——


ない。


「…ないわね。」


セレナは眉を寄せ、さらに古い記録にまで遡る。

しかし、どの頁にも ミリア・ローヴァ の名はなかった。


「同じ地方の商人名録にもない…似た名前の一家も…どこにも存在しない。」


リアムの顔から血の気が引いた。


「そんなはず…だって俺は確かに…」


そのときだった。


コンコン。


扉がノックされた。


「セレナ、入っていいかな?」


父、アルトリウスが部屋に入ってくる。

柔らかな微笑みと落ち着いた佇まい——

だが、リアムはぎゅっと息を飲んだ。


前の人生で彼を刺したとき、

その死に顔を、リアムは忘れられなかったから。


アルトリウスは書類を抱え、娘に近づき——

ふとリアムの手元の名簿に視線を落とした。


「商人の調査かい?」


そこで、アルトリウスの動きが止まった。


ほんの一瞬。

光が歪んだように見えた。


次の瞬間——


アルトリウスの胸元が、透けた。


透明な、空気のような“穴”。

そこだけ世界が抜け落ちたように見えた。


リアムとセレナは同時に息を呑む。


だがそれはほんの一瞬で、

次の瞬間には元通り、何事もなかったかのように父は立っていた。


「……どうしたんだい? 二人とも顔色が悪いな。」


セレナは口を開いたが、言葉にならない。

リアムも同じだった。


アルトリウスは微笑み、娘の頭を軽く撫でた。


「困ったことがあればいつでも言いなさい。

 私はいつでも味方だ。」


そう言って退出していく。


扉が閉まると、

二人はしばらく動けなかった。


やがてリアムが小さく呟く。


「…今、見えましたよね。

 アルトリウス様の…体が…透けた…。」


セレナは震える手で胸元を押さえた。


「ええ…はっきりと。あれは…幻覚ではないわ。」


沈黙が降りる。


やがてセレナは、かすかな声で言った。


「…リアム。“ミリア・ローヴァ”という女性が記録に存在しない。なのに、あなたは明確に記憶している。」


リアムは喉の奥で言葉を噛みしめた。


「…前の人生で死んだ人たちが…“存在しなかったことになっている”ということですか?」


セレナは首を横に振る。


「それだけじゃない。だって…」


窓の外に視線を向け、静かに続けた。


「今日のおとう様…前の人生であなたが刺し殺したときの“致命傷の位置”と、同じところが透けて見えたのよ。」


リアムは全身に冷たいものが走った。


「…セレナ様。…この世界は…本当に二度目の人生…なんでしょうか。」


セレナは唇を噛みしめ、

しかしゆっくりと首を振った。


「…わからない。

 でも…何かが“壊れ始めている”のは確かね。」


二人は、声を出せないまま見つめ合った。


世界のひび割れの音が、

まだ誰にも聞こえないだけで——

すぐそこまで迫っているのを、確かに感じながら。


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