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2度目の世界で君は僕を殺さない  作者: ちょこだいふく


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14/22

14.不穏の始まり

夕暮れの庭は冷たい金色に染まり、剣の音がようやく止んだ。


レオンが腕を組んで言った。

「今日はここまでだ、リアム坊。」


荒い息を吐きながらリアムは膝に手をつき、頷いた。そのときだった。


視界の端に、白い影が立っていた。


(…誰?)


振り向くより早く、それは揺らめくように形を失った。風の中、淡く溶けて消える。


白いワンピース。

血の気のない顔。

胸を貫いた深い刃の跡。


——間違いない。

前の世界で、自分が殺した女性だった。


リアムの指が震える。

木剣を握り直す力が抜け、肩がかすかに揺れた。


「坊?」

レオンが眉を寄せる。


リアムは首を振り、無理やり笑った。

「…な…なんでもありません。」


だがレオンは目を細め、周囲を見渡した。


「…さっき一瞬だけだがな。気配が一つ、増えた。」


リアムの鼓動が跳ねる。


「気配…?」


「ああ。坊と俺以外に、誰かが立っていた気配だ。

…だが音も匂いもねぇ。あまりに不自然だった。」


リアムは息を呑んだ。

胸がぎゅっと縮む。


(やっぱり…あれは…)


レオンは木剣を地面に突き刺し、淡く笑った。


「まあ、気のせいかもしれん。だがな、坊。」


真っ直ぐにリアムの目を見る。


「最近のお前…何かに追われてる人間みたいだ。」


リアムの喉が詰まった。しかし何も言えない。


ほんの一瞬、風が吹き抜けた。


——そしてまた視界の端に“揺れ”。


今度は、塔の上で身投げする直前のセレナの背中が、一瞬だけ重なった。


リアムは反射的に振り向いた。


だが、そこには夕陽に染まる石壁しかない。


レオンは静かに言った。

「…坊。今日はもう上がれ。」


リアムは唇を噛み、深く頭を下げた。




その夜。

セレナは自室の机で帳簿を整えていた。


「…また数字がずれてるわね。」


整った筆致で書かれたはずの数字が、何度見ても

一桁だけズレている。


父からの報告書にも、手紙にも、なぜか同じ“誤差”がある。


以前はこんなこと、一度もなかった。


(…おかしいわ。お父様がこんな初歩的な計算ミスをするはず…)


ふと、視界の端に影が揺れた。


塔の窓。

かつて自分が身を投げた朝の光景が——

わずかに、透けたように見えた。


セレナはゆっくり顔を上げた。

だが窓の外には、静かな庭しかない。


「…幻覚?」


胸に、ざわりと冷たい波が走った。


そのとき、扉が軽くノックされる。

リアムの声だ。


「セレナ様…ご報告があります。」


セレナは姿勢を正し、声を整える。

「入りなさい。」


扉が開き、リアムが深く頭を下げた。

泣き出しそうな顔を必死に平静に保つ。


その姿を見た瞬間、セレナの胸にもまたノイズが走った。


(——この光景を、私は…前にも見た?)


いや、そんなはずはない。

これは“二度目の人生”の道筋。

そう思ってきたはずなのに——

何かがひそかに軋んでいる。


リアムが口を開く。


「…わかりました。思い出してしまったんです。

前の人生で…俺が殺した人のことを。」


セレナの胸に、先ほどの白い残滓がよみがえる。


数字のズレ。

窓に映った塔。

リアムの残像。


そして、今目の前のリアムの震え。


それらのすべてが“この世界がほんの少しずつ狂い始めている”と言っているようだった。


セレナは静かに頷き、リアムへと歩み寄った。


「詳しく聞かせて。…一緒に整理しましょう。」


セレナの声もまた、ほんの少しだけ震えていた。


まるで、ふたりの足元の“世界”がひび割れ始めているかのように。


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