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2度目の世界で君は僕を殺さない  作者: ちょこだいふく


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11/22

11.訓練と悪夢

木剣が何度目かの乾いた音を立てたころ、

リアムはもう息も絶え絶えだった。


「こら坊!腕で振るな、腰で回せ!腰だ!!」


レオンの怒号が空に響く。

その太い声は叱責というより、獣の咆哮のようだった。


それでもリアムは食らいついた。

足は震え、握力は限界。それでも前に出る。


――守りたいんだ。あの人を。


レオンの木剣が容赦なくリアムの脇腹を打ち抜く。


「ぐっ…!」


倒れそうになった瞬間、レオンの手が襟を掴み、

子犬のように持ち上げられた。


「まだ立てるな。いい顔だ、坊。」


レオンは口の端だけで笑った。


その笑みが、嬉しかった。




それからの時間は、ひたすら体を使う訓練だった。


握力が尽きるまで木剣を担ぎ上げる。

地面を這いずり回り、反射の訓練。

レオンが投げた小石を打ち落とす瞬発力。


まだ九歳の体には過酷すぎる内容だった。


だがリアムは、前の人生でもっと地獄を知っている。


(このくらい…このくらい……俺なら!!)


膝が砕けるまでやった。


レオンはそれを見て、煙草をくゆらせながら呟いた。


「…いい目をしてやがるな。しがみついてでも守る目だ。」



昼食後はセレナの部屋へ向かう。


ノックすると、セレナが振り返った。

金の髪がさらりと揺れる。


「リアム、今日もよく頑張ったわね。では、座って。」


彼女の前に置かれたのは分厚い本だった。


「今日は地理と礼儀よ。まず王都の地図から暗記してもらうわ。」


リアムは剣よりこっちが難しく感じた。


「え、えっと…こ、ここが…北の宿屋街で…」


「違うわ。そこは北商人街よ。」


セレナは優しく微笑むが、容赦はしない。


「従者は時に主人の“地図”にもなるの。迷った時、最短の道を示せなければならないわ。」


本を閉じると、次は礼儀作法。

セレナ自身がリアムの姿勢を正し、丁寧に教えてくれる。


「背筋が曲がってるわ。」

「はい…」

「声ははっきり。従者は“伝える人”でもあるのよ。」

「は、はい!!」


叱るというより、“育ててる”。


セレナの言葉はどれも優しくて、温度があった。


だからこそ、リアムは胸の深いところが熱くなる。



さらにその後、リアムは自主的な訓練を始めた。


片足で立ち、

目を閉じて重心を保つ。


(これくらいなら今の体でも…)


ゆっくり呼吸を整えながら、前の人生で培った暗殺者の“感覚”を無理のない範囲で再構築していく。


誰にも教わらなくても分かる。


人を守るには、まず自分の身体を扱えなければいけない。


レオンが遠くからそれを見ていた。


「…あの坊、どんだけやる気なんだ。こりゃあ、伸びるぜ。」


どこか誇らしげに呟いた。


その夜。


疲れ果てて布団に倒れ込んだリアムは、すぐに深い眠りへと落ちた。


すると暗闇の中で、突然“声”がした。


「……やめて。だれか…」


女性の声だった。

聞き覚えがあるようで、ないようで、水面に沈んだ記憶を掘り起こすような感覚。


(…誰?)


足音。

乾いた悲鳴。

刃が肉を裂く音。


リアムの右手に“重み”が生まれた。


自分の手が、血に濡れている。


「…っ!!」


リアムは跳ね起きた。

荒い呼吸とともに胸が上下する。


部屋は暗い。

誰もいない。


(今のは…)


夢だ。

ただの悪夢。


訓練で疲れているせいだ、と

そう自分に言い聞かせた。


だが、胸に残ったざらつくような感覚は、なかなか消えてくれなかった。


(…気のせい、だよな?)


そう呟きながら、リアムは再び布団に潜り込んだ。


眠りに落ちるまでに、いつもよりずっと時間がかかった。


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