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【閑話】E.O.S.あおはるトライアル(彼女視点Ver)

こんにちは、あいかです。

今回はちょっと“寄り道”して、1章エピソード44でちらっと出てきた、

あの学生カップルのお話を……彼女さん視点で描いてみました。

 

医療って、時々びっくりするくらい生活のすぐそばにあるし、E.O.S.も例外じゃなくて。

もし自分の大切な人が倒れたらどうするんだろう……

そんな問いが、彼女の胸の中に静かに落ちていく瞬間を、そっと追っています。


外来の日常の中に、小さな青春と、ちょっとした覚悟。

たまにはこんなお話も、いいですよね。

 外来処置室の消毒薬のにおいは、いつもより刺激が強く感じた。

 たぶん、私の心臓がさっきから落ち着いてくれないせい。


 換気口が低く唸り、検査台には謎の医療機器がずらり。

 皮膚電位計、生体反応センサー、局所温度モニター──

 全部、教科書でしか見たことない。


 そんな中で、彼は椅子にちょこんと座り、膝をぎゅっと閉じていた。

(かわ……いや、そんなこと考えてる場合じゃない)


 そこへ、例の三人が登場した。


 緑川唯さん。

 あいかさん。

 お美々さん。


 外来の“柔らかくて怖い三人組”。

 柔らかいけど、たまに怖い。

 今日は明らかに“怖い日”だ。


「じゃ、彼氏くん。深呼吸ね〜。大丈夫大丈夫、まだ触らないから」


(今の“まだ”って必要!?)


 唯さんの声は落ち着いているのに、絶妙にイジワル。


 



「まずは安静時の脈波と局所血流チェック。異常なければ刺激試験ね」


 唯さんが淡々と説明している横で、

 あいかさんは機器を丁寧にセットし、

 お美々さんは……ピピローションのボトルを軽く振っていた。


(やめてその仕草!!)


「じゃ、彼女さんもこっち来て。

 発症したら一次排泄誘導するのはあなたよ?

 大事な人なんだから、守り方は覚えておきましょ」


「えっ、わ、私が……!? あ、あの……」


 正論なのに、言い方の“ニヤッ”が全部台無し。


 耳が一瞬で熱くなるのを感じた。


 



 唯さんは、すっと指先で空中に線を描いた。


「まず、陰茎背静脈圧が上がると、ここに“逃がすライン”が出てくるの。

 外から軽く押し下げて圧を逃がしてあげる。握っちゃダメよ?破裂するから」


(破裂ってサラッと言わないで!?)


 彼の肩がビクリと跳ねた。


「でね彼女さん、処置するときは下着姿になっておくといいわよ?」


「!?!?!?」


「ほら、かかるから」


「か、かかる……って何が……」


 唯さんが黒い笑みを浮かべた瞬間、

 お美々さんがノリノリで追撃してきた。


「すんごく濃いのが、**ブシャーーッ!!!**って来るんです!!

 この前、先輩の防護エプロンに“どわぁっ”て!」


「お美々ちゃん、それを具体的に言うのやめなさい!!」


 あいかさんが慌てて止めに入る。

 でも完全に遅い。

 私の想像力は全力で駆け出していた。


(待って、そんな……私……そんなの浴びるの……?

 いやいやいや無理無理無理!!

 でも……彼の命が……?

 っていうか、私の服どうなるの!?)


 



「はい深呼吸して、彼女さん。

 これは全部“救命技術”なの。恥ずかしがってる場合じゃないわよ?」


「は、はい……!」


 唯さんの笑顔は優しいのに、内容が強烈すぎる。


 あいかさんがモニターを見ながら言う。


「発症初期は前立腺圧が急上昇するので、止めると危険。

 だから“出したほうが安全”と覚えてください」


(……“出したほうが安全”!?)


 その瞬間、彼の顔が青ざめた。


 そして私は……

 恥ずかしいのに、必死に理解しようとしていた。


(……助けるためなら……出すのが正義……?

 なにその概念……)


 



 低周波刺激が始まると、

 モニターに反応波形が現れ、

 彼の下腹部がわずかにぴくり。


「ほら彼女さん、可愛いでしょ?こういう反射」


「か、可愛く……は……ないと思います……!!!」


(なんで“反応”に対して私が赤くなってるの!?)


 お美々さんはにこにこ。

 唯さんは真顔で頷いている。


「いい反応よ。正常。

 こういうの、彼女さんが早く気づけると救命率がぐんと上がるの」


(救命率と羞恥心の同居……初めての感情……)


 



 そして極めつけ。


「じゃ、最後に──

 発症したら慌てずにちゃんと出す。

 これ覚えておけばいいからね」


「ひゃああああぁぁぁ!!」


 彼が青くなり、私は真っ赤になり、

 ナース三人は満足げに微笑んだ。


 



 検査が終わる頃、

 唯さんが優しく言った。


「あなた、本当にいい彼女さんね。

 本気で助ける気持ちがある子は、すごく強いのよ」


 その言葉に、胸がぎゅっとした。


「……はい。

 彼になにかあったら……ちゃんと……

 私、助けます……!!」


 彼はぽかんと私を見つめ、

 そのあと小さく笑って、頬を掻いた。


(……恥ずかしすぎたけど。

 でも……なんか……

 二人で未来の一部に触れた気がする)



~あいかと彼氏くんの、検査後の小さな密談~

検査が終わり、彼女さんが退出したあと。

男子学生だけが、気まずそうに外来処置室の前に立ち尽くしていた。


あいかがカルテをまとめながら顔を上げる。


「ん? どうしたの、彼氏さん。

 まだ聞きたいこと、ある?」


「あ……あのっ……その……」


言葉の尻が全部消える。

さっきまで堂々とモニターを覗いていた彼とは別人のようだ。


あいかは歩み寄り、手短に手袋を外す。


「大丈夫。医療の質問なら何でも言って。

 恥ずかしいって気持ちは分かるけど、

 E.O.S.の一次予防は“生活管理”が一番重要なの」


男子学生は意を決したように、深い息を吸った。


「……さっき言ってた、その……“サイクル管理”って……

 ほんとに、一日三回が……普通なんですか?」


あいかはモニターの余白にさらりと数値を書き込む。


「平均値の話ね。

 前立腺圧の基礎レベルを 1.0〜1.3域 に保つには、

 1日2〜3回の排泄サイクルが整ってるほうが安全。

 特にあなたみたいに反応指数が高めの人は」


「は、はぁ……」


(1日3回……いや、彼女に頼んだら……もしかしたら……

 いやでも、そんなの……え、でも……ワンチャン……?)


内心が露骨すぎて、顔に全部出ていた。


あいかがジトッとした目を向ける。


「……今、変なこと考えてるでしょ?」


「なっ……違っ……違います!!」


声だけは否定するが、耳まで真っ赤。

あいかは肩をすくめて笑う。


「まぁ、いいけどね。

 でも“お願いすればやってくれるかも”って発想はちょっと違うよ。

 これは医療的な“健康維持行動”だから」


あいかはペン先で彼の胸部のあたりを軽くトントンと叩く。


「あなた自身が、自分の身体に責任を持つ。

 そのうえで、どう上手にパートナーと協力するか。

 それが大事なの」


男子学生は俯きながら呟く。


「……でも……

 なんか、彼女……すごい真剣に聞いてて。

 僕より覚えてたし……

 なんか……ちょっと嬉しくて……」


「ふふ。分かるよ。

 “自分のために真剣になってくれる”って、いいよね」


あいかは壁のモニターを指差す。


「でもね、サイクル管理って、

 恋人に任せっぱなしじゃダメなの。

 まずは自分で“前兆”を把握すること。

 さっき唯先輩が言ってたでしょ?

 下腹部の鈍痛、背静脈圧の張り、皮膚温の微上昇……」


男子学生が思い出したように背筋を伸ばす。


「ま、また……あれ、来るんですか……?」


「来るよ?」

あいかはあっさり言った。


「だって、あなた反応指数 0.72 だったし。

 発症リスクは低いけど、溜めれば上がる。

 だから──」


一歩近づき、声を低く優しく落とす。


「無理だと思ったら我慢しない。

 “出すべきときに出す”。

 これは命に関わるから。」


男子学生は息を飲んだ。


(やばい……この人……こんな顔で“出す”とか言うんだ……

 いやいや違う違う、医療だ医療……!!

 でも……やっぱり……ちょっとドキドキする……)


心の中で大混乱。


あいかはくすっと笑った。


「顔に全部書いてあるよ?

 まぁ……彼女さん、きっと優しい子だから。

 ふたりで話し合って、無理なく続けてみて」


「……はい。

 なんか……その……

 頑張ります……!」


「うん。えらいえらい」

あいかは軽く彼の肩を叩いた。


「じゃ、これは検査の正式なアドバイスね。

 “1日2〜3回、痛みや違和感が出る前に排泄すること”。

 これだけ守れば、ステージ移行のリスクはほぼゼロ。

 彼女さんにも共有していいよ」


男子学生はこくこく頷く。


「あの……ほんとにありがとうございました……!

 あいかさんって……優しいんですね……!」


「えっ、いまさら?」

あいかは照れたように目をそらす。


「ま、まぁ……患者さんじゃなくて、検査の人だけど……

 守れる命なら、守りたいし。

 そのために教えてるだけよ」


男子学生は笑った。


「……なんか……彼女に早く話したくなってきました。

 一緒に……ちゃんとやらなきゃって」


「うん、その気持ちが一番大事。

 健康管理はパートナー戦ですよ?」


処置室のドアが開き、

唯とお美々が「もう帰るよー」と手を振ってくる。


あいかは軽く返事し、男子学生にラストメッセージを送る。


「じゃあ、今日のまとめ。

 出すタイミングを逃さないこと。

 彼女さんと協力すること。

 そして恥ずかしがりすぎないこと。

 これで完璧」


男子学生は耳まで真っ赤のまま深く頭を下げた。


「は、はいっ!!

 本当にありがとうございました!!」


彼は走って彼女のもとへ戻る。

そして、二人で小声で盛り上がりながら帰っていった。


あいかはその背中を見送り、ぽつりと呟く。


「……青春だなぁ……」



~ナース控室・E.O.S.女子会(本音)~


外来の片付けが終わったあと。

控室のソファに、唯・あいか・お美々の三人がへたり込んでいた。


お美々がミネラルウォーターを一口飲みながら、

ぽつりと、とんでもない方向にスイッチを入れた。


「ねぇ先輩たち……学生時代にさ。

 もし彼氏がE.O.S.にかかったら……

 その……“毎日3回の排液処置”とか……します?」


唯が即答した。


「面倒よね、正直」

「えっ、そんなサラッと!?」


「だって毎日よ? 三回よ?

 時間も体力も取られるし、生活リズム狂うし、

 こっちは課題とか実習とかあるしさぁ。

 ぶっちゃけ“情熱”より“現実的負荷計算”が勝つのよ」


それを聞きながら、あいかが急にむくっと起き上がった。


「私はするわよ!!」


唯とお美々が同時に固まる。


「……え?」

「……あいかちゃん……本気?」


あいかは胸を張った。

なぜか誇らしげで、そして謎のスイッチが入っていた。


「だって……好きな人が困ってるなら、支えるの当たり前でしょ?

 毎日3回どころか、4回でも5回でも……

 私でいいなら、好きなところ使っていいわよ……!!」


唯が思わず飲んでいたお茶を吹きそうになる。


「ちょ、待っ……あいかちゃん!?

 “好きなところ使って”って……言い方!!」


お美々は真っ赤になりながらバタバタと手を振る。


「あ、あいか先輩!? ここ病院ですよ!?

 いま完全に“恋愛脳スイッチMAX”になってません!?」


あいかは頬を染めながら、しかし妙に真剣な瞳のままだ。


「恋人を支えるのは医療と同じよ。

 適切な頻度で排液誘導して、健康を保つ……

 ぜ、全然……恥ずかしいことじゃないし……」


唯がため息をつきながら、お美々の肩を軽く叩く。


「……まぁ、あいかちゃんは“守りたい対象”ができると

 途端にバイタル全部振り切るタイプだからねぇ」


「ですね……愛が強すぎて、数値に出そうです……」


あいかはしゅんとしたり、また胸を張ったり忙しい。


「二人とも、何よその目……!

 いいじゃない、私は本気なんだから!」


唯とお美々が顔を見合わせ、同時に吹き出した。


「はいはい、“恋愛期ステージ3”ね」

「記録しときますね。患者:あいか先輩」


「やめてぇぇぇ!!」


控室に三人の笑い声が響いた。

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