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第13話 「白と黒の選択 ―③」

 すでに三人分の処置を終えたヘブンズゲート科の処置室は、

 酸素と消毒薬と汗の匂いが混ざり合って、空気が少し重くなっていた。

 モニターの電子音が、規則と不規則を行き来しながら、今ここにある命の数を告げ続けている。


 五鈴あいかは、フェイスシールドの縁を軽く押さえ、深く一度だけ息を吐いた。

 呼吸を整えるというより、「まだいける」と自分に言い聞かせるような間合いだった。


「五鈴さん、水分……」


 看護師がペットボトルを差し出す。

 あいかは首を横に振った。


「あとでまとめて飲む。今は口を湿らせると、声が切れるから」


 そう言って、うがいだけして戻してしまう。

 喉の奥はすでに焼けるように乾いていたが、それでも声はまだ出る。


 そのとき、天井スピーカーが悲鳴のように鳴った。


【救急車両五台、同時到着。ヘブンズゲート科、急患対応準備】


 処置室の空気が一気に張りつめる。

 誰かが小さく息を呑む音が聞こえた。


「トリアージ室から情報入ります!」


 スタッフがタブレットを掲げて読み上げる。


「推定ステージ2後半が一名、2前半一名、1後半三名!

 2後半と2前半は、この処置室に直入り指示! 1後半は一般救急と連携の上で分散!」


「ベッド足りません!」


「動線、どうします!?」


 声が一瞬、混線しかけたその中心で、あいかが一歩前に出た。


「二台、こっちに。処置台を並べて。右と左、両サイドで私が診る」


「同時ですか!? 五鈴さん、一人で……」


「やる。ここで散らす方が危ない」


 ためらいを切り捨てるような声だった。

 その言い方が、誰かによく似ていると、古参のラボスタッフは胸の奥で思う。


「芽瑠るん」


 あいかが後ろを振り返る。


「はい、あいあい」


「モニターと膨張度センサーの読み上げ、両方お願い。

 声、きつかったら指も使っていいから、絶対飛ばさないで」


「……了解。声はまだ、なんとか」


 芽瑠の声は、すでに少し掠れていた。

 連続する観察と記録、読み上げ。

研究職でありながら、今日はほぼ前線に立ちっぱなしだ。


 ストレッチャーが二台、扉を割って流れ込んでくる。

 金属音、隊員の掛け声、患者のうめきが重なり合った。


「推定ステージ2後半! 膨張度、さっきから上がりっぱなしです!」


「こっちステージ2前半! でも、進行速い!」


「右ベッドに2後半、左に2前半入れます!」


「了解、搬送!」


 次の瞬間には、二人の患者がそれぞれの処置台に移されていた。

 あいかは中央に立つ。

 右と左、二つのベッドの間――わずか一歩で行き来できる距離。


「右側、意識状態!」


「反応あります! 痛み刺激にも反応あり!」


「左は!」


「左、呼びかけに応答あり、でも焦点が合ってません!」


「芽瑠るん、読み上げ!」


「右:血圧88の54、脈142、呼吸36! 膨張度、基準値の1.3倍!

 左:血圧96の60、脈130、呼吸31、膨張度1.1!」


 掠れた声で、それでも正確に数値が飛ぶ。

 あいかは右に一歩、左に二歩、そのたびジェルトレイに手を伸ばす。


「右、六時方向に一番圧が逃げてる。ジェル増しで抑えて!

 左は八時方向、熱のピンポイントを潰す感じ!」


「了解!」


 看護師たちの手が、あいかの声に追従する。

 ジェルが滑り、皮膚温が変わる感触を確かめる。


「右、痛みどうですか!」


「ぅあ……破裂、する……!」


「破裂させません! させないために、今ここにいるの!」


 あいかは声を張り、患者の視線を真っ直ぐ受け止める。

 左へ半歩移りながらも、その目は一瞬たりとも揺れない。


「左、呼吸が浅い! スンスンは禁止、スーーンで!」


「スーーン……?」


「そう、それです! 今の、すっごくいい!」


「芽瑠るん、再読み上げ!」


「右、血圧84の50、脈146、呼吸38、膨張度1.4に上昇!

 左、血圧92の58、脈128、呼吸30、膨張度1.15!」


「右先行、フェーズ1即入る! 左も準備だけして待機!」


「薬液準備、右側完了!」


「ライン確保、右腕いきます!」


 針が刺さる。

 助手の指がわずかに震えるのを見て、あいかは短く声を飛ばした。


「大丈夫。いつも通り。ここにいる全員、いつも通りやればいい」


 一言で、震えが収まる。

 薬液がラインを流れ始める。


「右、フェーズ1投与開始」


 モニターの波形が暴れ、数秒の緊張が室内を支配する。


「……呼吸、どうですか!」


「ちょ、ちょっと……楽……」


「よし、そのまま。痛みの波が来たら、声にして全部ここに投げて」


 左に身体を回す。

 右の状況を耳で聞きながら、左の患者の皮膚温を指先で拾う。


「左、ジェル足し。八時から十時にかけて、薄く伸ばす」


「了解!」


「芽瑠るん、左だけもう一回」


「左、血圧94の59、脈126、呼吸28、膨張度1.13。

 上昇速度は緩やか、でも油断すると跳ねます」


「跳ねる前に押さえる。フェーズ1、左も入る準備」


 あいかの声は、もう自分の喉の状態を顧みていない。

 ただ、目の前の数値と体温と呼吸と声だけを軸に動いている。


「そこの救急隊員さん」


「はい!」


「ステージ1後半の三人は、一般救急とヘブンズゲート科の観察ベッドに分けて。

 ここはステージ2を落とさない場所にする」


「了解!」


 院内に運び込まれた患者は、院内で受け止める。

 外の拠点は外で、今も別の波とやり合っている。


 その様子を、処置室の後方で見ていた古参のラボスタッフが、

 無意識に背筋を伸ばした。

 白衣の胸ポケットには、古い研究会の名札が差しっぱなしになっている。

 そこにはかつての名が記されていた。


 ――緑川ゆい。


(あの子……完全に、あの人の現場の声になっている)


 そう思った瞬間、あいかがふっと顔を上げた。

視線は患者ではなく、処置室全体――ここにいる全員を一度に見渡す位置へ。


「みんな――」


 それは、自分を鼓舞する言葉であり、

 この場の空気をもう一段上げるための号令だった。


「みんな、気合よ!!」


 びり、と空気が震える。

 喉は焼けているはずなのに、その声ははっきりと通った。


「男は、詰まれば死ぬの!!」


 誰も笑わない。

 誰も、下世話な意味には取らない。

 ここにいる全員が、その言葉の医療的な重さを知っている。


「抜いて……抜いて、私達はとにかく抜くよ!!」


 膨張した圧を、リスクに変わる前に下げ切る。

 それが、ヘブンズゲート科の役割だ。


「「はいっ!!」」


 複数の声が重なり、処置室の温度が一段上がる。

 手袋の音、カートの車輪、モニターの警告音。

 すべてが、ひとつの方向へと揃っていく。


 古参のラボスタッフは、その姿を見つめながら、

 喉の奥で小さく言葉を零した。


「……緑川の、ゆいちゃん……」


 あの頃、データの向こう側でしか知らなかった現場の熱が、

 今、目の前で再現されている。

 いや、きっと継承されていたのだ。


 処置室の扉の向こうでは、さらにストレッチャーの足音が近づいている。

 救急車両五台同時到着――

 その最初の山を、ヘブンズゲート科の処置室は今、越えようとしていた。


 ◇


 ヘブンズルームのドアが内側から閉まると、外のざわめきが一気に遠くなった。

 小さな空調音と、機械のファンが回る低い唸り。

 密閉された車内には、消毒薬とわずかな金属の匂い、それに温保持ジェルの独特な匂いが混ざっている。


 車両中央に処置ベッドが一台。

 もう一台分のスペースはあるが、今は畳まれた状態で壁側に固定されている。

 お美々は、そのベッドの脇でモニターの光度を調整しながら、胸元の名札をぽんと軽く指で叩いた。


(よし、まだいける。ここが、わたしの戦場)


「次の患者さん、どうぞー。段差、気をつけてくださいねー」


 隊員に支えられながら乗り込んできたのは、二十代前半くらいの青年だった。

 フード付きパーカーに細身のデニム、髪は少し伸びかけ。

 顔色は悪いが、目の奥にはまだ若さ特有の余裕が残っている。


「ど、どうも……ナースさん……」


「はーい、いらっしゃいませ、ヘブンズルームへ♪ じゃ、まずここに仰向けで」


 お美々は、軽い調子のまま、しかし手の動きだけは素早く。

 ベッドの角度を少し下げ、車両の揺れに合わせてストッパーを確認する。


(ステージ1初期……膨張の波も浅い。だけど、このまま放置すると嫌な方向に進むタイプ)


 膨張度センサーが、青年の腹部周辺を淡い光でなぞる。

 モニターには簡易グラフと数値が表示された。


「数値チェックしまーす。名前、だけ教えてください」


「や、山城……です……」


「山城さん。オッケー。今ね、身体の“頑張り具合”を見てます」


「が、頑張り……」


「そう。何もしてないようで、体内はけっこうバタバタしてるんですよー」


 お美々は温保持ジェルユニットからカートリッジを取り出し、手のひらで温度を確かめてから、青年の腹部にそっと押し当てた。

 車両のわずかな揺れに合わせて、指先の圧を微調整する。


「ひっ……ちょっと、冷たいかと……」


「そこは“気のせい”ってことにしておきましょう♪ はい、呼吸は浅くていいです。

 深呼吸しようとすると、余計怖くなる人、多いので」


 ジェルが皮膚の上で広がり、膨張している箇所とそうでない箇所の温度差が、指先に伝わる。

 膨張度ピクセルセンサーの数値と、お美々の感覚が揃っていく。


「角度……いいですねー」


「か、角度……?」


「そう。人ってね、怖くなると前のめりになって、自分を守ろうとするんです。

 でも、ちゃんと戻れる人は、“帰ってくる角度”を持ってる」


「俺……帰れてます?」


「はい、いま、ちょうど素敵な角度ですよ♪」


 お美々の声は、車両内の狭さに少しだけ柔らかく響く。

 青年の喉の上下が、さっきよりゆっくりになった。


「ステージ1初期。膨張度、軽度上昇。排液量はまだゼロ、粘度指数は低め」


 お美々はモニターに目をやりながら、独り言のように確認する。


「うわ……そんな細かく見えるんですか……」


「はい。文明ってすごいでしょ♪

 普段から彼女さんと仲良くしてれば、大丈夫よ」


「か、彼女……!」


 青年の耳が、わかりやすく赤くなる。

 お美々は、その反応に小さく笑った。


「え、図星?」


「……まぁ、その……一応、いますけど……」


「一応って何。その言い方。

 ね? こういう時に“守られてる”って感じられる人がいるの、強いことですよ?」


 少しだけ、体勢をベッドの側面に寄せる。

 車両が小さく揺れるたび、彼女の身体もふわりと動く。

 青年の視線が、ごく自然にお美々の方へ引き寄せられてくる。


「山城さん、今いちばん大事なのはね――」


 お美々は、ジェルを軽く押し込みながら、声のトーンをほんの少しだけ落とした。


「身体を痛めつける“無理な頑張り方”じゃなくて、ちゃんと“気持ちよく続けられる頑張り方”を覚えること。

 仕事も、プライベートも。いろいろ、ね?」


「い、いろいろって……」


「彼女さんと仲良くするのも、ちゃんと“角度”大事なんですよ♪」


 青年の顔がさらに赤くなる。

 しかし、その表情にはさっきまでの恐怖とは違う、“生きている困惑”が宿っていた。


(やっぱり若いと、反応が素直でいいなぁ……悪くない角度)


「じゃ、山城さんの頑張りをちょっとだけお手伝いします。

 フェーズ1の軽いお薬、いきますね。身体の内側の『変な焦り』だけ落としてくれるやつ」


 お美々は、排液バランサーの設定を最低レベルに合わせ、ラインを接続した。

 車両の揺れにあわせてチューブをずらし、針がぶれないように手首で角度を固定する。


「チクッとしますよー。はい、今の力み、可愛いですね♪」


「かわっ……」


 薬液が入り始めると同時に、モニターの波形が少しずつ整っていく。

 青年の胸郭の動きが穏やかになり、額に浮いていた汗が、じわりと乾いていく。


「……なんか、さっきより……落ち着きました……」


「はい、角度、安定しました♪

 山城さんの“素敵な角度”、ちゃんと覚えましたから、次来た時も思い出せますよ?」


「次……できれば、来たくない……ですけど……」


「その時は、“彼女さんと仲良くしてました”って報告、セットでお願いします♪」


 青年が、思わず笑ってうつむいた。

 その笑いは、命の危機からではなく、照れから生じたものだった。


(うん、ここまでくれば大丈夫。あとは観察ラインで)


「はい、山城さん、今日の診断――“素敵な角度、保持できるタイプ”でした♪

 お疲れさまでした」


 青年が車両の階段を降りていくのを見届けると、お美々は一度だけ肩を回した。

 外の光が差し込むわずかな隙間が、ドアの縁から細く伸びる。


「よーし、次」


 インカムが小さく震える。


【外拠点ヘブンズルームへ。商業施設内スタッフ一名搬送中。ステージ2後半、進行早い。漏れあり】


「了解。ベッド準備しまーす」


 声の明るさはそのままに、表情だけが一段引き締まる。

 畳まれていた隣の簡易台を少しだけ開き、機材カートを手前に寄せる。


(ステージ2後半、漏れあり……本気でかかってこいって感じね)


 ドアが開き、制服姿の男性が担ぎ込まれてきた。

 四十代前半、商業施設の店員らしく、シャツの胸元には店のロゴが付いている。

 顔は汗で濡れ、唇がわずかに震えていた。


「ナ、ナースさん……す、すみません……仕事中で……」


「お仕事中に来てくれてありがと♪ ここ、あなたが倒れるよりずっとマシです」


 お美々は一気に体勢を整え、ベッドの角度をやや高めに設定する。

 車両が少し揺れ、そのたびに固定具がわずかにきしんだ。


「ステージ2後半、膨張度上昇速いです!」

 隊員がモニターを覗き込みながら言う。


「漏れも継続中!」


「了解、排液バランサー起動。圧、上限ギリギリまで許容量アップ。

 温保持ジェル4番、深部用に切り替え!」


 機材のランプが一斉に点灯し、ヘブンズルームがほんの少し唸りを増す。

 お美々は腹部の膨張域を確認し、指先で圧の方向を読む。


「ナースさん……これ、やばいやつ……ですか……」


「“やばいからこそ、ここに来た”ってことです♪」


「でも、なんか……漏れてる……感じがして……」


「はい、その“なんか”が一番危ないんです。

 でも大丈夫。ここ、そういう“なんか”を整えるための車両なので」


 車両がカーブを曲がる振動を受けながら、

 お美々は微圧制御パッドを膨張域の周囲に配置していく。

 パッドの内部では空気圧が細かく変動し、膨張した圧を一定方向へ逃がさないよう制御している。


「角度、少し変えますね。今のままだと、漏れが流れたい方向に身体が傾いてます」


「そ、それ……やばい……?」


「“もったいない”って言ってもいいくらい、良くない方向です♪」


 ベッドの角度を数度だけ調整し、男性の脚の位置を変える。

 膨張度センサーのグラフが、わずかに傾きを変えた。


「血圧、82の48。脈150。呼吸40!」


「膨張度、基準の1.6倍!」


「フェーズ1じゃ足りない。準備だけフェーズ2まで持っておく。

 でも、いきなり強くは入れない。漏れのペースと合わせる」


 お美々の声は、少し早口になったが、決して荒れない。

 モニターと患者の表情と、車両の揺れ、すべてを同時に掴んでいる。


「ナースさん……俺……店、戻れますかね……」


「戻る前提で話しましょう♪」


「でも、迷惑……」


「迷惑かどうか決めるのは、あなたじゃなくて、あなたを待ってる人です」


 お美々は、排液バランサーの出力をほんの少しだけ上げた。

 機械音が低く唸り、モニターのグラフがわずかに安定方向へ傾く。


「はい、漏れのペース、少しマシになってきました。

 今から軽めにフェーズ1。身体が“これなら耐えられる”って思えるレベルで」


「そんな調整……できるんですか……」


「できますよー。わたしたち、そういうのばっかり考えてるので♪」


 車両の天井に取り付けられたライトが、男性の額の汗を照らす。

 お美々はその汗の量と質も、ひとつの指標として見ていた。


「じゃ、いきます。今の角度、めちゃくちゃいいです。

 “逃げたい気持ち”と“戻りたい身体”が、ちゃんと喧嘩してる角度」


「それ……いいのか悪いのか……」


「いいんです♪ 喧嘩してるってことは、どっちも生きてるってことですから」


 薬液がラインを通り、身体の内側へ流れ込む。

 膨張度のグラフが、わずかに揺れてから、少しずつ下向きに転じた。


「血圧、88の52。脈140。呼吸34。膨張度1.4!」


「よし、そのまま。漏れの感覚、どうですか?」


「……さっきより……マシになってきた……気がします……」


「その“気がする”は重要です。

 人間、悪い方にはすぐ確信するのに、良くなってる時は“気のせい”って言いがちなので♪」


 男性が、苦笑とも安堵ともつかない表情を浮かべた。


「……お姉さん……」


「はい?」


「さっきから、ずっとしゃべってくれてるの……ありがたいです……」


「沈黙って怖いですからね。ここ、静かになると機械の音だけになっちゃうので。

 それだと、何か起きそうな予感しかしないでしょ?」


「……たしかに……」


「大丈夫。今は、“いい感じに抜けてきてる音”しかしてませんよ」


 ヘブンズルームの機材音が、ほんの少し優しく聞こえる。

 男性の肩から力が抜け、呼吸が深くなる。


「はい、今日のあなたの角度――“頑張りすぎてた大人の角度”でした♪」


「……なんすか、それ……」


「褒め言葉です♪

 ちゃんと頑張ってたから、ここまで膨らんじゃったんですもん」


 お美々は、最後にもう一度モニターを確認した。


「膨張度1.3。下降継続。漏れもほぼコントロール。

 これなら、店に戻って“ちょっと休憩します”くらいの言い訳はできますね♪」


「……店長、信じてくれますかね……」


「その時は、“ヘブンズルーム行ってきました”って名詞を出しましょう。

 いま、この街で一番、休暇願いに説得力のある単語です」


 男性が、声を出して笑った。

 その笑いは、さっきまでの苦痛の表情をゆっくりと押し流していく。


 車両のドアが開き、外の光と音が戻ってくる。

 お美々は、見送りながら小さく手を振った。


「お二人とも、“素敵な角度”でした♪」


 外の喧騒とは別の温度で、ヘブンズルームの中はまだ、機材の熱と人の気配で満ちている。


(院内も、きっと今頃、もっと修羅場なんだろうな)


 お美々はインカムにそっと触れた。


「こちらヘブンズルーム。外拠点、まだ角度保ててます。

 そっちも――抜き切ってくださいね、あいか先輩……」


 密閉された車両の中で、彼女の声だけが、少し誇らしげに響いていた。



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