表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/28

第14話 「ジェル在庫ゼロ」~そしてハンドシェイクへ~

朝から物資倉庫の前で、お美々が冷却棚にしがみついていた。目はうるうる、声は震え気味。


「……あいか先輩……ジェル、あと二本しかない……」

「えっ!? 昨日は六本あったよね!?」

 在庫表には真っ赤な文字。《夜間緊急処置 四本消費》。


 お美々は半泣きで説明する。

「増幅剤反応レベル七の人が三人も来て……ジェル、もりもり使っちゃって……」

「“もりもり”って表現やめよ?」


 そこへ、髪が跳ねまくった寝不足のゆぃゆぃ先輩が、ゆらっと登場。

「おはよー……なんで朝からそんな顔?」

「ジェル、二本です!」

 先輩の目がキラリと光る。

「じゃああいかちゃん、胸で――」

「やめましょう!? その言い方やめましょう!?」

「冗談よ。手技でいけば済むでしょ」


 言い終わる前に、緊急通信が鳴った。

《搬入口到着 増幅剤反応ステージ2》


「ステージ2って……ジェル一本半必要じゃん」

「二本しかないのに……どうするんですか先輩」


 ゆぃゆぃ先輩は悪役顔の笑み。

「決まってるでしょ。今日は――ハンドシェイクよ」

「その名称……改めません!?」


 


 処置室には、既に限界に近い患者。バイタル圧は急上昇、下腹部の脈動で金属ベッドが微かに揺れる。皮膚色は赤く、張力で表面がわずかに光って見える。


「ジェル無し。圧監視と時間管理お願い」

「了解……いやほんとに手技オンリー?」


 ゆぃゆぃ先輩は手指消毒して手袋を外す。直接触れた瞬間、温度と血管反応を確かめるように指先がわずかに動く。


「まずは脈波に合わせて誘導。リズム乱さない」

 一定テンポ、しかし呼吸と心拍に合わせて微妙に速度調整。さすが“現場十数年の手技屋”。


「バイタル圧2.9域から上昇」

「ここで一度緩めて……再誘導」


 患者の筋反射が跳ねる。私たちはモニターから目を離さない。

 お美々がぽつり。

「これ……医術ですよね。いや、医術という名の……」

「続ける気なら今止めて、お美々」


 圧計が閾値で点滅を始めた。皮膚表面の張り、毛細血管の充血、限界サイン。


「……あいかちゃん、ラスト十秒カウント」

「十、九、八……」

 先輩の指先が一気に加速。一定リズムを崩さず、圧抜きの最適点を狙う。


「三、二、一……解放!」


 バイタル圧が一気に下降し、患者の呼吸が落ち着く。モニターの警告音が止まった。

 ゆぃゆぃ先輩は手を洗いながら涼しい顔。


「ほら。ジェルなんて無くても命は繋がる。手で救うのが私たち」

「名言っぽいのに、語彙がひどいです先輩……」

「医療は現場力よ」


 


 その時、物資管理端末が警告音を発した。

《冷却ユニット 温度異常検知》


 ジェルが不足しているだけじゃない。保存設備まで危険信号。

 お美々が青ざめる。


「……これ、詰んでません?」

「詰む前に手技で凌ぐ」

「先輩、それ医療者のセリフですか……」


 思わず笑ったが、胸の奥に冷たい予感が残った。

 物資が尽きれば、救える命も尽きる。

 次の危機は、もう目の前だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ