正式名称はEjaculate Overload Syndrome
西暦2200年。
地球の人口は、かつての70億からおよそ35億にまで減少していた。
戦争や環境破壊の影響もあったが、最も深刻な原因は、ある奇病の蔓延だった。
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そんな時代のとある病院でのお話
西暦2200年。
地球の人口は、かつての70億からおよそ35億にまで減少していた。
戦争や環境破壊の影響もあったが、最も深刻な原因は、ある奇病の蔓延だった。
正式名称はEjaculate Overload Syndrome──略称E.O.S.。
俗に「新型精液過多症」と呼ばれるこの疾患は、21世紀初頭に世界を震撼させた新型コロナウイルスの遠縁にあたる変異株が、数百年を経て形を変え、男性だけを蝕む致命的な病へと進化した結果だ。
E.O.S.の病態は単純かつ残酷である。
患者の陰茎は神経系の暴走によって無意識に勃起を繰り返し、やがて制御不能の射精発作に至る。発作が始まれば、ほぼ24時間途切れることなく射精を続け、数時間から数日のうちに体力を使い果たし、多臓器不全で死に至る。
この状態を俗に「破裂」と呼び、医療関係者にとっても見慣れることのない、悪夢のような終末像だった。
病状は4つのステージに分類される。
ステージ1:自覚症状は軽度。1日あたり3〜5回の射精で症状を抑えられる。
ステージ2:自力での処理が難しくなり、医療的介入(ジェル処置)が必要。
ステージ3:発作の間隔が数時間未満に短縮。体力消耗が激しく、常時管理が必要。
ステージ4:破裂状態。延命はほぼ不可能。安楽死が選択されることも多い。
治療法は未だ確立していないが、症状の進行を抑える唯一の方法が「ジェル薬品」による処置だ。
これは特殊な生理活性物質を含む透明の粘性液で、外部から患部に塗布することで過剰な精管収縮を促し、古い精液を効率よく排出させる。
しかし、このジェルは誤った使い方をすれば血圧低下や心停止を招くため、**国家資格「ジェル資格」**を持つ医療従事者のみが扱える。
国内で資格を持つのは全看護師の1%未満──つまり、100人に1人程度しか存在しない。