第一話 妹、死す
文才炸裂!!
※Scratch:ビジュアルプログラミング言語。対象年齢は12歳ぐらいまで。男子高校生がガチるのはちょっと恥ずかしい。別に批判しているわけではない。Scratchは教育目的のものであり、未来のエンジニアを育成し得るものです。男子高校生もがガチってもいいと思います。
俺は冴えない男子高校生。普通の男。特に特徴もなく、クラスでの立ち位置は中の下くらいだ。
俺は毎日、特筆することもない普通の平和な生活を送っている。しかし、どうだろうか。このままで将来優しいお嫁さんと結婚してウハウハ生活を送れるのか……不安に思いながら日々を過ごしている。
今日も特に面白いことはなかった。席替えがあったのだが、隣の席になった女はちょっと会釈したぐらいですぐにほかの女子と話していた。はい、終了。俺のスクールライフも相変わらずの無風地帯だ。
家に帰っても、特に変わったことはない。俺の部屋は二階の東側、机の上には昨日開発していたScratchのコードがそのままだ。最近、ちょっとしたゲームを作るのが趣味になっている。まあ、誰にも見せないけどな。冴えない俺の、唯一の居場所。
そんなある日。いや、今日の話だ。
「兄ちゃん、ちょっと来てくんない?」
妹の由奈が俺の部屋のドアをノックして呼んできた。由奈は俺の二つ下、中学三年生。明るくて友達も多く、クラスでも人気者タイプ。なんでそんな奴が俺の妹なのか、DNAの気まぐれにも程がある。
「何?」
「ちょっと、見せたいものがあってさ」
リビングに連れて行かれると、そこには何やら見慣れないノートパソコンが置かれていた。黒くて、やけに無機質。まるで……そう、軍用みたいな見た目だった。
「これ、どうしたんだよ?」
「拾った」
「いやいやいやいや」
「駅のロッカーに入ってたの。開けたら……これだけあったの」
普通なら警察に届けろって話だ。でも、俺たち兄妹は、普通じゃなかったのかもしれない。
ノートPCを起動してみると、何やらScratchらしきプログラムが起動した。だが、それは俺が知ってるScratchとは違った。
黒背景。赤いブロック。明らかに異常なインターフェース。しかも、マウスカーソルを合わせると、「対象:生命体」と表示される。
「……これ、マジでやばいんじゃねえの?」
「うん。でも、兄ちゃんならわかるかと思って」
わからん。わからんが、気になる。画面中央には、シンプルなボタンが一つ。
【実行】
俺たちは、なんとなく。それこそ、本当に軽い気持ちで、それを押した。
次の瞬間、由奈の体がバタン、と崩れ落ちた。
「え……?」
心臓が止まる音が聞こえた気がした。呼吸も、脈もない。目も、動かない。
「おい……由奈? おい、嘘だろ……?」
ふざけてる、ドッキリ、そう思った。でも、そうじゃなかった。俺は妹を、殺したのだ。
Scratchで。
だが──その瞬間だった。
画面が赤く染まり、無数のコードが自動で走り始める。
【対象を確認。コード認証完了】
【“Scratchコード実行者”の適性を確認】
【最強スキル《コードマスター》付与】
【世界書き換え権限、一部解放】
何が起こったか、理解する前に、俺の頭の中に、膨大な知識が流れ込んできた。
量子演算。時空間制御。言語構造の崩壊。再構築。
──俺は知った。
このPCは、“世界を変える”ためのツールだったのだと。
そして、妹の命は、その代償だったのだと。
……こうして、冴えない男子高校生の俺は。
妹を殺したことで、Scratchで世界を無双できる力を手に入れた。
次回、「姉、死す」