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佐々木優華のバレンタイン(2)

(1)の続きです。

一時間目に二時間目、昼休みに午後の授業・・・。

結局私は一日中、誠にバレンタインの「バ」の字すら切り出せず、

手作りチョコを渡せないまま放課後を迎えてしまった。


たかが幼馴染みに義理チョコ渡すだけだってのに、私は何をこんなに

躊躇してんだろう? 

放課後まで何も言えずに、ずっとチョコを鞄の中に入れたままの自分が

不思議で堪らなかった。

いつもみたいに「まーことっ♪」て、背中の一つでも叩いてやって

「モテないアンタの為に、優華ちゃんがチョコ作ってきたわよ~」と

渡せばすむだけなのに、どうして今日に限ってそれが出来ないんだろう?


・・・私、もしかしてバレンタインの魔法に掛かっちゃったのかしら?



放課後の教室には、いつもより多くのクラスメイト(ほほ男子)が残っていた。

授業終了のチャイムが鳴ると同時に教室を飛び出すお調子者も、

「塾があるから」と言って、いつも付合い悪く帰っちゃうガリ勉君も、

今日は不思議なことに、みんな放課後の教室に残っていた。


ま、そんな連中の狙いなんて面白いぐらい丸分かりなんだけどね。

どうせ今日の今までチョコ貰えなかったから、放課後という時間に

最後の望みを託しているんでしょ? 

男子の割合に対して圧倒的に少数しか残ってない私を含めた女子の誰かが、

「ねぇ○○君、ちょっといいかな?」なんて言い出す展開、期待してんでしょ?

甘いわ! チョコだけに!! 残念ながらね、今教室に残っている女子は全員、

アンタらにあげるチョコなんか持ち合わせていないわよ。

みーんな(誠にあげようと思ってる私は例外だけど)昼休みに

アンタらが憎む『友チョコ』をあげあっていたんだから。

たぶん男子にあげようなんて考え、彼女らの頭には全くなかったはずよ。

それなのに・・・

雑談の隙間隙間にさり気なく甘い物の話題を入れたり、やたら女の子の近くで

熱心に勉強するふりをしたりと・・・

モテねーズの無駄な努力は、見ていて涙ぐましいものがあった。


そうまでしてチョコを待つ姿・・・。アンタら、ある意味尊敬に値するわ。

まるでかの有名な忠犬ハチ公みたいよ。

待ってるのが「飼い主」じゃなく「チョコ」てのは、どこか不純な気もするけど・・・。


一方そんな忠人チョコ公もといモテねーズとは、どこまでも対照的に

バレンタインという一大イベントにドライな男もいた。

それこそ何を隠さなくても、私の幼馴染みことスーパー石頭『藤村誠』なんだけど

まぁ、今日一日の誠のドライっぷりにはホント驚かされたわ。

だって、一日中クラスの浮ついた雰囲気など知らぬ顔で勉強勉強。

休み時間になってクラスの雰囲気がますます浮つこうと、構わず勉強勉強。


ああもう、アンタは勉強以外にすることはないのっ!?


今日一日で、いったい何度こうツッコもうかと思ったことか。

これじゃ、私じゃなくてもチョコ渡せる機会なんてないじゃないの?

もし、億が一にも誠にチョコ渡したいなんて子がいたら、誠はどうするつもり

だったのかしら? ・・・って、そんな物好きいるわけないか。

億が一の物好きは、きっと私ぐらいのもんね。いらない心配か。 


とはいえ、このまま誰も渡さないからって、私も誠にチョコを渡さないわけには

いかなかった。だって手作りなのよ、私のチョコ。せっかく作ってきたのに

渡さないままなんて義理だとは言え、私とカカオが浮かばれないじゃない!

もう決心が付くとか、付かないとか悠長なこと言ってる場合じゃないわね。

決めた、今決めた。私、誠にチョコ渡す!


カチッ!

私の中で急にスイッチが入ったみたいだった。

何か極道の人みたいで嫌なんだけど、人間って一度腹を括ると、そうそう

ぶれなくなるものなのね。

もうさっきまでの緊張も恐れも、「どうにでもなれー!」となった私は

相変わらず参考書と格闘する誠のもとへ一直線に歩み寄った。


私が誠のもとに行くと、野次馬達が「おお・・・」とか声漏らしていて

私の一挙一動に目を光らせていた。何だか居心地が悪いけど、せっかくついた

決心をこんな野次馬のために先延ばしにしてしまうのは嫌だったから、私は連中の

ことなど気にせずに、黙々と勉強する誠に声を掛けた。

「ねぇ、誠」

私が声を掛けると、誠はカリカリ動かしていた右手の動きをピタッと止め

怪訝そうな面持ちで顔を上げた。

「どうしたんだ優華?」

じっと見詰められる視線に、私は一瞬ドキリとした。

そんな心の乱れが、次に発する私の言葉をたどたどしいものにした。

「あ、あのさ・・・今日一緒に帰らない?」

いつもなら難なく言えるはずのこの言葉が、今日に限って何故かぎこちなかった。

声のトーンもどこか控えめ。頬の筋肉も強張って表情は硬かった。


ああもう、どうしたんだろ私。別にイケメンを目の前にしてるわけでもないのに

どうしてこんなに緊張してんのよー!? 相手は誠じゃないのー!

私は今にも破裂しそうな胸で、誠の返事を待った。

他の野次馬達も誠がどう返すのか、ただそれだけに注目していた。

・・・てか、アンタらは見るなっちゅーに。


誠は数回の瞬きの後、答えた。

「別にいいけど。もう夕方だし、僕もそろそろ帰ろうかなって思ってたとこだ」

私は誠のOKに、思わず「よし」とガッツポーズをしてしまいそうだった。

けど誠の前で、そんな恥ずかしいこと出来るわけないのでガッツポーズは

心の中だけ。表面上は、あくまで余裕ある感じを演じた。

「そう。なら私、校門に先行ってるから。早く来てね」

「了解」

誠はそう言って、親指をぐっと立てる。

私はそんな誠にニッと笑い、教室を後にした。


誠、私のチョコ喜んでくれるといいなぁ・・・。 

「いらない」とか、いくら誠でもそんなことは言い出さないわよね・・・?


私は期待と不安を胸に、夕焼けの光差し込む廊下を

白い息を弾ませながら壮快に走り抜けた・・・。






どーも、(1)の続きです。

最終話の(3)は、18時頃に更新予定です。

よければこちらも見に来て下さい。

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