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日常シリーズ

猫の敵

作者: 釜瑪秋摩

 私の名前は、伊達 勇(だて いさむ)

 年齢は五十二歳。

 とある企業の部長職についている。


 私の休日は、寝室のアラームで始まる。

 朝、六時になると、自動で鳴くのだ。

 目を覚まさないでいると、私の眉を濡れたザラザラの舌が、これでもかというように這い回る。


「あぁ……もう、わかったよ。ミニさん……もう起きるから、勘弁してくれ」


 ベッドを降り、寝巻のままダイニングへ。

 トトトと可愛らしい足音を立てて、私のあとをついてくるのは、飼い猫の『ミニ』だ。

 朝ご飯を器に入れてやると、待ってましたと言わんばかりに食べ始め、その姿の愛らしさに、背中をそっと撫でると、邪魔をするなと「ニャッ!」と小さく鳴く。


「ごめんごめん、邪魔をしたわけじゃあないんだよ」


 私を睨んだミニは、私がキッチンへ向かうと、また食事を再開した。

 その姿を眺めつつ、自分の食事の準備をする。


 ミニが我が家に来たときには、手のひらに収まるくらいの小ささだったけれど、あっという間に大きく育った。

 ミニを見た人は、その大きさに対して、名前とのギャップを感じるらしい。

 けれど、ミニは私より小さいのだから、問題はないと思っている。


 朝はどうしても卵を食べがちになる。調理が早く済むからだ。

 フライパンに薄く油をひいて、ベーコンを敷き、その上に卵を落とす。

 蓋をして蒸し焼きにしているあいだに、カットして保存してある野菜を皿に盛りつけ、パンをトースターに。


 全自動のコーヒーメーカーで濃い目のコーヒーを淹れ、朝食の支度を終える。

 テーブルに腰をおろし、新聞を眺めながらいただく。


 食事のあとは食器を洗い、洗濯をはじめる。

 それから掃除だ。

 平日には仕事でなかなか掃除ができないから、休日にはできるだけ丁寧にしようと心掛けている。


「あっ! こら、ミニさん、そんなに掃除機をいじめないでくれないか?」


 背中の毛を逆立てて、シャーシャー威嚇をしながら、ミニは掃除機のヘッドに猫パンチを繰り出す。

 相当、掃除機が嫌いらしい。

 おかげでヘッド部分だけ、爪痕で傷だらけだ。


「そろそろロボット掃除機の導入も考えたほうがいいのかもしれないな」


 ネットの動画で、猫がロボット掃除機の上に乗っているのがあるけれど、可愛らしいことこの上ない。

 私はミニが乗っているところを想像するのだが、可愛い姿しか思い浮かばない。


 換毛期になると、やはり毛があちこちに落ちるから、掃除機をかける頻度も増える。

 掃除機でストレスを与え続けるよりは、ロボット掃除機のほうがいいに違いない。


「ニャー」


 掃除を終え、洗濯物を干し終えたころになると、ミニがおもちゃを咥えてやってくる。

 遊べとの要求だ。

 私は猫じゃらしを手に、ミニを遊ばせるのだが……。


「あ痛たたたたたた!!!!!」


 ミニは興奮してくると、必ず手に噛みついてくる。

 なかなかに本気で、痛い。

 満足するまで遊んでやり、ミニが眠りについたころ、私は買い物に出かける。


 食材や日用品を買い、帰り道、吸い寄せられるように家電販売店へ立ち寄った。

 ロボット掃除機を前に、しばらく考えていると、店員さんがやってきて、いろいろと説明をしてくれる。

 家電量販店を出るときには、私は大きな箱を手にしていた。


 家に帰り、早々にロボット掃除機をセットしてみる。

 試運転をしていると、廊下に続くドアのすき間から、ミニが顔を半分だけ出して、鋭い目でみていた。

 ロボット掃除機を警戒しているようだ。


 自動で充電器にセットされ、動かなくなると、ようやくリビングに入ってきた。

 掃除機のときのように、威嚇しないところをみると、どうやらこの選択は間違っていなかったようだ。


 夜になり、ミニと一緒に夕食を食べ、私は寝室で眠りにつく。


 翌朝、いつものようにミニに起こされ、リビングへ向かった私の目に入ったのは、真新しいロボット掃除機の真ん中に、しっかりと残されていた、大きな四本の傷跡だった。

 お気に召さなかったらしい。

 当然、ミニがロボット掃除機の上に乗ることもなかった。



-完-

読みに来ていただき、ありがとうございます。


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