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浅葱色の奇跡  作者:
多摩編
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記憶

そんなわけで、故郷ーーー多摩にいた時代は、特別これといって歳三と親しくしていたわけではなかった。


故に、若い頃の歳三については、本人から話を聞いた限りのことしか千代は知らない。


思考を整理するため、千代は紙と筆を取り出した。

自分の記憶をざっと記す。


1864年 歳さんと京で再会

1867年 大政奉還

1868年 蝦夷へ行く

1869年 戦死


もし時間溯行(タイムリープ)したと仮定するならば、

少なくともこれらの事が時系列通りに起きる。


そして、千代の目標はもちろん、

自分と歳三の死を回避することである。


幸いなことに、時間溯行をしたのは千代が故郷を離れる数年前だと考えられた。


文机の1番上に積まれている薬の納品書には、1857年5月11日と記されている。

京都で歳三と再会する7年前。千代は18歳だ。


(だとすると…)


千代はこの2年後、江戸の武家屋敷で奉公することになり、その屋敷に通っていた軍医ーー当時の藩医に薬の知識を買われ、共に京都へ発った。


そのため、歳三がどのような時間軸で京都に来ることになったのかは、詳細を知らない。


歳三と恋仲になったのは京都で再会した後であるが、その際には、彼はすでに新選組副長の肩書きを持っていた。

そして、新選組副長である以上、たとえ歳三が死んだ戦を回避できたとしても、別の戦いに巻き込まれて死ぬ可能性は否が応でも高くなる。


そうすると、歳三を京都に行かせないようにする

…つまり、新選組の発足自体を阻止するのが、現時点での最善策であると千代は判断した。


しかしそれは同時に、歳三と恋仲になるきっかけとなった、再会さえもなくなることになる。


(…仕方がない)


優先順位が高いのは、自分の命と歳三の命である。

命あっての幸せであり、両方とも失うことになるのであれば、恋人としての幸せを諦めるべきだろう。


人生で一番甘く、幸せな時間だった。

その記憶は、今もしっかりと千代の中に刻まれている。

その記憶さえあれば、幸せに生きていける。

千代はぎゅっと筆を握りしめた。


***


新選組の発足を回避する、と言っても、

千代はその生い立ちを詳しく知らない。


だが、当時新選組の幹部と呼ばれていた面々には、多摩で面識があった人間がちらほらいた。


千代が奉公に行っている間、なんらかのきっかけで

京に行くことになり、

歳三など、多摩出身の人間が中心となって新選組を作っていったのではないかと予想できる。


であれば、その中心人物達と接点を持っていれば、きっと手がかりを得られるはずだ。

そう考え、彦五郎の道場で稽古が実施される際には、必ず父について行って稽古を見学していくようにした。


すると、最初は千代を空気扱いしていた道場の面々とも、自然と会話をするようになっていった。


「ねえ、千代ちゃん。もしかしてあの中に好きな人でもいるの?」


隣に座って話しかけてきたのは、彦五郎の妻の()()だった。

目鼻立ちのはっきりした美人で、歳三の姉でもある。


「ええと…そういうわけでは…」


あながち嘘でもないため、ゴニョゴニョと返答に困っていると、のぶが続けた。


「いやね、千代ちゃんみたいな可愛い子が稽古の見学にきてくれるもんだから、最近男どもが張り切っててさあ。ねえねえどうなの?うちの弟とかどう??」


思わぬ方向に話が飛んで、千代の心臓は跳ねた。

必死に平静を装って返答する。


「弟さん、すっごい強いですよね。うちの父なんか毎回すぐに打ち負かされちゃって…」


恋話(コイバナ)は心臓に悪い。千代は別の方向に話を逸らした。


「そうかしら?それで言うと、総司くんのほうがすごいわよ?まだ15歳なんですって。」


のぶの視線の先は、歳三と対戦中の青年に注がれていた。

千代は、剣術のことはよく分からない。

分からないが、15歳で年上の、しかも歳三と互角にやり合うということがどういうことかは分かる。


(沖田総司…)


後に、天才剣士と呼ばれていた男だ。

京都にいた際に、千代も何度か見かけたことがある。

色白で、切れ長な目が印象的な、儚げな美青年だった。


「源三郎さんはちょっと歳が離れちゃうし、勇さんも結婚が決まってるからなあ。後はーー、」


のぶは勝手に千代の婿選定をし始める。


「ちなみに、千代ちゃんはどんな人が好きなの?」


再び恋話に戻ってきてしまった。


「強いて言うなら…長生きしそうな人がいいです。」


「ならうちの弟はだめかあー」


弟のことをよく分かっている姉だな、と千代は思った。


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