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浅葱色の奇跡  作者:
江戸編
22/26

増員



慌ただしく年末を迎え、年が明けて少し経つと、

()()が子を連れて試衛館に帰ってきた。


産後の肥立がよくないと聞いていたものの、もうすっかり元気な様子で、産前に会った時と全く違う面持ちであった。千代は安心した。


赤子はやっと寝返りをするようになったところで、1日のほとんどを寝るか泣くかで過ごしている。

つねは基本的に赤子をおぶって生活しているため、引き続き、千代が家事を主導する形となった。

とはいえ、今まで一馬力でこなしていたものが二馬力になったため、負担はかなり減っている。


2人で台所に立っている間に、つねに背負われた赤子が泣き始めると、

どこからともなく周助がやってきて、慣れた手つきでつねから赤子を預かった。


「ほぅら()()。爺がきましたよ〜」


赤子は、()()と名付けられた。名前から分かる通り女子(おなご)である。


勇が襲名してからもしばらくは、道場に顔を出していた周助であるが、最近ではこのように孫につきっきりだ。

稽古時には声を張り上げて指導をしていた厳しい師範が、聞いたことのないねこ撫で声で孫に話しかけている姿は、なかなかに面白い光景だった。


***


勇が本格的に道場を取り仕切るようになると、もう一つ変化が起きた。 


「…歳三さん?」


千代が洗濯物を持って井戸端から戻ると、試衛館の門前に見慣れた人影を見つけた。


「ああ、お前か。」


歳三は千代に気づくと、菅笠(すげがさ)を外した。

前に会った時よりも髪が伸びたようで、総髪を頭の後ろで括っている。


千代は年末も江戸で過ごしたため、歳三に会うのは紅白試合以来だ。


思わぬ訪問に内心驚きながら、千代は歳三を招き入れた。


「どうしてこちらに?」


「そりゃ、勇さんに呼ばれたからだよ。」


歳三は背負っていた行李を下ろし、道場の縁側に腰をかけた。

多摩から歩いてきたであろう歳三の足元は、泥で汚れている。


「今、お湯を用意しますね」


「すまないが、頼む。」


千代は洗濯物を抱えたまま、急いで台所に向かった。


そのついでに、茶の間にいるつねと周助に声をかける。


「歳三さんがいらしてるんですけど、勇さんは?」


「さっき、出かけて行ったばかりよ。」


たまを抱きながらつねが答えた。

歳三が来るという話は2人とも共有を受けていないようである。


ちょうど、洗濯用に沸かした湯が残っていたため、

千代はたらいに湯を移し替え、手拭いを持って歳三のもとに戻った。


「勇さん、出かけてしまったみたいですが…」


千代が歳三の足元にたらいを置くと、歳三は泥を落とし始めた。


「そうか。」


「どういったご用で?」


「稽古の手伝いだ。…勇さんから何も聞いてないのか?」


千代が頷くと、まったくあの人は…と、歳三が呆れた顔をした。


「いつも自分が教えるのだと、変わり映えがしなくて門人がつまらなさそうだから、俺にも師範代をやってくれと言われたんだ。

俺にとっても、試衛館の門人にとっても、新鮮味があって面白いだろうと。」


勇が考えそうなことだ、と千代は思った。


「じゃあ、今後は毎回多摩から通ってくるってことですか?」


「いや、しばらく泊まらせてもらう予定だ。」


「え…」


千代は固まった。


「…一応、勇さんとはそういう話になってるんだが…」


勇が千代に話をしていなかったと分かり、

歳三は少し気まずそうにしている。


「今日から?」


「今日から」


(勇さーーーん!!)


千代は心の中で叫んだ。


***


戻ってきた勇に事情を確認すると、

歳三だけではなく、他にも数人、出稽古先の門人を試衛館に呼ぶ予定だと言う。


その間、基本的にその門人は泊まり込みになるということであった。


「すまんなあ、相談するのをすっかり忘れていたよ。」


「いえ、私は大丈夫ですが…」


つねの方をちら、と見ると、目が合った。

眉を下げて呆れた顔をしているが、怒っている様子はない。


もともと、色々な人間が出入りしている場所である。

食客の面々もいる中で、宿泊者が数人増えたところでそれほど家事の負担は変わらないのだ。


「でも、最初が歳三さんでよかったです。知らない方だったら対応に困っていたと思うので。」


また歳三に会えるようになるという嬉しさの反面、うっかり時間溯行(タイムリープ)前と同じ距離感で接してしまいそうな不安。

総じて、歳三がいると気持ちが落ち着かないというのは、千代の個人的な事情である。


「赤子もいて大変だろう。俺に手伝えることがあれば、遠慮なく言ってくれ。」


歳三にしては珍しく気の利く言葉である。


千代が多摩を離れている間、何か変化があったのだろうか。

歳三の伸びた髪を見ながら、そんなことをぼんやりと考えた。




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