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浅葱色の奇跡  作者:
多摩編
1/22

命日


5月。

北の地ではまだ少し寒さが残るものの、

その日は日が高く、青空が広がっていた。

浅葱色の綺麗な空だった。


怪我人を介抱するため、診療所として臨時的に設けられた天幕の中に、彼は運ばれてきた。


「土方司令官が…っ戦死しました…!!」


そう言った男は、血と土埃で汚れた顔を涙でさらにぐしゃぐしゃにしている。歳さんに付いていた副官だったか。


信じられない…信じたくない気持ちで彼に近づいた。


全身にいくつも傷があるが、致命傷となったのは銃で撃たれたと思われる腹部の傷であろう。


「歳さん…」


かつて私を温かく抱きしめてくれた腕は、冷たく、硬くなっている。

視界が歪んで、立っていられなかった。

いつ死んでもおかしくない。

覚悟はしていたつもりだった。


「まずいぞ、新政府軍がこちらに流れてきている!

この診療所がバレたら厄介だ、動ける患者だけでも連れてここを退こう!」


上司である軍医が言った。


「私は残ります。」


「何を言っている!?死にたいのか!?」


「重症患者は、私がここで守ります。先生は先に行ってください。」


医療に従事する者として、まだ生きている兵士を見捨てるわけにはいかない。

もちろんその気持ちもある。

しかし、何より愛した人の亡骸を、敵軍に蹂躙されることだけは避けたかった。


この亡骸が土方歳三だと敵軍に知られれば、きっとこのままでは済まない。味方の支持を集めていた彼は、その分、敵からの恨みも買っている。


「大丈夫、女1人と動けぬ兵士なら、向こうの脅威にはならないでしょう?見逃してくれるかもしれません。」


軍医は、私と歳さんの関係を知っていた。

そして、言い出したら聞かない、頑固な私の性格もよく分かってくれていた。


「わかった…この場は任せるぞ」


そう言うと、ぎゅっと私を抱き寄せた。


それから半時ほど経った頃だろうか。

案の定、診療所は新政府軍に見つかった。


新政府軍は、負傷して動けない兵と、無力な女1人にとどめを刺すような真似はしなかった。

ホッとしたような、やるせないような複雑な気持ちだ。

それも束の間、ドォンという轟音と共に、熱い熱気が全身を襲う。


何が起きたのかわからないが、きっと死ぬのだということは分かった。

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