命日
5月。
北の地ではまだ少し寒さが残るものの、
その日は日が高く、青空が広がっていた。
浅葱色の綺麗な空だった。
怪我人を介抱するため、診療所として臨時的に設けられた天幕の中に、彼は運ばれてきた。
「土方司令官が…っ戦死しました…!!」
そう言った男は、血と土埃で汚れた顔を涙でさらにぐしゃぐしゃにしている。歳さんに付いていた副官だったか。
信じられない…信じたくない気持ちで彼に近づいた。
全身にいくつも傷があるが、致命傷となったのは銃で撃たれたと思われる腹部の傷であろう。
「歳さん…」
かつて私を温かく抱きしめてくれた腕は、冷たく、硬くなっている。
視界が歪んで、立っていられなかった。
いつ死んでもおかしくない。
覚悟はしていたつもりだった。
「まずいぞ、新政府軍がこちらに流れてきている!
この診療所がバレたら厄介だ、動ける患者だけでも連れてここを退こう!」
上司である軍医が言った。
「私は残ります。」
「何を言っている!?死にたいのか!?」
「重症患者は、私がここで守ります。先生は先に行ってください。」
医療に従事する者として、まだ生きている兵士を見捨てるわけにはいかない。
もちろんその気持ちもある。
しかし、何より愛した人の亡骸を、敵軍に蹂躙されることだけは避けたかった。
この亡骸が土方歳三だと敵軍に知られれば、きっとこのままでは済まない。味方の支持を集めていた彼は、その分、敵からの恨みも買っている。
「大丈夫、女1人と動けぬ兵士なら、向こうの脅威にはならないでしょう?見逃してくれるかもしれません。」
軍医は、私と歳さんの関係を知っていた。
そして、言い出したら聞かない、頑固な私の性格もよく分かってくれていた。
「わかった…この場は任せるぞ」
そう言うと、ぎゅっと私を抱き寄せた。
それから半時ほど経った頃だろうか。
案の定、診療所は新政府軍に見つかった。
新政府軍は、負傷して動けない兵と、無力な女1人にとどめを刺すような真似はしなかった。
ホッとしたような、やるせないような複雑な気持ちだ。
それも束の間、ドォンという轟音と共に、熱い熱気が全身を襲う。
何が起きたのかわからないが、きっと死ぬのだということは分かった。