明智の光明
「でも、こんなことになったら、竹中夜半より先に、もしかしたら蛇龍会が動くかもしれないわね」
病室にあるテレビでニュースを見ていたら、瀧葉さんがふいにそんなことを言う。
「まあ、その可能性はなくはないですね」
白井園長が蛇龍会と関わっていた以上、ありえなくはない。というか、蛇龍会の収入源を一つ潰したようなものだから、確実に動いてくる。
「なにか、対策とかはあるの?」
瀧葉さんにそう聞かれたけど、
「・・・・・いや、全然」
そんな都合のいい対策なんてあるわけもなく、
「はっきり言って、蛇龍会とかいう野蛮な集団と真っ向から勝負しても、勝ち目なんてほぼ無いですからね。出会ったら速攻で逃げるしかないですよ」
ただでさえ戦力が乏しいのに、相手はヤクザ。どんな恐ろしい手を使ってくるかもわからないような連中に対して、逃げるという選択肢以外ないと思う。そう私が言うと、
「そうね。私もそのほうがいいと思うわ」
瀧葉さんもそれが最善だと思ったのか、逃げるということに賛同してくれた。
ただまあ、賛同してくれたのはいいんだけど、裏を返せば、それ以外の選択肢がないわけで・・・・・
せっかく、ながらの里の件についてひと段落着きそうだったのに、次から次へと降りかかる難題に、私は頭を抱えてしまう。
少し重苦しい空気が室内に流れ始め、これからの動きについて私が頭を悩ませていると、
「むっ!」
道三がいきなり、バッと後ろを振り返る。
「なに?」
私が聞くと、
「やはり誰かに見られているぞ」
道三は後ろをじっと睨みながら言う。
「昨日から言ってるけど、ただの勘違いじゃないの?」
「いや、姿は見えんが確実に気配はあった」
昨日とは違い、道三は確信を持って言っているけど、後ろには誰もいないし、気配だって感じない。
「もしかしたら、殿に恨みがある怨霊かもしれませんね」
「馬鹿を言うな!そこまで恨みを買った覚えはない‼・・・・・・・はずだ」
瀧葉さんにからかわれるように言われ、すぐに道三は反論していたけど、やってきたことがやってきたことだけに、自信がなさそうになんかごにょごにょ言っている。
しかし、怨霊か・・・・・・・
瀧葉さんは冗談めいて言っているけど、思い当たる点が一つあった。
まだ、ごにょごにょ言い訳をする道三を見ながら、思い当たったことについて考え込んでいると、そんな私を疑問に思ったのか、ロリっ子が聞いてくる。
「どうしたの?」
・・・・・うーん、これは私が考えるよりも、この子が考えたほうがわかるかも。
そう思った私は、思い当たったことについて、ロリっ子に聞いてみることにした。
「ねえ、一つ聞きたいんだけど、あなたが降ろした霊って降ろしたあなたじゃなくても遠隔で操ることってできるの?」
「え?」
私の急な質問に、ロリっ子は困惑していたけど、
「例えば、霊を降ろされた人間がその霊を使ってなにかをするとか」
わかりやすく例え話を使って聞き返してみると、ロリっ子は少し考えてから、
「うーん・・・・どうだろう。そういった方法があるなんて聞いたことがないし、基本的に降霊した霊って、降ろした人に取り憑いている状態だから、その人からは離れられないはず」
断言はしなかったけど、遠隔で操るとかはできないはずだとロリっ子は言う。
けど、そう言ったロリっ子が、
「ただ、私がやった降霊術って・・・・・・」
前置きをするように言いながら、私から視線を外し、
「瀧葉から教えてもらったものだから」
ベッドに座る瀧葉さんを見る。
「ああ。そう言えば元凶はあなたでしたね」
釣られて私も瀧葉さんのほうを見てみると、なぜか誇らしげな顔でピースをする瀧葉さんに、思わず手が出そうになってしまう・・・・・・・・・落ち着け。相手は病人だ。
そう自分に言い聞かせ、私は元凶である瀧葉さんにも聞いてみることにした。
「それで、さっき私が言った霊を操ったりとか、そういったことって実際にできるんですか?」
ロリっ子にした質問を、同じように瀧葉さんにしてみると、
「そうね・・・・・考案したのは私だけど、大元は、昔からある降霊術に則って編み出したものだから、姫様が言うように術者以外が操るとか、ましてや降ろした人間から離れるとかはまず不可能ね」
自信がなさそうだったロリっ子とは違い、瀧葉さんは術者以外が霊を操るのは不可能だと断言する。
しかし、話しはここで終わりじゃなかったらしく、瀧葉さんは続けて言う。
「ただ、もしそんなことがあるのだとしたら、術者である姫様より霊を扱う能力が長けているか、もしくは、術の法則自体を理解して別の法則に書き換えたりするような、そんな頭が相当切れる人間だったら・・・・・可能性はなくはないかもね」
「なるほど・・・・・・」
正直、凡人の私では瀧葉さんの言っていることが半分も理解できなかったけど、可能性があるという瀧葉さんの言葉を聞いて、
「ねぇ、もう一つ聞きたいんだけど」
私は瀧葉さんからロリっ子に視線を移し、
「降ろした霊を物理的に拘束することってできる?」
霊という実体のないものを拘束できるのか聞いてみると、
「え?・・・・・うーん、物理的にってのは無理だけど、結界を張れば、一応は動きを制限することができるよ」
ロリっ子は悩むように言いつつも、拘束はできると答える。というか、結界だとかそんなこともできるのね。
私は彼女の意外な力に驚きつつも、
「それじゃあ、今から私が言ったことをやってくれない?」
そう言って、思いついたことを実行すべく、私は小声でロリっ子に指示をする。
奈三が姫花にある指示をしたのと時を同じくして、ベンチに座っていた少女が、
「あれ?」
付けていたヘッドホンを外し、いぶかしげな声を出す。
すると、そんな少女に一人の人物が声をかける。
「どうしたんじゃ?」
見た目は白髪の老人に見えるが、その眼光は鋭く、なによりも目を惹くのはその足元。
その人物には本来あるはずの足がない。というより足元が透けていて、まず間違いなく、道三や一鉄と同じ亡霊だということが一目でわかった。
そんな老人の霊に対し、少女は親しげな口調で、
「うーん、おっかしいなぁ。なにも聞こえなくなったし、映像も映らなくなっちゃった」
持っていたノートパソコンやヘッドホンとにらめっこをしながら答える。
「もしや、光秀の身になにかあったのかもしれぬな」
老人の霊がそう言うも、
「まっさかー、姿は見えないようにしてあるし、気付かれるわけないって」
少女は笑いながら、楽観的に言うと、
「ひょっとしたら、機材が故障したのかも」
ノートパソコンをコンコンと叩きながら、音声が聞こえなくなったり、映像が見れなくなった原因を探し始める。
しかし、そんなのんきに構えていた少女の背後から、一人の人物が少女に声をかける。
「へぇー、そうやって私達を盗撮してたのね」
「・・・・・ッ‼」
突然のことに驚いた少女は、飛び跳ねるようにしてベンチから立ち上がり、声のした後ろを振り向く。
すると、そこには奈三、道三、姫花の三人と、また新たに、なにやら泣きそうな顔をした亡霊が一人、少女の目に飛び込んできた。
驚く少女。そんな少女をよそに、道三が自慢気に言う。
「な、ワシの言った通りだろ?」
「うるさい」
自分の手柄だとアピールする道三を、奈三はうるさいの一言で断ち切る。
それがよっぽどショックだったのか、道三は拗ねたようにぶつぶつ文句を垂れるが、奈三はそんな道三をほっとき、改めて少女の顔を見る。
身長は姫花と同じくらいか、もしくは少し低い程度で、顔はまだ幼かったが、身長に見合わないぶかぶかな白衣を着ていて、それが少女の姿に違和感を与えている。
そんな不思議な感覚を抱かせる少女を、奈三が観察するように見ていると、
「うぅ・・・・・ひかり殿ぉー」
奈三達三人に連れられて・・・・・というか、縛られてここまで連れられてきた、もう一人の亡霊が、少女に向かって助けを乞う。
見ると、お札のようなものが幾重にも重なり、そのお札が縄のようになって、その亡霊を縛り上げていて、身動きの取れない亡霊は、情けなくも、泣き言を言いながら少女を見るが、少女は亡霊のそんな姿を見て、ふっと笑う。
「なるほどね。どうやらバレちゃったみたいね」
潔いと言えばいいのか、どこかあっけらかんとしたように言う少女に、奈三は警戒をしながらも、
「そうね。あなたが何者かってことを聞こうと思ったんだけど・・・・・・・・・その必要はないみたいね」
辺りを見渡し、老人の霊を見つけた奈三は、悟ったように言葉を漏らす。
「ふふっ、バレたんならもう隠す意味がないね」
少女は笑い、どこか楽しそうな声色で言うと、
「私もあなたと同じで、そこの子に霊を降ろされた人間だよ」
奈三と姫花を交互に見ながら、少女はあっさりとその事実を認める。
「状況をずいぶんと理解しているみたいね」
普通、霊なんて厄介なものを降ろされたら、もっと怖がるか、降ろした姫花に怒りをぶつけるものだと思っていた奈三は、少女のあまりにも普通な態度に違和感を覚えたが、
「そりゃあ、ずっと聞いてたからね」
悪びれた様子もなく、少女は首にかけていたヘッドホンを指し、盗み聞きしていたことを素直に認め、ごまかしや言い訳をしない彼女に、奈三は調子を狂わされてしまう。
今までに会ったことのないタイプの人間に、奈三はやりにくさを感じつつも、
「事情がわかっているなら、なんで今まで姿を隠してたの?こんな盗撮まがいなことまでして」
縛られている霊に目をやりながら、奈三は疑問に思ったことを聞いてみると、
「え?誰だって見ず知らずの相手には警戒するでしょ?だから相手を観察して、こっちに有利な情報を抜き取ったほうが建設的じゃない?」
「まあ・・・・・それはそうなんだけど・・・・・」
至極当然と言わんばかりの少女の言葉に、奈三は返す言葉もなかった。
少女の言っていることは理解できるし、それに納得してしまった奈三だったが、
「だけど、亡霊を降ろされて困っているなら、もっと早くに私達と協力したほうがよかったんじゃないの?」
盗撮や盗聴といった、少女の回りくどいやり方に、奈三は疑問を抱く。
取り憑ている霊をなんとかしたいと思っているなら、少女のやり方は時間が掛かるし、なにより、少女一人ではなにもできないと奈三は思っていた。
しかし、奈三が思っていた考えは、少女の考えとはまったくと言っていいほど異なり、
「ああ、勘違いしないで。私はあなたと違って、霊を降ろされたことには不満を持っていないわ。むしろ感謝しているぐらい」
「感謝?」
自分に霊が憑いたことを嫌がるどころか、逆に取り憑かれたことに少女は喜びを見せ、
「だってそうでしょ。こんな科学が進んだ世界で、霊なんて非科学的存在がいるなんて考えたこともなかった」
目をらんらんと輝かせながらそう言うと、奈三のほうを見て、
「とても研究のし甲斐があるわ」
そんな少女の狂気とも言える表情を見て、奈三は腑に落ちた。
霊に取り憑かれておきながら、楽しそうに少女が笑う理由はそういうことかと・・・・・
ただ、奈三は少女の異常さに嫌悪感を抱くのと同時に、思春期がよく陥りがちな中二病患者なのかもしれない。そう思ったら、真面目に話していた自分が馬鹿馬鹿しくなり、
「まるで、イカれた科学者みたいなことを言うのね」
奈三は呆れて、少女に嫌味を含んだ言葉を投げかけるが、少女は奈三の言葉を好意的に受け取ったのか、
「ええ。そうね」
少女は嬉しそうに自分がイカれた科学者、マッドサイエンティストだと自称し、その次には、まるで独裁者が高らかに宣言するかのように、自分の名前を名乗り出た。
「私は明智ひかり。明智の血を引いた天才科学者よ」




