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みののくに!  作者: ユキハ
21/23

奪還作戦【その後】

 白井園長の件が片付いて、家に帰る途中、


 「むっ!」


 道三が急に足を止める。


 「どうしたの?」

 「いや、先ほどから、何者かに見られてる気がしてな」


 そう言って、道三が後ろを振り返っても、そこには誰もいない。


 「なにそれ?」

 「わからんが、敵意じゃなく、なんというか、ただ、見られてるという気配がしてな・・・・・」


 道三も気配は感じたけど、その正体まではわからなかったようで、


 「うーむ・・・・・」


 気配がしたという後ろをじっと見つめ、不満そうな声をもらす。


 「そういうの、もういいから」


 今の疲れている状態で、そんな得体の知れないものに関わりたくない。

 まだ後ろを気にする道三をほっといて、私は一人足早に、家に帰ることにした。

 

 とくにこれといったこともなく、道三が変なことを言い出す以外は、普通に家に帰ることができたんだけど、玄関先にはなぜか、ロリっ子が一人で立っていた。

 なんだろう?と、不思議に思いながらロリっ子に近付くと、私に気付いたロリっ子が、なにも言わず、急に私にしがみ付いてきた。


 「え?急になに?」


 そう聞いてもなにも答えないロリっ子。

 意味がわからない彼女の行動に、私が困り果てていると、


 「姫花ちゃんは、お前さんを心配して、ずっと外で待ってたんよ」


 ばあちゃんまで玄関先に出てきて、ロリっ子が外にいた理由を教えてくれたけど、


 「置いていったことを怒ってるの?」

 「・・・・・・べつに」


 ロリっ子は不機嫌な声でそう言うと、しがみつく力を強めてきた。

 ・・・・・・あー、なるほどね。怒っているというより、拗ねているのか。

 疲れているんだから勘弁してよー。そう思いながら、拗ねるロリっ子を振り払おうとしても、断固として放さないというロリっ子の意思が、それすらも許してくれない。

 すると、そんな私達を見かねたのか、


 「ほらほら、奈三もご飯の途中だっただろ?ご飯が冷めんうちに、中に入って」


 ばあちゃんが助け舟を出してくれたおかげで、ロリっ子は渋々といった様子だったけど、しがみつくのを止め・・・・・・・ああ。私の裾はしっかり掴んでいるのね。まあ、ずっとしがみつかれたままになるよりマシか。

 ロリっ子に裾を掴まれながらも、私はやっと、家に帰ることができ、怒涛のように感じられた長い夜は、疲労も相まってなのか、あっという間に過ぎ去っていった。・・・・・




 次の日、私はロリっ子と一緒に、瀧葉さんが入院する岐阜病院へ来ていた。

 病室にあるテレビを見ながら、私は瀧葉さんに言う。


 「あなたが望んだ結果になって、よかったですね」

 「あら?私はべつに、なにも言っていないけど?」


 とぼけた様子で言う瀧葉さんだったけど、


 「ふふっ、冗談よ」


 すぐに、私をからかうように瀧葉さんは笑う。

 テレビ画面に映し出されていたのは、昼間でも見るような、よくあるニュース番組。

 そのニュース番組では、児童養護施設で起こった不祥事について取り沙汰され、それは紛れもなく、私がマスコミや警察に送った、ながらの里についてのものだった。

 

 うーん、ある程度予想はしていたけど、まさか、ここまで大きくなるとは・・・・・・

 人が持つ、その貪欲な野次馬根性ってのは、品性はないけど、馬鹿にはできないな。そう感じながら、私は昨日の夜からあったことを思い出す。


 昨日の夜から報道されたそのニュースは、瞬く間にネット上でも拡散され、全国区のニュース番組でも取り上げられたことで、今や、世間を賑わす一大ニュースとなっていた。

 すると、画面には多くのマスコミが岐阜市役所に押し寄せている映像が流れ、瀧葉さんはそれを見ながら、


 「理由はわからないけど、竹中夜半が姫様に対してなにもしてこないってことは、前々からわかっていたの」


 やはり、ロリっ子を施設に入れた裏には、瀧葉さんの思惑・・・・というか、なんらかしらの考えがあったようで、


 「私としては、あの施設で普通に暮らしていれば、竹中夜半も警戒心が緩んで、下手に手を出されないんじゃないかなと思って、姫様をあの施設に入れたつもりだったんだけど・・・・・」


 瀧葉さんはそう言いながら、大勢の記者達に詰め寄られ、混乱する市役所内部の映像を見て、


 「まさか、ここまでやってくれれるとは思いもしなかったわ」


 どこかすっきりとした表情で私に笑いかけてきたけど、私としてはすっきりしない。

 瀧葉さんの考え自体は、まあ、理解できなくはないけど、どうしても腑に落ちない点が一つあった。

 

 「あの施設が、怪しいとかは思わなかったんですか?」


 竹中夜半が手を出してこないっと言っても、それはあくまで、こちらが都合よく解釈しているだけで、たまたま手を出してこなかったってだけかもしれないし、一歩間違えれば、ロリっ子に危険が及ぶ可能性だってあった。

 私もそこまで深くは知らないけど、二人のやり取りを見るに、瀧葉さんがロリっ子のことを大切にしていることは見てわかる。

 それなのに、そんな危ない賭けをロリっ子にさせたというのが、どうしても納得できなかったけど、


 「私も姫様を入れる前に調べて、薄々は気付いていたわ。体調が戻り次第、反撃できる材料を探そうと思っていたんだけど・・・・・」


 どこか物憂げに自分の手を見て、自嘲気味に笑う瀧葉さん。

 そんな瀧葉さんにどう返したらいいのかわからず、私が困ってると、


 「ふふっ、あなたが全部やってくれちゃった」


 寂しそうに自分の手を見ていたのは演技だったのか、瀧葉さんは満足そうに笑っていた。

 ・・・・・・なんか、うまいこと使われただけのような気がするんだけど。

 結果的はどうあれ、瀧葉さんの手の平で転がされているような気分になった私は、無意識に自分の頭を掻いてしまう。


 そんな私達をよそに、なぜか不機嫌そうな顔をするロリっ子。


 「・・・・・ところで、なんであんたは怒ってんの?」

 「怒ってないわよ!」


 いや、口調がすでに怒っているだけど・・・・・

 めんどくさい彼女みたいになっているロリっ子に、思わずため息が出そうになるけど、原因はまあ、なんとなくわかっている。


 「昨日、私が一人で行ったことをまだ怒ってるの?」

 「そ、それはそれで、怒っているけど・・・・・」


 やっぱり怒っているんじゃない。

 そんなロリっ子に私は呆れてしまうが、彼女が不機嫌・・・・・というか、険しい表情をしていたのには、また別の理由があった。


 「そうじゃなくて!私はただ、施設の子達が心配なだけ・・・・・」


 あー、そっちね。

 確かに、施設がこれだけ非難を浴びていたら、ロリっ子もあの生意気な子供達を心配するか・・・・

 でも、


 「それも心配ないんじゃない?」

 「え?」

 



 昨日の疲れがまだ残る中、私はながらの里に一人で来ていた。

 この後、瀧葉さんが入院している病院にも行かないといけないんだけど、正直、もう少し休みたかった・・・・・

 気怠い体をなんとか引っ張り、施設の中に入る。

 すると、そこには見知った人が立っていて、私はその人に声を掛ける。


 「自分の仕事はいいんですか?」


 そこにいたのは、資料となにやらにらめっこをしている凛一さん。

 今頃、市役所には大量のマスコミが押し寄せ、職員はその対応に追われているはずなのに、なんでこんなところにいるのか疑問に思って声をかけてみたら、凛一さんは私を見るなり、


 「これが私の仕事です!」


 なぜか、少し怒った感じで言う。


 「なんか怒ってます?」

 「怒っていません!」


 いや、明らかに怒っているようにしか見えないんだけど、なんか私したっけ・・・・・

 覚えがない私に、凛一さんは深いため息吐き、


 「もしかして、白井施設長のことをリークしたのって、奈三さんじゃないんですか?」


 じろりと、疑惑の目を私に向けてくる。

 まあ、つい最近までなにもなかったのに、急にこんなことが起きたら、そりゃあ、直近でこの施設に関わた私を疑うよねー・・・・・・


 「さあ?どうでしょう」


 とりあえず惚けて見たけど、その惚けた様子が火に油を注いだのか、


 「昨日から大変だったんですよ。苦情の電話は鳴り止まないわ、施設の内部調査をしないといけないわで、私を含め、職員は昨日から寝れてないんですよ!」


 昨日からのストレスが相当溜まっていたのか、止まらない愚痴を、一気に私にぶちまけてきた。


 「なるほど。疲れているから怒りっぽくなっているんですね」

 「だから、怒っていませんって!」


 頑なに怒っていないと言い張る凛一さんだったけど、


 「怒っているとしたら、自分にです」


 急に態度を軟化させると、遠い目をして、


 「まさか、白井施設長が、子供達にそんな恐ろしいことをしていたとは思いもしませんでしたし、なにより、それを見抜けなかった自分が情けなくて・・・・・」


 悔しそうな表情をにじませながら、凛一さんは言い、


 「それに、施設長の一件を子供達が知って、どんな悪影響を与えてしまうのか・・・・・・それが心配です」


 不安そうな表情で、子供達の先行きを案じていた。

 ・・・・・・まあ、そうなってしまったのは、あの園長が招いた結果とはいえ、原因の一端は私にもあるから、多少の負い目は感じている。

 だから、重い体に鞭打って、わざわざ足を運んで様子を見に来たんだけど・・・・・・私のせいにされても嫌だから、とりあえず話しを逸らしておくか。


 「そう言えば、ここにはなにしに来たんですか?」

 「最初に言ったように、ここには仕事で来たんですよ」


 私の質問に、凛一さんはそう言うと、


 「今後は、この施設の管理を市が行うことになったんです。その担当者として私が選ばれたので、挨拶がてら、管理状況を見に来たんです」

 「ということは、ここは潰されずに残るってことですか?」

 「潰すことなんてしませんよ。そんなことをしたら、ますます反感を買うだけですから。それに、こんなことになった原因は、市が放置していたせいでもありますから・・・・・・」


 施設の管理が市に移ったことを教えてくれたけど、うん。まあ、この現状で取り潰すって言ったら、マスコミ達に良い餌を与えるだけか・・・・・

 そう思っていると、凛一さんが私と同じことを聞いてきた。


 「そう言う奈三さんは、なんでここへ?」


 正直、様子を見に来ただけで、これといった理由はないんだけど、


 「・・・・・まあ、私も似たような理由ですかね」


 当たり障りのない、適当な答えを返すと、凛一さんは「そうですか・・・・」と、小さく呟くだけ。

 

 ・・・・・・なんか、調子狂うなぁ。

 そんなにも、白井園長の本性を見抜けなかったことが悔しかったのか、それとも、子供達の被害を防げなかったことがショックなのか、凛一さんの表情に陰りが見える。

 

 まあとりあえず、私のせいで施設が潰れるとか、そんなことにはならなさそうなので、ちょっと安心した。

 ・・・・・・けど、


 「それにしても、あなたがここの担当者になったってのは、偶然にしては、出来すぎているような気がしますね」


 もしかしたら、疑わしい私を見張るために、わざわざここの担当になったんじゃないか?そう思えるほど、市の対応が早すぎる気がする。

 それに、私としてはまだ、凛一さんを全面的には信用していない。

 なんらかの意図があるのか、そんな疑念を私は抱いていたけど、凛一さんは私の言葉にクスっと笑い、


 「偶然じゃなく、自分で立候補しましたから」

 「そうなんですか?」


 自ら名乗り出たと言う凛一さんに、私は拍子抜けしてしまう。


 「ええ。誰もやりたがらなかったってのもありますけど、関わった身としては、どうしてもほっとけなくて・・・・・」

 「まあ、こんな状況でやりたいなんて、普通は思いませんからねぇ」

 「そうですね・・・・・」


 これから立て直すと言っても、この施設の評判はすでにガタ落ち。

 協力者なんていないだろうし、言い方は悪いかもしれないけど、この施設は沈みかけた泥船のようなもので、下手したら、自分が矢面に立って非難を受ける可能性だってある。

 普通なら誰もやりたがらないってのも頷ける話しなんだけど・・・・・・それを、自ら立候補って・・・・・・

 関係ない私でも、めんどくさそうだなと思うのに、一体なにが彼女を突き動かしているのか私には理解できなかったけど、


 「それでも誰かがやらないと、このままってわけにはいきませんからね」


 凛一さんはそう言い、


 「それに、自分の目の届く範囲でなら、子供達への被害も防げるかもしれないですからね」


 少し悲しげにも見える笑顔をこちらに向けてくる。

 べつに、悪いのは白井園長であって、凛一さんが気に病む必要はないと思うけど・・・・・・・


 「まあ、人間なんて取り繕おうと思えば、いくらでも取り繕えますからね。白井園長も表面上は穏やかそうだったけど、その裏の本性なんて、普通は誰にもわかりませんよ」


 しんみりした様子の凛一さんを和まそうと、私なりのフォローを入れた。

 しかし、それに反応したのは凛一さんではなく、


 「ふっ・・・・・お主みたいな、まだ成熟もしていない子供が人間を語るとは、なんとも愉快」


 いちいち突っ掛かった言い方をして、稲葉一鉄が私の言葉を鼻で笑う。

 この男・・・・・・・ッ!


 「人を見る目がなさそうなあなたに言われても、なにも効かないんだけど?」

 「ふんっ!少なくとも、お主や殿よりもあるがな」

 「なんじゃと!」


 私だけでなく、稲葉一鉄は道三にも喧嘩を売り、私達は無意味な言い争いをしてしまう。

 すると、私、道三、稲葉一鉄が、ギャーギャーと不毛な口論をしている中、無意味な争いを続ける私達に呆れてしまったのか、それとも、考えるのが馬鹿らしくなったのか、凛一さんは大きく息を吐くと、


 「今回のことで、私もいい勉強になりました・・・・」


 そう言って、さっきまで見せていたしんみりとした雰囲気を消し去り、


 「今後、同じことが起きないよう私がしっかりと見守っていきます」


 決心したかのように言うと、凛一さんは真っすぐに前を向く。


 「ここの子供達を悲しませるようなことは、もう二度とさせません」


 そう言った彼女の言葉には、揺るぎない覚悟のようなものが感じられた。




 そして現在に戻り、ながらの里であったことや、凛一さんとの会話の内容を一通り話し終えた私は、ロリっ子に言う。


 「あの様子なら、施設の子達も大丈夫なんじゃない?」


 まあ、凛一さんがどこまで頼りになるのかまだわからないけど、あそこまで言うんだから、しばらくは大丈夫でしょう・・・・・・・・というか大丈夫であってほしい。

 正直、今の状態で手一杯なのに、施設のほうもカバーするなんて、とてもじゃないけど無理。

 だから、このまま凛一さんに任せておけば・・・・・・・・と、思っていたんだけど、私が大丈夫って言ってもロリっ子の不安は解消されなかったようで、心配そうにこっちを見てくる。

 

 ・・・・・・・はあー、まったく、


 「そんなに心配なら、普通に会いに行けばいいでしょ?」

 「え?」


 私の提案にロリっ子は驚いていたけど、なんてことはない。


 「べつにいつだって会えるんだから、様子を見るだけならあなたにもできるんじゃない?」


 なにか理由があって会えないんなら話しは変わってくるけど、会えるんなら会いに行けばいいってだけの話しだし、


 「それに、あの子供達はあなたを慕っているようだし、あなたがあの子達を支えてあげればなにも問題ないでしょ」


 まあ、ロリっ子に子供達を支える器量があるかどうかは知らないけどね。

 そう思いながら言った言葉が、思いの外ロリっ子に響いたのか、


 「・・・・・・う、うん!」


 嬉しそうに頷き、さっきまで心配そうにしていた顔が嘘かのように、ロリっ子は溢れんばかりの笑顔を咲かす。

 ・・・・・・私としては適当に言ったつもりだったんだけど・・・・・・・・まあ、いいか。

 ロリっ子のその単純さに私は呆れてしまうけど、気のせいか、彼女の屈託のない笑顔を見て、私の中でしこりのように残っていた後ろめたさが、なんだか少し、薄らいだようにも感じた。






 人が行き交う街中で、ベンチに座る少女が一人。

 少女は持っていたノートパソコンを開き、パソコン画面を凝視する。

 その少女が見つめる先には、奈三達も病室で見ていた、ながらの里で起こった不祥事について報道するニュース番組が映し出され、今も市役所やその関係者の人なのか、物々しい雰囲気で謝罪会見をしている様子が取り沙汰されている。

 少女はその映像を見ながらクスっと笑うと、

 

 「へぇー・・・・・・なかなかやるじゃん」


 楽しそうに一人呟くが、少女が見せたその笑みは、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた・・・・・

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