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みののくに!  作者: ユキハ
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半世紀未来の邂逅

                1556年5月28日

             

                 長良川の戦い



 「殿!このままでは敗戦は必至であります!」

 「四方八方と手を尽くしたが、最早ここまでか・・・」

 

 本陣へと逃げ戻った武将の一人が現状を報告すると、家臣の一人が沈痛な面持ちで独りごつ。

 静まり返る本陣にて、皆の視線は主君であり、総大将でもある斎藤道三に向けられる。

 だが、意気消沈する武将達とは相反し、道三の顔は死んではいなかった。


 「虎を猫と見誤るとは、ワシの眼も老いたわ」


 自分の死期が近付いていると悟りながらも、道三は不敵な笑みを浮かべ、


 「しかし当面、斎藤家は安泰であるな!」


 道三のその言葉で、失われかけていた武将達の戦意が、再び宿り始める。


 「この蝮、ただでは死なぬ!一矢報いてくれるわ!」


 見つめる視線の先には、息子である義龍の姿。

 義龍を視界に捉えながら、道三は笑う。

 

 「老体であるワシに、苦戦を強いてくれるなよ」

 

 まるで、敵である義龍を叱咤激励するかのように言い、道三は戦場へと駆け抜ける。


 

 〝身を捨てて、この世の他に生きる世なし。いづくか終の住処なりけぬ〟(この身以外のほか全ては捨ててしまって、残ったのはこの身だけだ。私の最期の地とはいったい何処になるだろうか)



 これは、道三の最後の言葉。辞世の句である

        


                2023年6月1日



 あれ?今何時だっけ?

 


 パソコンで作業しながら、ふと時間が気になった。

 最近、時間の感覚が麻痺してきて、気付いた時にはもう夜中だったことも少なくない。

 時計を見ると、短針は一時で止まっている。

 カーテンを閉めきっているから、これが昼の一時なのか夜中の一時なのかも分からない。

 薄暗い部屋の中で私は一つ伸びをした後、椅子から立ち上がってカーテンを開ける。

 外はこれでもかっていうぐらい太陽に照らされ、本来なら気持ちのいい天気なんだろうけど、昼夜逆転して不健康な生活を送っている私にとっては、太陽の輝きは毒にしかならない。

 

 ・・・ははっ、社会復帰できる気がしないわね。


 太陽の光を浴びたせいで、憂鬱な気分になってしまう。

 まあ、別に社会に出なくても暮らしていけるだけの蓄えができたから別にいいんだけどね。

 私はもう一度パソコンの前に座り、株の値動きに変動がないかチェックする。

 

 「ふっ、こんなのでお金が稼げるんだから、人生チョロいわー」


 どんどん増えていく貯蓄を見て、思わずほくそ笑んでしまう。

 最近は値動きも激しく、見極めも難しいから、睡眠時間も削られたけど、そのおかげでがっぽりと稼がせてもらったから、寝れなかったことに文句はない・・・・ないんだけど、これとは別に、不満なことがある。

 それは・・・


 「ほぉー、現代の技術もここまで発展しおったか、こんな箱で銭が稼げるとは」


 私の背後で眼を輝かせながらパソコンを見つめるオッサン。

 若そうに見えるのに、顔面が厳つく、ヤクザみたいな風貌。そして着ているものは高そうな着物。

 でも、パソコンを見る目は少年みたいになっていて、とにかくギャップがひどい。


 「これだけでお金が稼げるなら、世の中全員がお金持ちになってるけどね」

 「ふむ。では、使う者によって良きものにもなるし、悪しきものにもなるということか・・・そこは今も昔も変わっておらぬようだな」


 最近になって突然現れたこのオッサン。

 うら若き私の部屋に堂々と居座り、部屋にある私物をいろいろと物色されて数日。

 ストーカー被害として、本当ならすぐにでも警察に突き出したい。

 だけど、それができない現状に、ストレスでハゲそうになる。

 なぜなら・・・・

 

 「そんなことより、どうやってあなたが成仏してくれるのか、私としてはそれが今の悩みなんだけど」


 このオッサンは普通の人間ではない。

 足がないのに、ゆらゆらと宙を浮遊しながら移動し、触ろうとしたら蜃気楼のように実体は掴めない。

 今まで信じたことはないし、今でも信じたくはないんだけど、いわゆる幽霊というやつのようだ。

 こんな科学が進歩した現代に幽霊なんて馬鹿らしい。そう自分でも思うけど、実際に見えているし、喋れているから現実逃避もできやしない。

 ・・・・はぁー、最初にこのオッサンが見えた時は、疲労による幻覚だと思ったけど、いくら寝てもこの幻覚は覚めてくれなかった。

 それから何日経っても消えてくれないから、もう認めることにして、なんとか除霊ができないか試行錯誤を繰り返したけど、所詮は素人。なにを試しても除霊はできず、現在に至っている。


 「というか、なんで私に取り憑いたのか心当たりはないの?」

 「ふむ、気が付いた時にはもうお主の近くにいたから、心当たりなどまったくないな」


 ハッハッハッと笑いながら言うオッサンだが、こっちは全然おもしろくない。


 「だが、心当たりに見当はつかんが、お主の前に現れたといことは、なにかしらの縁があるといことだろうな」


 そうは言われても、こっちだってなんの心当たりもない。

 唯一の救いと言えば、このオッサンが悪霊じゃなかったことだけ。


 「未練とかはないの?」

 「未練かぁ・・・・あると言えばあるが、現世に化けて出るほど根深いものでもないしのぉ」

 

 生前の記憶を思い出しているようだけど、まったく答えにたどり着くようなヒントが出てこないし、それどころか、


 「それにのぉ、ワシ自ら言うのもなんだが、生を持っていた頃はそれなりの悪事に手を染めておったから、多くの者に恨まれている自信はあるが、ワシが誰かを恨んで化けて出るというのも、ちとおかしな話しだな」

 「つまりは、原因がまったく分からないってことね?」

 「そういうことじゃな」


 ・・・はぁー、結局は振り出しに戻ったってことね。

 それにしても、悪事に手を染めていたか・・・


 「悪事って、どんなことをしたの?」


 これがなんらかのきっかけかもしれない。

 そう思って聞いてみたけど、オッサンから返ってきたのは予想以上の答えだった。


 「ふむ。一番はやはり、我が娘婿を毒殺し、我が主君を国から追いやったことじゃな」


 どえらい犯罪者じゃない!

 なんでそんなヤバい奴が私に取り憑いているのよ!

 思わずそう叫びたくなった。


 「主君ってことは、あなたは誰かに仕えるような人物だったってこと?」

 「うむ。ワシが最後にお仕えしておったのは、土岐頼芸である」


 土岐?その名前、どこかで聞いたような・・・・

 私は過去の記憶を遡り、該当する名前を思い出した。

 それは小学生の頃に行った、地元の歴史博物館みたいなところで目にした名前。

 そしてもう一つ思い出した。

 土岐頼芸という武将を追いやった人物の画も、私は見ている。

 坊主頭が特徴的だった。顔も怖かった。

 そう。目の前に突然現れたこのオッサンをちょうど老けさせたような感じの・・・


 「もしかして、あなたの名前って・・・・」



 「うむ!ワシの名は斎藤道三!生前は美濃国の国主を務めておった者だ」

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