つかの間の休息
凛一さんと別れてから私は、ロリっ子を連れ、自宅へと帰ってきていた。
私からしたら見慣れた日本家屋。
良く言えば趣がある。悪く言えばただ古いだけの家・・・・・・・・なんだけど、ロリっ子からしたら珍しいものなのか、キョロキョロと家を眺めている。
私はそんなロリっ子をほっといて、玄関のほうに向かう。
「ただいまー」
ガラガラガラっと引き戸の玄関を開け、私が家の中に入ると、その私の後ろを、小動物のように付いてきたロリっ子が、
「お、お邪魔します」
緊張した様子で、私に続いて家の中に入る。
夕日が沈み、室内は暗く、静けさも相まって、日本家屋特有の不気味さが醸し出された家の中。
その雰囲気に、ロリっ子は呑まれていたが、次の瞬間、
「おかえり」
「ひぃ!」
誰もいないと思っていた暗闇から、突如、そんな声が聞こえたもんだから、ロリっ子は驚き飛び上がり、私にしがみついてきた。
・・・・・いやいや、亡霊とかいう、もっとヤバいものと関わっているのに、こんなのでびびるなよ。
そんなロリっ子に私は呆れながら、声がした暗闇に声をかける。
「・・・・ばあちゃん、その出迎え方やめたほうがいいよ」
私がそう言うと、暗いところからひょっこりと、一人の人物が現れる。
「ほっほっほ、普通に現れても、おもしろくないだろ?」
そんなふうに笑いながら出てきたのは、私のばあちゃん。
肉親ではあるんだけど、私と違って、こういうふうに人を驚かせたりして、陽気な一面を見せてくる。
ばあちゃんは、ひとしきり笑い終えた後、
「それで、その子が今日から預かる子かい?」
そう言いながら、ロリっ子を見る。
「ひ、姫花です。今日からお世話になります」
緊張しながら、ロリっ子が名乗り出ると、ばあちゃんはロリっ子の顔をじっと見つめる。
「え?」
その、開いてるか開いていないかわからない、ばあちゃんの細い目で見つめられたロリっ子は、どう反応すればいいのかわからなくて、少し困った表情を浮かべていたけど、すぐに、
「ほっほっほ、そんな緊張せんでも、自分の家だと思って過ごしてくれればええよ」
ばあちゃんはそう笑って、台所がある、家の奥へと入っていった。
そんなばあちゃんの後ろ姿を見ながら、
「・・・・か、歓迎してくれているんだよね?」
「おそらくね」
ロリっ子が不安そうに聞いてきたので、私は適当に返しつつ、靴を脱いで、家の中に入る。
すると、ばあちゃんが台所から顔をひょっこりと出し、
「ご飯を用意しておるから、先に、その子を居間に案内してくれるかい?」
ロリっ子を居間に案内するよう言われ、慌てて靴を脱いで、玄関を上がるロリっ子を連れ、私は居間へと向かう・・・・・・・が、居間に入った途端、私は絶句する。
私の目の前には、普段見ない、食事の数々。
縁起物の鯛や、大トロっぽい刺身。さらには伊勢海老と、豪華な海の幸・・・・・って、あれってもしかして松茸?
とにかく、居間にあるちゃぶ台に、豪華な料理が所狭しと並べられ、私はともかく、お嬢様育ちっぽいロリっ子も、驚いた様子でそれを見ている。
目の前の光景に、私とロリっ子が立ち尽くしていると、ばあちゃんが後ろから、
「ほっほっほ、そんなところで突っ立とらんで、座んなさい」
また新しい食事を持って、それをまた追加する。
いや、そんなに食べられないから・・・・・
そう思いながらも、
「ばあちゃん・・・・・いくら使ったの?」
私がばあちゃんに聞くと、ばあちゃんは笑いながら言う。
「ほっほっほ、こういった時に使わんと、無駄にお金が溜まっていくだけじゃよ」
「いやそれ、私のお金なんだけど・・・・・」
「ほっほっほ、いい孫持って、私も幸せもんじゃな」
ここに住まわせもらっているから、生活費は私が払うよ。
・・・・・と、そんなカッコを付けた自分を殴りたい。
普段は節約しているのに、こういった時に限って張り切るばあちゃん。
一体、いくら使ったのか・・・・・・
そんな現実に向き合いたくなかった私は、使ってしまったのは仕方がない。そう自分を思い込ませ、豪華な食事が並ぶ、ちゃぶ台の前に座ると、
「ほら、姫花ちゃんも、そんなところにいつまでも立っておらんで、こっちに来て座んなさい」
ばあちゃんが、ロリっ子に声を掛ける。
「は、はい!」
ロリっ子はまだ緊張が取れないのか、私の横にそそくさと座り、ばあちゃんはロリっ子が座ったのを見てから、
「それじゃあ、いただきます」
手を合わせながら言うと、
「い、いただきます」
ロリっ子もばあちゃんに倣って、手を合わせた後、躊躇いつつも、出された料理を一口食べると、
「おいしい・・・・・」
思わずといった様子で、ロリっ子がぽつりと呟き、それを聞いたばあちゃんが、
「姫花ちゃんは良い子だね。奈三なんて、なにを食べてもなにも言わないんじゃから」
満足そうな顔を浮かべた後、まるで当てつけかのように、私にそんなことを言ってくる。
「そんなこと、今言わなくてもいいでしょ」
私がそう言い返すも、ばあちゃんは笑って相手にしてくれず、私達の様子を、ロリっ子は困ったような表情で見る。
そんな、なんとも言えない空気の中、食事を続けていると、急に私のスマホが震え出す。
私はスマホを取り出し、画面を見てみると、人感センサーがなにかに反応したことを知らせる、一通のメールがが来ていた。
私はそれを見て、
「・・・・・ちょっと、出かけてくる」
おもむろに立ち上がり、ばあちゃんにそう言うと、ばあちゃんではなく、ロリっ子が「え?」というような表情を浮かべるが、私はロリっ子にはなにも言わず、
「ばあちゃん、その子をお願いね」
ばあちゃんにロリっ子を託すと、
「・・・・・気を付けて、行ってくるんだよ」
私を止めはしなかったけど、ばあちゃんの勘なのか、味噌汁をすすり終えた後、ばあちゃんはまるで、私がこれからやることを知っているかのような口振りで、静かにそう告げる。
はあー・・・・まったく、心配をされたくないからなにも言わず、出て行こうとしたのに・・・・・
そんなやりにくさを感じつつ、ロリっ子をばあちゃんに任せ、私は一人、暗闇に包まれる外に出た。
奈三が突然家から出ていき、取り残された姫花は、不安そうに奈三が出ていった玄関を見つめる。
出かけた理由について、なにも聞いていない姫花だったが、出かける際に見た、奈三の後ろ姿。その後ろ姿を見て、ふと、過去の嫌な記憶を思い起こす・・・・・
自分を守るために身を挺した、父と母の姿。その姿と、奈三の後ろ姿、違うはずなのに、なぜかその二つの姿が重なる・・・・・・・
そんな、言い知れぬ不安を覚える姫花の背中に、奈三の祖母である、斎藤志乃【さいとう しの】が声をかける。
「心配せんでもええよ。それより、まだ作ってあるから、いっぱいお食べ」
自分の孫である奈三を、一切心配していない様子の志乃に、
「え?でも・・・・・」
姫花が不安そうな声を漏らすも、志乃は「安心してええよ」と、姫花に言い、
「あの子はああ見えて、ちゃんと強い」
不敵な笑みを浮かべ、志乃は言う。
その志乃の言葉の意味を、姫花は理解できなかったが、なぜか、志乃の言葉には心強さを感じ、抱いていた不安が、いつの間にか薄らいでいるのを、姫花は確かに感じた。




