奪還作戦【中編】
お昼前で慌ただしくなってきた時間。稲葉一鉄との不快なやり取りを忘れるため、忙しなく働く人達を眺めながら、私は優雅にコーヒーを嗜む。
はあー、濁った心が洗われるわぁー・・・・
優越感に浸りながら、コーヒーを飲んでいると、ふいに、私のスマホが震える。
私はスマホ画面を開き、画面を確認すると、そこには凛一さんからのメール。
【一応、申請は下りたので、連絡ください】
届いたメールの内容を確認した私は、
「とりあえずは、第一段階はクリアね」
あんなに嫌がっていた凛一さんが、ちゃんと動いてくれていたことにほっとしながらも、順調に計画が進んでいることに、私は笑みを浮かべる。
予定では、もう少し時間が掛かると思っていたけど、意外にも、凛一さんは仕事ができる人だったのか、これなら、明日中には作戦が実行できる。
そう、私が考えていると、
「しかし、お主もなかなか、愉快な作戦をとるものよのう」
コーヒーを嗜む私の横で、道三が関心たように言ってきた。
「・・・・こっちは全然愉快じゃないんだけど」
楽観的に言う道三に、せっかく楽しんでいた優雅な時間に、水を差された気分になったけど、
「そうか?ワシの時代ではない考えであるから、こういった作戦は新鮮で、なかなか興味深いぞ」
この男が私の立てた作戦を、どこまで理解しているかわからないけど、楽しそうに笑う道三の顔を見てたら、文句を言う気も失せてしまう。
まあ、この男が生きていた時代は、生きるか死ぬか、生死がすぐ近くにあった時代だろうから、私が立てた作戦なんて、この男にとっては、面白い部類に入るんだろうな。
そう思って、私が何も言わずにいると、急に、
「とは言っても、なかなかまどろっこしい作戦ではあるな」
道三が、私の立てた作戦に文句をつける。
私はイラっとしたが、正直、自分でもまわりくどいと思っていた。
「しょうがないでしょ。地道にやっていかないと、逆に私達が追い詰められかねないんだから」
道三の指摘に、私はため息を吐きながら答えると、
「ふむ。現代の戦というものも、なかなか神経を使うものよのう」
なんか、感慨深そうに道三は言っているけど、はっきり言って、
「というより、相手が厄介すぎるのよ・・・・」
県知事なんて大きな看板を持つ、竹中夜半が相手じゃなかったら、絶対もっと簡単だったはず。
でかすぎる相手に、また、ため息を吐きつつも、
「でもまあ、この作戦がうまくいくかどうかは、明日の展開次第ね」
私はスマホに届いた凛一さんのメールを見ながら、明日に備えることにした。
そして次の日、私はロリっ子と、さらには凛一さんとともに、児童養護施である、ながらの里へと来ていた。
「えー・・・・と言うことでして、こちらの斎藤奈三さんですが、そちらの華怜さんの里親として認定されたため、今日からそちらの、斎藤奈三さんのお宅に預けられることになりました」
開口一番、凛一さんの言葉に、
「えーっと・・・・どういうことでしょう?そのような話しは、こちらでは聞いておりませんが」
この施設の園長である白井さんが、困惑した様子で尋ねると、
「連絡が遅れてしまったことは、申し訳ありません」
凛一さんは頭を下げつつ、事情を説明する。
「かねてより、こちらの斎藤さんから、親戚の子を引き取りたいとご相談を受けておりまして、そちらにご連絡をしていたものだとばかり思っていたんですが、どうやらこちらの伝達ミスで、そちらへの連絡が滞っていたようなんです」
申し訳なさそうに言う凛一さんに、園長さんは、一緒に話しを聞いていた、ここの職員と思われる女性と顔を見合わせた後、
「そうなのですか・・・・」
どう答えたらいいのか、わからないといった様子だったけど、
「しかし、急にこんなことを決められても、こちらとしても対応しかねるのですが」
すぐに、凛一さんに苦言を呈すると、
「はい。それは重々承知しているのですが、もう、認可が下りているので、今さら取り消すこともできなくて・・・・・」
凛一さんはそう言いながら、抜かりなく、持っていた茶色いファイルから、一枚の紙を取り出す。
「ちなみに、認可状はこちらに」
その紙には、私を里親として認めたという内容が書かれ、その認可状を受け取った園長さんは、
「・・・・・確かに」
書かれた内容を確認し、園長さんはぽつりと呟く。
・・・・・ただやっぱり、今回のことはあまりにも急すぎだったようで、
「ですが、こちらに話しを通さず、勝手にこんなことをやられては、私どもの立場もありませんよ」
園長さんは言葉には出さなかったけど、認められないといった表情を浮かべ、凛一さんも無理だと思ったのか、
「ですよねぇー・・・・・」
あっさりと引き下がる感じで、苦笑いを浮かべるだけ・・・・
まあ、仕方ないか・・・・・凛一さんとも事前に打ち合わせはしたけど、やっぱり、こんな急な申し出を受け入れられるほうが難しい・・・・・
しょうがないので、私自ら前に出る。
「それについては、私のほうからも謝らせてください」
まずは、園長さんに向けて謝罪をし、
「一昨日、こちらに伺った時、私も一言言えばよかったんですが」
そう前置きをしてから、
「華怜が子供達の面倒を見ている姿があまりに微笑ましくて、ついついお伝えするのを忘れてしまったんです」
ロリっ子に愛情を持っています。というアピールの一環で、私なりに精一杯の笑顔を浮かべるも、ロリっ子が私の顔を見て微妙そうな顔をするもんだから、
「そう、だったんですか・・・・・」
納得をしていない様子で、園長さんからもどこか懐疑的な目を向けられ、味方であるはずのロリっ子のせいで、微妙な空気になってしまったけど、ここで変に取り繕っても、怪しまれるだけだと考え、私は強引に話しを進めることにした。
「前から華怜とも相談はしていたんですが、華怜もこのままここでお世話になっているのは、少し心苦しいとのことでしたので、それだったら、親戚である私のところなら、華怜も遠慮しないと思いましたし、華怜もそれに快諾してくれたので、私としては、このまま華怜を引き取りたいと思っているんです」
そう私が言い終えると、園長さんはロリっ子のほうを見て、
「そうなのかい?」
私ではなく、当の本人であるロリっ子に、確認するように尋ねると、
「う、うん!」
尋ねられたロリっ子は慌てたように答え、そこがチャンスだと思ったのか、凛一さんがすかさず、
「華怜ちゃんもこう言ってますし、こちら(市役所)としても引くに引けない状態でして、なんとか許可を頂けないでしょうか?」
畳みかけるように園長さんの説得を試みると、園長さんは悩むように考え、
「うーん、華怜ちゃんが納得しているなら・・・・・」
「あ、ありがとうございます!」
まだ納得はしていないようだったけど、施設としても、市役所にはあまり強く反発ができないのか、渋々といった表情で、園長さんは了承してくれた。
すると、私達の会話を聞いていたのか、
「かれんおねぇちゃん、どっかいっちゃうの?」
いつの間にか、ロリっ子の近くにまで来ていたこの施設のクソガ・・・・子供達が、寂しそうな顔をして、ロリっ子を見ている。
「うん。そうだけど、またすぐに会えるよ」
「すぐっていつ?」
「えーっと・・・・すぐは、すぐだよ」
「えーーーー!それじゃあ、わかんないよー!」
答えを濁すロリっ子に、子供達は駄々をこねる。
なんか、引き離そうとしている私が悪者みたいで、居たたまれないんだけど・・・・
変な罪悪感が出てきた私とは対照的に、最初に寂しそうな声で聞いてきた女の子の頭を、ロリっ子は優しく撫で、
「良い子にしていれば、またすぐに会えるよ」
微笑みながら、女の子に言うと、女の子はまだ寂しそうな表情を浮かべてはいたけど、
「本当?」
「うん」
ロリっ子が頷いたことで、
「わかったー!」
女の子や、他の子供達は、寂しそうな表情から一瞬にして、嬉しそうに笑う。
その眩い、屈託のない子供達の笑顔に、私は目をやられてしまい、
・・・・・・竹中夜半も、これだけ単純だったならなー
あまりにも純粋すぎる子供達の感情に、ついつい、愚痴がこぼれそうになってしまう。
別れを惜しむ、ロリっ子と子供達。
私はその様子を、ただ黙って眺めていた・・・・・
ながらの里からの帰り道、一緒に帰っていた凛一さんが突然、
「もう、こんなこと二度とやりませんからね!」
怒ったように、そんなことを言ってきたけど、
「いやー、助かりました。これからもお願いしますね」
「話しを聞いてました?」
正直、無事に終えたんだから、凛一さんの苦情を受け取る気がなかった私は、
「聞いてましたよ。でも、なんだかんだうまくいったんだから、よかったじゃないですか」
「それは、そうなんですけど・・・・・」
適当なことを言って、水に流そうと思ったけど、凛一さんはまだ納得いっていないのか、
「一歩間違えたら、それこそどうなっていたことか・・・・」
うまくいかなかったことを想像したのか、凛一さんはぶるっと震えていた。
けど、
「まあ、これで、私達が悪霊に悩まされるかもしれない未来がなくなったと思えば、やって正解だとは思いますけどね」
道三や稲葉一鉄が悪霊になるかもしれない。という、私が適当に作った嘘だけど、もし本当にそうなったら、今日以上に震える未来があったかもしれない。
そう私が言うと、
「・・・・・確かに、そうなんですけど」
まだ不満そうだったけど、今日みたいに、汚職一歩手前の行動を取るか、悪霊に取り憑かれた未来を取るか、その二つの未来を想像して、比べてみたのか、凛一さんは納得はしていないんだけど、納得している。という、なんとも形容しがたい表情を浮かべつつも、
「姫花ちゃんがいれば、大丈夫なんだよね」
凛一さんが、ロリっ子にそう問いかける。
しかし、
「え?」
「え?」
二人は不思議そうな顔で、お互いを見つめ合う・・・・・が、すぐに、
「・・・・・・ああ!うん!」
慌ててロリっ子が答えると、
「まあ、それだったら、やった甲斐はありましたけど・・・・」
凛一さんは自分がやったことが無駄に終わったんじゃないかと思っていたのか、ロリっ子の返事を聞いて、安心したように息を吐く。
ロリっ子にも、私の嘘を伝えているから、下手なことを言わなければ、変なことにはならないと思うけど、それにしても危なっかしい。
・・・・・ここは、本格的に、ロリっ子にも演技の勉強をしてもらおうか・・・・そんな、不毛なことを真剣に考えていると、凛一さんが釘を刺してきた。
「でも、今度からは、もっと安全なことでお願いしますね。正直、冷や汗が止まらなかったんですから」
「善処します」
「・・・・・くっ!」
善処します。という私の言葉に、凛一さんはなんとも言えない表情を浮かべる。
気付いたら、私達は市役所の前まで来ていて、
「本当にお願いしますね。もっと軽めのものなら、いくらでも協力しますから」
凛一さんはそう言いながら、市役所のほうへと戻っていったけど、最後まで「本当にお願いしますね」そう懇願するように言いながら、市役所の中へと入っていき、私はそれになにも答えず、ただ笑顔で彼女を見送る。
そんな私達のやり取りを見て、
「なんか怒っていたように見えたけど、大丈夫なの?」
ロリっ子が心配そうに聞いてきたけど、
「まあ、あの人も、獲物が引っ掛かれば、考え方も変わるでしょうね」
「えもの?」
私からしたら想定内。ここまで来れば、後は向こうから喰いつくのを待てばいいだけ。
聞き返してきたロリっ子に対し、
「それは後々わかるわよ」
私はあえて答えない。
この作戦が、吉と出るか、凶と出るかまだわからない。
だけど、一つ言えることがあるとすれば、もしかしたら、竹中夜半に少しでも打撃を与えれるかもしれない。
そんなことを予想しながら、私はロリっ子を引き連れ、帰路につく。




