ながらの里
凛一さんとの話し合いを終えた後、私達は商店街が近い、市街の歩道を歩いていた。
「どうなるかと思ったけど、協力してくれそうでよかったね」
私の前を歩いていたロリっ子が、くるっとこちらを振り返って、嬉しそうに言う。
「協力って言っても、あの人がどこまでやってくれるかまだわからないじゃない」
「それはそうだけどさ・・・・でも、それでも一歩前進したってことでいいじゃない」
かなり短い一歩だけどね・・・・
竹中夜半を辞任に追い込むには、越えなければいけない壁がいくつもある。
彼女が全面的に協力してくれたとして、果たしてどれだけ時間が掛かるのやら・・・・・
長い道のりを想像してしまい、私が憂鬱な気分になっていると、
「それで、次はなにをするの?」
ロリっ子がそう聞いてきたので、私は少し考えてから、
「そうね・・・・今は下手に動くよりも、彼女からの連絡を待って、それから動いたほうがいいかもね」
これからの行動について、私がそう答えると、
「じゃあ、しばらくはなにもしないってこと?」
ロリっ子は少し不満そうに聞いてきた。
「そうね。しばらくは自宅待・・・・」
不満そうな顔をするロリっ子に、自宅待機。そう言おうとしたけど、目の前のロリっ子が今どこに住んでいるのか?そんな疑問が、ふと浮かんだ。
自分の家だったところは竹中夜半に占拠されているらしいし、保護者役である瀧葉さんも病院で入院しているし、もしかして野宿をしているのか?
そんな考えまで浮かんできた。
「どうしたの?」
急に立ち止まった私に、ロリっ子が不思議そうに首を傾げる。
「いや、あなたって今、どこに住んでるんだろうと思って・・・・」
「え?急になに?」
ロリっ子はきょとんとする。
「べつに変な意味とかじゃなくて、あなたがどこに住んでいるかによって、今後の動きも変わってくると思って」
今は普通に暮らせているとしても、行動によっては、今住んでいるところも危うくなる。
「瀧葉さんから話しを聞いた限り、竹中夜半がまだあなたを狙っている可能性だってあるんじゃない?」
「うっ・・・・・」
私の話しを聞いて怖くなったのか、ロリっ子は自分の体を抱きながら震えていた。
「そうなる前に、予防線として、あなたがどこに住んでいるのか聞いておきたいんだけど」
そう言って、ロリっ子のほうを見てみると、ロリっ子はなぜか気まずそうにしている。
「あー・・・・うん。そうだよねぇ」
ん?この反応、なんか既視感があるんだけど・・・・・
「・・・・・・またなにか隠してる?」
「えっ‼」
うん。なにか隠してるってことね。
凛一さんの居場所を聞いた時もそうだったけど、このロリっ子はわかりやすすぎる。
動揺するロリっ子にため息を吐きつつ、
「べつに、今さらなにを言われても、怒ったりしないわよ・・・・」
私が諭すように言うと、
「い、いや、べつに隠しているってわけじゃないんだけど・・・・・」
どこか言いにくそうにするロリっ子。
「まさか、本当に野宿でもしているの?」
「し、してないわよ‼」
呆れたように私が言うと、ロリっ子は顔を真っ赤にして否定する。
「じゃあ、なに?」
私がもう一度聞くと、ロリっ子はまだ言いにくそうにしつつも、おずおずと答え始める。
「え、えっとねぇ、私が今住んでいるところって、児童養護施設なの・・・・」
「児童養護施設?・・・・」
ロリっ子の返答に対し、最初、なんでそんな言いにくそうにしていたのかわからなかったけど、すぐに、
「って、おもいっきり市が関わっているじゃない!」
「う、うん・・・・」
・・・・・なるほどね。それで言いにくそうにしていたのか。
細かいことや、市町村での違いとかはわからないけど、児童養護施設って確か、行政の一部に関わっていたはず。
彼女が今住んでいる児童養護施設と岐阜市役所、その二つがどこまで関わっているかはまだわからないけど、もし、深く関わっているとしたら、ロリっ子の居場所が竹中夜半にバレているかもしれない。
・・・・・まったく、そういことはもっと早く言ってくれ。
そう思いながら、ロリっ子のほうに目を向けると、ロリっ子は言い訳を始める。
「ま、前はね、瀧葉と一緒に暮らしていたんだけど、ほ、ほら、瀧葉は今入院してるでしょ?だから、しょうがなく・・・・」
私も鬼畜じゃない。ホームレス生活をしろとか、そういったことを言うつもりはない。
・・・・・言うつもりはないんだけど、
「だとしても、わざわざ敵が管理しているかもしれない場所に、住むことはないんじゃない?」
呆れながら私がそう言うと、
「しょ、しょうがないじゃない!」
え?逆ギレ?
子供特有の癇癪を起こしたのかと思っていたけど、ロリっ子から出てきた次の言葉に、私は思わず会話を止めてしまう。
「私も嫌だったけど、瀧葉からそこに住むように言われたから、それで仕方なく・・・・」
「ちょっと待って」
突然待ったをかけられたロリっ子は、不思議そうにこちらを見ていたけど、そんなロリっ子に私は聞く。
「そこに行くように言ったのは瀧葉さんなの?」
「え?う、うん・・・・」
私の問いに、ロリっ子は戸惑ったように答える。
・・・・・・瀧葉さんが言った?
そんな、いかにも危うそうなところに、瀧葉さんが行かせるか?
私はしばらく考え・・・・
「・・・・・その施設に案内してくれない?」
「え?今から?」
「どんなところか、私も見ておきたいから」
ロリっ子にその施設までの案内を頼んだ。
「べつにいいけど、怪しいところはないと思うよ?今だって普通に暮らせれているし」
ロリっ子は、その児童養護施設に不審な点はないと言うけど、どうしても、瀧葉さんがそこに行くよう先導したのが引っ掛かる。
「それは見てから判断するわよ」
私はそう言って、その場所まで案内するよう促し、私は、彼女が今暮らしている児童養護施設へと行くことにした。
市街地から数分ほど歩き、私は、ロリっ子の案内で、児童養護施設の建物の前まで来ていた。
【ながらの里】多分、施設名だと思うけど、入り口前にはそう書かれた看板が立っていて、整備された木々に囲まれた施設のグランドには、滑り台やブランコといった遊具が立ち並ぶ。
「ここって、私も入ってもいいの?」
横にいるロリっ子にそう聞くと、
「多分大丈夫なんじゃない?」
なんとも頼りない返事が返ってくる。
・・・・・まあ、ここに住んでいるロリっ子がいるから、もしなにかあっても言い訳ができるか。
なにかしらの手続きが必要なら、それに従えば問題ない。そう考えながら、私は施設の中に入る。
中に入ってみると、そこには遊具で遊んでいる子供達が何人かおり、その内の一人の女の子がこちらに気付く。
「あっ!かれんおねえちゃーん!」
気付いた女の子は、声を上げながらこちらに走ってきたけど、
「かれん?」
女の子が叫んだ名前に、私は疑問を持つ。
ロリっ子の名前って、確か姫花だったはずじゃあ?私がそう思っていると、駆け寄って来た女の子に抱き着かれたロリっ子が、
「瀧葉が付けてくれた私の偽名なの」
女の子に聞こえないよう、ボソッと教えてくれた。
あー、なるほどね。
そこはしっかりと隠しているのか・・・・瀧葉さんになにかしらの意図があるとしても、さすがにロリっ子の本名をそのまま使わないか。
そう考えていると、ロリっ子に抱き着いていた女の子が、
「ねえ、かれんおねえちゃん。このおばさんだあれぇ?」
「おばッ⁉」
このクソガ・・・・女の子が、私を侮辱する暴言を吐いてきた。
私が暴言を受けてショックを受けていると、ロリっ子はなぜか顔を背ける。いや、肩が揺れているから、笑っているのがバレバレなんだが?
・・・・・はあー、しょうがない。女の子の将来のために、ここは〝お姉さん〟である私が、しっかりと注意してあげないと。
「こほんっ。おばさんじゃなくて、おねえさ———」
「このおばさん、目付きわりーな」
私が、せっかく優しく諭してあげようとした矢先、女の子の後に付いてきたクソガキ坊主が、あろうことか、私にそんなことを言ってくる。
すると、それを横で聞いていた道三が大爆笑。
「だっはっはっはっは!童というのは、なんとも正直じゃのぅ」
ああんッ!
私がキッと道三を睨むと、道三は素早くそっぽを向いて口笛を吹く。
・・・・・この亡霊、どうしてくれようか。私がそう思っていると、
「こらこら、ちゃんと挨拶をしなさい」
横から、このクソガキ達を注意する声がかけられた。
私は声のした横を向くと、そこには、ニコニコした笑みを浮かべる一人の中年男性が立っていて、
「あ、えんちょう先生ー」
クソガキの一人が、その中年男性のことをそう呼んだ。
園長先生?もしかして、この人がここの責任者ってこと?
すると、園長と呼ばれた男性が、
「すみません。この子達もまだ幼いもので、決して悪気があったわけではないので、許してやってください」
クソガキ達の非礼について謝ってきた。
「・・・・・いえ、そんな怒っていないので」
本当はめちゃくちゃムカついている。けど、これ以上文句を言っても、ただのクレーマーに成り下がるだけだし、なにより、私のほうが大人げなくなってしまう。
行き先がなくなった怒りを、なんとか抑えようとしていると、園長さんがロリっ子に声をかける。
「華怜ちゃんもおかえりなさい」
「ただいま」
優しい笑みで迎え入れる園長さんに、ロリっ子が答えると、
「ところで、こちらの人は華怜ちゃんの知り合いかい?」
園長さんが、私のことをロリっ子に尋ねる。
「あ、えっーと・・・・・」
そう言えば、私の素性について、こう答えてって決めてなかったか。
どう答えればいいのかわからず、助けを求めるような視線をこちらに向けるロリっ子。
仕方がないので、私が代わりに答えた。
「私は彼女の親戚なんです」
「おや?そうだったんですか?」
園長さんは少し驚いた様子を見せる。
「はい。彼女がこちらでお世話になっていると聞いて、様子を見に来たんです」
私の嘘に合わせるように、ロリっ子もコクコクと頷き、園長さんはそれを見て信じてくれたのか、
「そうなのですか。ここに親族の方が来られることは滅多にないもので・・・・・」
そう言って、園長さんは嬉しそうに笑うと、
「改めまして、この施設の代表をしています、白井と言います」
丁寧な口調で自己紹介をすると、
「見学に来られたのなら、施設の中もご案内しますよ?」
「あ、いえ・・・・・」
園長さんが、そんな提案をしてくれたけど、さて、どうしようか・・・・
べつに見て回るのはいいんだけど、ここで長居をするのもあまりよろしくない気がする。
園長さんからの提案にどう答えようか、私が悩んでいると、
「おねえちゃんもこっちでいっしょにあそぼうよー」
「あ、ちょっと待って!」
ロリっ子に抱き着いていた女の子が、ロリっ子の手を引っ張り、そのまま遊具のほうへと駆け出していき、手を引っ張られたロリっ子は、女の子を止めようとしたけど、女の子は聞く耳持たず、そのままロリっ子を連れて行ってしまった。
まあ、子供達からしたら、私達の会話なんてつまらないだろうからしょうがない。
「いやー、落ち着きのない子達なもので、申し訳ない」
園長さんがそんなふうに謝ってきたけど、返答に困っていた私からしたら、むしろ助かった。
「いえ、あの子のああいった一面が見れたので、私としてもよかったです」
「それならよかった」
親戚という体で私が答えると、園長さんは安心した様子を見せ、
「華怜ちゃんにはいつも助けられているんですよ。職員の手が足りていない時に、ああやって、子供達の面倒を見てくれてるんですよ」
ロリっ子達ほうを見ながら、園長さんは言う。
私もロリっ子達に目を向け、少し気になったことを聞いてみる。
「職員さんの数が足りていないんですか?」
私のこの質問に、
「お恥ずかしい話し、このご時世、人材不足の煽りを受けたもので、私とあと三名ほどの職員で、この施設を回しているんですよ」
園長さんは、少し困ったような表情を浮かべ、この施設の現状について教えてくれた。
「そうなんですね・・・・・」
私がそう答えると、遠くのほうから、
「白井園長ー、園長にお電話が来てますよー」
保母さんっぽい格好をした女性が、園長さんにそう呼びかけていた。
園長さんは「ああ、わかった」と言いながら、片手を上げて返事をすると、保母さんらしき女性は、用件を伝え終えたのか、そのまま施設の中に入っていった。
「申し訳ありません。少し用事ができたので、私は一旦離れますけど、見学はご自由にしていって下さい」
「ありがとうございます」
そう言い残し、園長さんは施設のほうへと戻っていき、一人、その場に残った私は、
「人材不足、ねぇ・・・・・」
独り言のように呟く。
確かに、人手は少なそうに見えるけど、言うほど忙しそうにも見えない。
私がこの施設について考察していると、横にいた道三が、
「ふむ。なにやらきな臭いのう」
ぽつりと、そんなことを言う。
「なにが?」
「あの男のことだ」
私が聞き返すと、道三は園長さんから感じたものを口にする。
「どうもあの男からは、かすかに邪念のようなものを感じるのう・・・・」
うーん・・・・・邪念とかではないけど、確かに、胡散臭さは私も感じていた。
なんというか、園長さんは表情はわかるんだけど、感情がいまいち見えてこない。
「まあ、私も怪しいとは思っているけど、下手に探りを入れるほうが、かえって危険な気がするわね・・・・」
私はそうは言いつつも、
「ただ、瀧葉さんがここにあの子を入れたってことに、なにかしらの思惑があるんじゃないかとも思ってるんだけど・・・・・」
やっぱり、瀧葉さんの意図を汲み取らないかぎり、私の中でもどかしさが残ってしまう。
うーん、どうしよう。多分、あてにはならないと思うけど・・・・・そう思いながら、私は横にいる道三に聞いてみる。
「一応、息子ではあったんだから、なにかわからないの?」
「はっはっはっは、愚息ではあったが、あんな小心者の男の考えなぞ、ワシにわかるわけあるまい」
聞いて損した。
道三は笑いながら悪口を言うだけで、なんの情報も得られない。そう思っていたけど、道三の話しには続きがあった。
「まあ、おおよそ、あやつもワシと同じように、あの男から邪念を感じたのであろう。だから、あの童をここに置いて、なにかを探らせようとしたんではないか?」
そう言いながら、道三は私から、ロリっ子達のほうへと視線を向ける。
「あの子にそんな器用な真似ができるとは思わないんだけど・・・・・それに、あの子自身、ここに入れられた理由もわかっていなかったっぽいし」
道三の推測は、間違いではないとは思うけど、それは器用な人がやる前提の話しで、凛一さんとのやり取りを見てみても、ロリっ子がスパイみたいな、そんな難しいことができるとは到底思えない。
そう私が言うと、道三は肩をすくめ、
「さあのう、ただ、なにか手掛かりを掴めれば僥倖、掴めなくても懐に潜らせた時点で、義龍の目的は成されたのかもな」
「どういうこと?」
道三は心当たりがあるのか、私が聞き返すと、
「仮に、あの男が敵の内通者だったとして、義龍があの童をここに置いたのは、もしかしたら、あの童の身を守るためなんじゃないか」
「・・・・・余計に意味がわからないんだけど」
要領を得ないことを言う道三に、私が再度聞き返すと、道三は簡潔に結論だけを言う。
「つまりだ、敵からしたら、あの童に下手に動き回られるよりも、自分達の監視下に置いておいたほうが楽だということだ」
あー・・・・なるほどね。確かにそれも一理あるか。
「まあ、自陣に潜り込まれておきながら、あの童を野放しにしている理由はわからぬが、義龍はそれがわかっていたから、あえて童をここに置いたんじゃないか?」
道三はそう言いながら、ロリっ子達をもう一度見て言う。
「現に、あの童に危害が及んだ様子もないしのう」
「・・・・・ムカつくけど、一応辻褄は合っているわね」
認めたくはないけど、道三の推測は、理屈としては成立している。
私だって、竹中夜半の行動を常に監視できれば、ある程度の予測が立てられて、それだけアドバンテージになる。
・・・・・それにしても、
「監視か・・・・・」
はしゃぐ子供達を、優しい表情で見守るロリっ子。その光景を眺めながら、私はぽつりと呟く。
「・・・・・はあー、めんどうね」
そう言いながらも、私はため息を吐いてしまう。
正直めんどくさいし、私の平穏な生活が乱される可能性があるけど、私の頭の中に、一つの計画が思い浮かぶ。
「なにやら策を思いついたのか?」
「そうね。凛一さんには苦労を掛けるかもしれないけど、やってもらうしかないわね」
この計画は、今までの推測が合っていたら、うまくはまるかもしれないけど、合っていなかったら無駄に終わる可能性だってある。
それに、凛一さんの協力なしでは実行できない。
私はこれからやることに憂いながらも、楽しく遊ぶロリっ子達を、ただ眺め続けていた。




