午前会議【前編】
午前十二時。私とロリっ子は市役所近くの喫茶店に来ていた。
ちょうどお昼時ってこともあり、子供の声やその母親達の声。他にもいろいろな声が店内を賑わせ、話し合いにはとても向いていない場所だとは思ったけど、これだけうるさかったら逆に、私達の会話も紛れるからちょうどいいのかもしれない。
私はスマホを取り出し、画面を見る。
そこには登録されていないメールアドレスが表示され、私はそれを見ながら一人の人物を待つ。
市役所を出てすぐに、稲葉一鉄に憑かれている女性から連絡があった。
十二時にお昼の休憩が入るらしく、一時間ほど時間が取れるとのこと。
私は了解した旨を伝え、十二時になるまでロリっ子と一緒に、この喫茶店で暇を潰しながら女性を待つことにした。
けど、待ち合わせ場所をここにしたのはある意味正解だったのかも。
長居してても周囲が賑やかだからそんなに目立たないし、なによりも・・・・・このロリっ子が大人しくしてくれているのは助かる。
私の隣では、ロリっ子がメロンソーダをおいしそうに飲んでは感動し、また飲んでは感動しを繰り返している。ってか、これ何杯目?
喫茶店に着いてから、ロリっ子はもう五杯以上、いろんな種類の飲み物を飲んでいる。
最初は私の奢りってことで、ロリっ子も気を使いながら注文をしていたけど、気付けばこの有様。
その華奢な体のどこに、それだけの水分を補給しているのかわからないけど、もう少し遠慮というものを覚えてほしい。
そう思いながらロリっ子をもう一度見ると、本当に嬉しそうな様子でメロンソーダを飲む彼女の笑みがそこに映る。
・・・・・・まあ、貯蓄は全然あるから痛手ではないし、これでロリっ子が静かにしてくれているなら安い経費か。
そう割り切ることにし、改めて女性を待っていると、店内に来店を知らせる音が鳴り、入り口のほうを見てみると、その女性が姿を見せる。
女性は店員と話しながら辺りをキョロキョロ見渡し、私達を見つけると、店員に会釈をしてからこちらに歩いてきた。
「お待たせしました」
「いえ、こちらも急にお呼び いえ、こちらも急にお呼びしたので・・・・」
急いでここに来たのか、女性の息は少し上がっている。
女性が私達の向かい側に座ると同時に、店員がお冷とおしぼりを女性の前に置き、
「ご注文はお決まりでしょうか?」
店員が女性に注文を聞く。
「あ、オレンジジュースを一つ」
「かしこまりましたー」
女性は慣れた様子で店員に注文をする。
注文を受けた店員が、その場から離れるのを見送った後、
「先ほどはお見苦しいところをお見せして申し訳ありません」
早々に謝罪をされた。
「いえ、いきなりあんなことを言われたら、誰だって驚きますよ」
「で、ですよねー」
「まあ、ここならある程度声を出しても目立たないから大丈夫ですよ」
あの場で亡霊だなんだと言われ、驚くなって言うほうが無理がある。
女性は苦笑いを浮かべつつも、それは助かるといった様子だったが、すぐに、
「ところで、先ほどから気になってはいたんですが、その子も私達と同じように幽霊に取り憑かれたんですか?」
メロンソーダをもう飲み終えたロリっ子について、女性が尋ねてきた。
「あ———」
「この子は霊とかそういった、普通の人には見えないものを祓う力があるので、もしなにかあった時のために連れてきただけです」
「え!そうなの?」
ロリっ子がなにかを言いかける前に、私がロリっ子について説明すると、女性は驚いたようにロリっ子を見る。
見られたロリっ子は慌てたように首を縦に振り、
「それじゃあ、彼女に祓ってもらえば解決するんじゃ・・・・?」
女性が至極真っ当な意見を言ってきた。
だけど、それが出来ていたら私もしているという話しで、とりあえず適当なことを言ってごまかしておく。
「そうしたかったんですけど、どうも、憑いている亡霊の力が強すぎるせいで、祓うことができないらしいんです」
「そうなんですね・・・・」
女性は残念そうな顔をしていたけど、本当の原因はこのロリっ子なんだよねー・・・・
まあ、そんなことを言ったら協力してもらえる可能性が減るだけだし、それに彼女は市役所で働いている人間。
意図せず、竹中夜半に情報が渡るかもしれない。
事前にロリっ子と話し合って、なるべく本当のことは隠しておこうと決めていたんだけど、ロリっ子は演技することが苦手なのか、どうしても喋り方がぎこちない。
どこかでボロが出そうで怖い。私がそう思っていると、
「あ、そうだ」
女性は思い出したかのように声を上げると、持ってきていた自分のバックを漁る。
「まだ名乗っていませんでしたよね?」
そう言いながら、女性は一枚の名刺を渡してきた。
「・・・・市民課管理係?」
私が渡された名刺に書かれていた文字を読み上げると、
「はい。主な仕事は市民対応と庶務全般で、そんな大層な仕事はしていないんですけどね」
女性は謙遜しながらも答える。
そして役職名の下には【稲葉 凛一<いなば りんか>】という名前が大きく書かれていた。
「あなた方のお名前も、お聞きしていいですか?」
当然、そういう流れにはなるよなー。
正直、伏せれるなら名前も伏せておきたいけど、協力してもらうってなったらそうはいかないし、かと言って下手に偽名を使ったら後々めんどくさくなりそうな気がするから、ここは素直に答えたほうがよさそうね。
「斎藤奈三です」
「ひ、姫花」
私は素直に本名を言って、ロリっ子は名前だけを言う。
「奈三さんと姫花ちゃんですね。改めまして、稲葉凛一と言います」
女性は私達の名前を確認した後、改めて自分の名前、稲葉凛一を名乗る。
事前に相談しといてよかったー。
私の本名は・・・・・まあ、問題はないと思うけど、ロリっ子の土岐と言う名字だけは絶対に隠しておいたほうがいい。
ロリっ子の返事はやっぱりぎこちなかったけど、それを緊張していると勘違いしてくれたのか、凛一さんはとくに気にした様子を見せず、
「それで、この幽霊を・・・・」
凛一さんがそう言いながら横に目を向けると、稲葉一鉄が姿を見せる。
「除霊するには私にも協力してほしいって言ってましたけど、具体的にはなにをすればいいんですか?」
気がはやっているのか、凛一さんは答えを急くように聞いてきた・・・・・けど、それを言う前に一つ、確認しなければいけないことがある。
「それをお伝えする前に、一つだけ確認したいことがあります」
「え?な、なんですか?」
戸惑う凛一さんの目を見て、私は聞く。
「憑いている霊を、あなたは本当に祓いたいと思っていますか?」
「そ、それは勿論です」
「多少の危険があるとしてもですか?」
「え!それって・・・・呪われるとか、そういったことですか?」
普通はそう思うよなー。
「いえ、そうではなく、霊を祓うためには一つの条件をクリアしなければいけないんですが、その条件が危険なんです」
「・・・・・なんですか?」
当然、凛一さんは聞き返してきたけど、
「それを教える前に聞きたいんです。あなたが危険を冒してでも霊を祓いたいかどうか、その覚悟があるのかどうか」
「ええー・・・・・」
私の問いかけに凛一さんは困惑している・・・・・まあ、こんなことを急に聞かれても、私だって答えに困る。
詳細を一切言わず、亡霊は祓えますよー。でも、危険もありますよー。なんて、怪しさ満点なことを言われたら、私ならまず間違いなく断っている。
でも、本題に入る前に、どうしても彼女の言質を取っておきたかった。
そう考え、彼女の回答を待っていると、
「ふん!あまりその娘を信用するでないぞ」
さっきまで一言も発していなかった稲葉一鉄が、突然割り込むようにして会話に入ってきた。
「殿に似て、その娘も油断ならぬようだからな」
じろりと私を睨みつけてくる稲葉一鉄。
「私の言ってることが嘘だと思っているの?」
「お主が殿を連れておる時点で、腹に一物を抱えていてもおかしくない」
ああ、これは・・・・道三の行いが悪すぎて、どうやら私も悪印象で見られているってことか。
憎しみにも似た視線を向けてくる稲葉一鉄。
そんな視線を私に向けられても正直困る。
私がそう思っていると、当事者である道三が小バカにするよう口調で言う。
「やめておけ。そやつは慎重を通り越して、ただの小心者に成り下がった男だ。なにを言ったとしてもムダムダ」
私達の上で優雅に寝そべりながら言う道三。
その態度は太々しく、イラッとはしていたけど、こちらの会話を邪魔しないなら放置しておいても問題ないか。そう思ってなにも言わなかったけど、道三の一言が稲葉一鉄に火を付けてしまった。
「私が小心者ではなく、殿が無鉄砲すぎるのです」
「それがワシの役目だからのぅ」
「そんなのだから家臣達に寝返られたのに、どうやら死してなお、その傍若無人ぶりは変わってないようですね・・・・」
「おーおー、なにやら下から遠吠えが聞こえるのぅ」
・・・・・なるほど。瀧葉さんが言っていた苦労するってのは、こういうことか。
最初に稲葉一鉄が現れた時も思ったけど、道三と稲葉一鉄の関係性は最悪の一言に尽きる。
言い争う二人の亡霊。それをただ唖然と見る凛一さん。
これは、話し合いにならないな。そう思いつつも、このままでは埒が明かないので、
「さっき私が言ったのは、危険な可能性がもしかしたらあるかもって話しなだけで、絶対ではないんです」
私は無理やり話しを戻すことにした。
「あなたがどこまで協力してくれるのかわからなかったので、あえて危険という言葉を使ってしまいました。すみません」
「い、いえ、そうだったんですね・・・・・」
私の謝罪に対し、凛一さんは慌てた素振りを見せた後、
「その危険がどういったものかはわかりませんけど、なるべく危険を避けられるのなら、出来る限りのことは協力しますよ」
少し戸惑いながらも、協力すると答えてくれた。
「・・・・いいんですか?」
「私もこのままってわけにはいきませんから・・・・」
まあ、それもそうか・・・・
苦笑いを浮かべる凛一さんの視線の先にいるのは、当然稲葉一鉄。
霊に取り憑かれて気にしない人間はいないか。
私は凛一さんの協力を得られたことと、言質をしっかり取れたことに安堵する。
そして、また新たな協力者が増えたことに、ロリっ子は嬉しそうに笑っていた。




