交渉
姿を現してくれたのは良かったんだけど、道三を煽るために出てきたんじゃないかと思えるほど、道三と稲葉一鉄の舌戦は続く。
「はっはっは、相変わらず、一鉄は冗談がうまいのぅ」
「冗談など一度も口にしたことは御座いません。すべて本心から出た言葉で御座います」
「ほほう・・・・そうなると、まるでワシが陰湿だと言っているようにも聞こえるんじゃが」
「ようにではなく、はっきりとそう申し上げております」
「貴様ぁッ!」
徐々にヒートアップしていき、最後は道三が我慢できなくなって、稲葉一鉄に殴りかかろうとしたけど、これ以上話しをややこしくしたくないから、
「落ち着け」
とりあえず、手を払いながら道三を霧散させる。
「えっ!えっ!」
どうやら、女性も道三の姿が見えているようだから、ロリっ子の言う通り、やっぱり彼女も私と同じで、勝手に亡霊を降ろされた人物なのは間違いない。
「さっきも言ったように、実は、私もあなたと同じように、亡霊に取り憑かれているんですよ」
「えええええっ!」
私の言葉で、女性は座っていた椅子から飛びのくように立ち上がり、叫び声のような声を上げながら驚く・・・・・が、すぐに周囲の視線に気付いたようで、
「し、失礼しました!」
そう謝りながら、ペコペコと何度も頭を下げ、後ろにいた・・・・多分上司なんだろう男性に睨まれながら、その男性にも頭を下げ続けていた。
場が少し落ち着きを取り戻し、女性も椅子に座り直すと、私達のほうに顔を近付け、小声で聞いてくる。
「これって、私だけが見えている幻覚なんじゃ・・・・?」
「残念ながら私にもあなたの後ろにいる亡霊の姿が見えているので、これは紛れもない現実です」
「ええー・・・・・」
幻覚なんて現実逃避をしている女性に、ちゃんと真実であることを伝えると、女性は引き攣った表情で、後ろにいる稲葉一鉄の姿を見る。
「私も、つい最近この亡霊に取り憑かれて、同じような被害s———失礼、同じ境遇の人を探してたら、あなたに行きついたわけです」
「はあ・・・・」
危なっ!つい口を滑らすとこだった。
女性の様子を見ると、困惑した表情を浮かべるだけで、とくにそれ以上の反応は見せなかったから、私は少し安心しつつ、
「あなたも亡霊に取り憑かれて困っているんじゃないんですか?」
「まあ、そうなんですけど・・・・」
背後にいる稲葉一鉄が気になるのか、それとも、下手なことを言って呪われると思っているのか、女性は稲葉一鉄の様子をうかがいながら、遠慮気味に言う。
まあ、普通に考えたら気味が悪いし、そういった反応をするのも当然か。
女性の反応を理解しつつ、
「それで、さっきの話しに戻るんですけど」
そう前置きして、
「実は、この亡霊を除霊する方法が一つだけあるんです」
「本当ですか!!」
私が解決方法を提示しようとした矢先、女性はまた大声を張り上げる。
当然、その声はまた周囲の注目を集め、後ろにいた男性職員に咳払いで注意をされる始末。
女性はまたも頭をぺこぺこ下げ、平謝りを続けていた。
・・・・まあ、彼女が大声を出す気持ちもわかる。
誰だって、亡霊に取り憑かれたままの生活なんて送りたくない。
同じ被害者である彼女に同情しつつ、
「確かに、除霊をする方法はあるにはあるんですが、それには、あなたの協力も必要なんです」
まだ謝り倒している彼女に私は言う。
「協力?ですか?」
「はい。見つけたその除霊方法が少し特殊で、結構な手間が掛かるんです。なので、あなたにも協力してほしいと思ったからこそ、今日ここに来たわけです」
「そ、そうだったんですね・・・・」
「詳しい話しはまた後で、仕事中のあなたに話すべき内容でもないと思うので」
「た、確かに」
女性は後ろにいる上司を気にしながら納得している様子だったけど、私としては仮にもここは敵地のど真ん中。
変に騒いだら、竹中夜半の目に留まる可能性が高い。
それを避けたかった私は、女性に一枚の紙切れを差し出す。
「私の連絡先が書いてあります。時間が空いたら連絡してください。その時に詳しいことは話しますので」
「わ、わかりました」
連絡先を書いた紙を恐る恐る受け取る女性。
ただの使い捨てのアカウントだから、そこまで畏まらないでほしい。
そう思いながら、席を立とうとしたら、
「あの、私が協力して、本当にこの幽霊をお祓いできるんですか?」
彼女の中ではすでに、稲葉一鉄は悪霊の類になっているようで、不安そうに聞いてくる。
「もちろん。可能性は十分にありますよ」
かなり低い可能性だけどね・・・・・
大丈夫。嘘〝は〟言っていないから、彼女を騙しているわけでもない。
はっきり言って胡散臭い話しではあるから、明らかな嘘を吐いても怪しまれるし、かと言って、本当のことを言っても協力してくれない気がした。
なので、私はぼやかしながら、
「それじゃあ、また後で」
そう言って席を立ち、その場を後にする。
成り行きを黙って見ていたロリっ子も、慌てて私の後に続き、
「協力してくれるかな?」
私の隣を歩きながら、不安そうに聞いてきたけど、
「断られたら断られたで、他の方法を探すしかないでしょ」
私としてはダメで元々、あまり期待はしていない。
だから、どう転んでも良いように次の対策は立てつつ、ロリっ子を引き連れ、私は市役所から出ることにした。




