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みののくに!  作者: ユキハ
11/23

奈三の決断

 瀧葉さんの話しを聞き終えた後、私はどんな表情をしていただろう・・・・

 暗くて重すぎる話しを聞いて、嫌気が差していたんじゃないだろうか。


 話しを聞き終えると同時に、瀧葉さんの前で申し訳ないんだけど、大きなため息が出てしまう。


 「本当に想像した十倍は気分の悪い話しですね」

 「そうね・・・・私にとっても良い思い出ではないわね」


 瀧葉さんは自嘲気味に笑うが、その表情は物悲しさを語っていた。


 「あの時、私にもう少しの力があれば、旦那様も奥様も殺されずに済んだんじゃないか・・・・そう思うと、今も後悔が残るわね」

 「殺されずに・・・・二人とも亡くなられたんですか?」


 私がそう聞くと、瀧葉さんはなんとも言えない表情で、当時の状況を教えてくれた。


 「旦那様はお屋敷の中で、奥様は逃げ込んだ森の中で遺体として発見されたそうよ・・・・」


 うん。本当に重すぎる。

 ご都合主義なハッピーエンドも好きじゃないけど、現実で起こったバッドエンドほど始末に負えないものもない。

 ただ平凡な日常を送りたい私にとって、あまりにも重すぎる話。すべてを放り投げて逃げ出したくなったけど、瀧葉さんの言葉で現実に引き戻されてしまう。


 「結局、旦那様が予想した通り、奥様を殺したのは旦那様ということになり、一家心中ということで事件は処理されて、すべての罪が旦那様に着せられたの」

 「それって、警察は状況証拠とか、そういったものはちゃんと調べなかったんですか?」

 「そこまではわからないわ。ただ・・・・後に出た報道で、拳銃で殺害されたと発表されていたけど、旦那様は拳銃なんて所持していなかった。それなのにそんな報道が出たということは、警察もろくに捜査をしてなかったんじゃないかしら」


 なるほどね。もはや、この件に関しては警察もあてにはできない・・・・そう思っていると、横のほうからなにやら不穏な気配が漂ってくる。


 「なに怒ってるの?」


 横を見ると、なぜかムスッとした表情をしている道三。

 私が理由を聞くと、ひねくれた答えを返してくる。


 「べつに怒ってはおらん。ただ、ワシに勝った男が、そんなただのゴロツキ相手に敗れたことが嘆かわしいと思っているだけだ」

 「あー・・・・ただ拗ねているだけね」

 「拗ねてもおらん!」


 とりあえず鬱陶しいので、煙を払うように手を振り道三を霧散しておいた。

 だけど、瀧葉さんは道三の言葉に笑い、


 「ふふっ・・・・確かに、殿にはこんな情けない姿は見せたくはなかったですね」


 道三に対して負い目があるのか、自嘲気味な笑みを浮かべつつも、


 「存外、女性の体というのは、かくもか弱きものなのです」


 自分の手を見つめながら瀧葉さんは言い、道三のほうを見てみると、道三は怒っているのか、それとも困っているのか、なんとも言えない表情を浮かべるのみ・・・・

 何年も会っていなくて、久しぶりに会った時の親子間に流れるあの気まずぞうな感じの空気間。その空気が漂い始めたけど、瀧葉さんの話しを一通り聞いた私からしたら、そんなセンチメンタルな感情を見せられても心が動かない。


 「正直、あの子の過去を聞いて悲惨だなって思いましたし、少し同情もできますけど」

 

 素直に、あのロリっ子も苦労しているんだなぁっと思いつつ、


 「同時に、相手が大きすぎて、私がどうこうできる話しじゃないなって思いましたね」


 警察という一大組織すらも不正に加担させるような相手、そんな相手になんの武器も持たない私が対抗できるわけもなく、


 「あの子が私になにを期待しているのか知りませんけど、恐らくなにもできずに終わる未来しか見えないですね」


 象が蟻を踏み潰すかのように、なにかを挑もうとしたところで一瞬で潰される。そんな想像しか浮かばない。

 一通り私が言い終えると、瀧葉さんが口を開く。


 「そうね。あなたの言う通り、私も無謀な戦いだと思うわ」


 私の言葉に賛同したと思いきや、すぐに、


 「だけど、姫様は決して諦めないと思うわ」


 そう言いながら、瀧葉さんはこっちを真っすぐ見つめ、


 「それなら、どんな結末になろうと最後まで姫様の傍でお仕えする。それが私の役目であり、亡きご両親への弔いでもあるわね」


 健気さと儚さを感じるようなことを言う瀧葉さんだったけど、無謀だとわかりきっていながら、果敢に挑戦するのはフィクションだけだ。

 現実はそんなフィクションのようにいかない。


 「・・・・なにか、対抗手段とか考えてるんですか?」


 ふいにそんなことを聞いてみると、瀧葉さんは少しの沈黙を見せてから答える。


 「手段があるとするならば、土岐家にあった金庫が唯一の手掛かりではあるわね」

 「金庫?」

 「ええ。旦那様が最後のほうでおっしゃていた私室の金庫。もしかしたらその中に、竹中夜半の弱味になるものが入っているかもしれないわね」


 そう言えば、そんなことも言ってような・・・・・正直、結末のインパクトが大きすぎて、頭からすっかり抜け落ちていた。


 「その金庫って、今どこにあるんですか?」


 私が聞くと、


 「多分変わらず、旦那様の私室があった部屋に放置されていると思うわ」


 あっさりと、その金庫が今どこにあるのか教えてくれた。

 ならば話しは簡単じゃないのか?私はそう思って、


 「だったら、すぐにその金庫を開けに行けば済む話しじゃないんですか?」


 楽観的な意見を述べるも、そう簡単な話しではなかったようで、瀧葉さんは首を横に振り、


 「それができているなら苦労しないわ」

 「どういうことです?」

 

 瀧葉さんがため息まじりに言うから、聞き返してみると、


 「土岐家のお屋敷には今、竹中夜半が住んでいるの」


 うん。詰みです。

 唯一ラスボスを倒せる武器が、ラスボスの手にある矛盾。

 攻略不可能な鬼畜ゲーみたいな現状に、私は挑もうとする気力すらなくなった。


 「それって、もはや打つ手がないんじゃないですか?」


 諦め気味にそう言うと、


 「そうね・・・・・」


 瀧葉さんからもその一言しか返ってこず、お通夜のように静まり返る中、私は一つ気になったことがあった。


 「一つ気になったんですが、なんでその金庫をまだ残しているんでしょうか?」

 「というと?」

 

 私の疑問の意図がわからなかったのか、瀧葉さんがそう聞き返してきたので、私なりに思ったことを口にする。


 「だって、その金庫の中身を見られたくないなら、鍵師に頼んで開けてもらったり、誰も来ない山奥に廃棄するなり、どうとでもできたんじゃないんですか?」


 そう私が言うと、瀧葉さんは「あー、そういうことね」と言いながら納得すると、


 「多分だけど、あの金庫に仕組まれた仕掛けのおかげで、竹中夜半も下手に手を出せないんじゃないかしら」

 「仕掛け?」


 その金庫の仕組みについて、瀧葉さんは思い出すように言葉を連ねながら私に教えてくれた。


 「私が女中として土岐家に仕え始めた頃、旦那様に金庫について尋ねてみると、無暗に触れるな、間違っても動かそうとするな。そう強く言われたかしら」

 「そんな危険な仕掛けが施されているんですか?」


 私はてっきり、金庫になにかしようとしたら、そこらじゅうから槍とかが飛んでくるような仕掛けを想像したけど、それは違ったようで、


 「そうね。危険かと言うとそうではないんだけど、少しでも動かそうとしたり、無理やり開けようとしたら警報が鳴る仕組みだったらしく、それが警備会社のほうへと通知が行き、警備会社からそのまま警察へと連絡が行って、なにか盗られていないか警察が金庫の中を調べる。そういった流れが取られているらしいの」


 なるほど。セキュリティー面がしっかりしているってことか・・・・

 納得はしつつも、やっぱり疑問が残る。


 「でも、竹中夜半と警察って、明らかに結託していますよね?だったら、警察が来たとしても問題はないんじゃないですか?」


 そう思って聞いてみるが、瀧葉さんの見解は違った。


 「さすがに全警察と結託しているわけじゃないだろうから、関りがない警察が来て中を調べられたら、危うくなるのは竹中夜半本人じゃないかしら」


 言われてみれば確かにそうか。

 警察だって、すべての人間が竹中夜半に忖度するわけではない。


 「それじゃあ、竹中夜半自身も金庫の取り扱いについて困っているってことですか?」

 「おそらくね」


 ふむ・・・・・そう考えると、付け入る隙が少しはあるということか・・・・・

 小さな希望ではあるけど、もしかしたら打開できる可能性があるかもしれないと思うと、気も少しは楽になる。

 そう思っていると、瀧葉さんがそっと呟く。


 「だけどあの金庫が・・・・良くも悪くも、竹中夜半を縛り付けているとも言えるし、竹中夜半をあの屋敷に居座らせているとも言えるわね」


 窓の外の景色を見て、想いを馳せる瀧葉さんだったが、ゆっくりと私のほうに顔を向けると、


 「多分、姫様が竹中夜半に固執するのは、恨みによる復讐もあるとは思うけど、一番は、旦那様と奥様との思い出があるあの屋敷。それを取り戻したい心が、姫様を突き動かしているんじゃないかしら」


 どことなく物悲しそうに瀧葉さんは言うけど、その原動力に巻き込まれた私としてはたまったものじゃない。

 でも、そんな文句も言える雰囲気ではないから、私も困ってしまう。

 すると、タイミングが良いのか悪いのか、ちょうどその時に、


 「ケーキ買ってきたよー!」


 なんとも間の抜けた大きな声が病室の中を駆け回り、私が声のした後ろを振り向くと、そこには疲れた様子のロリっ子が立っていた。

 相当走らされたのか、帰ってきたロリっ子は息も絶え絶え。

 だけど、ちゃんと買ってきたことは主張したいのか、買ってきたケーキの箱だけは前に突き出している。

 そんな彼女の姿に、さっきまであったなんとも言えない空気が霧散したのは助かったけど、真剣に考えていた自分が馬鹿らしく思えてきた。

 私はロリっ子のほうから瀧葉さんのほうへと向きなおし、


 「少し、考える時間をもらっていいですか?」


 そう断りを入れると、


 「ええ。もちろん」


 瀧葉さんも快く了承してくれたので、そのまま病室から出ようとすると、


 「えっ?えっ!」


 ロリっ子は私と瀧葉さんを交互に見た後、


 「ちょっと、どこ行くの?」


 不安そうな声で呼び止めてきたから、


 「少し風に当たってくるだけ」


 私は適当な理由を付けて、病室を後にした。




 病室から出た私は、なんとなく病院の屋上へと来ていた。

 病院の中に入る前は昼だったのに、いつの間にか街中は紅くなり、太陽が夕陽に変わっている。

 それだけ長く話しを聞いていたんだなぁって実感しながら、私は人や車が行き交う街並みを眺める。

 すると、街中を眺めていた私に道三が声をかけてきた。


 「なにか考えているのか?」


 見ると、道三は宙で寝っ転がって、心地よさそうな顔をしている。

 それにムカつきはしたものの、声を荒げるのも無意味だと思ったから、


 「べつに・・・・」


 私は一言だけを返して、また視線を街中に戻すと、道三も意図があって聞いてきたんじゃないのか、それ以上はなにも言ってこない。

 そんな道三に、私は聞いてみる。


 「ねぇ、瀧葉さんから話しを聞いて、あなたはどう思った?」


 なんとなく、ただ気になって聞いてみると、道三は寝転んだまま、


 「ふむ。そうだのぅ・・・・いつの時代も、土岐家は悲惨な末路を辿るものよのぅ。まあ、一つはワシのせいでもあるがな」


 ガハハハッと笑う道三に、そんなことを聞いた私が馬鹿だった。

 もう聞く気も失せた私だったけど、道三は笑い終えた後に言う。


 「ただ、土岐家はワシが仕えた一族でもあるから、こんなところで途絶えるなら不満が残るのぅ」


 自分も潰したくせに、そんな勝手なことを言う道三に呆れてしまうけど、それが道三という男なのかもしれない。


 「あなたならどうする?」

 「うん?」

 「この無謀とも言える問題を、あなたならどうやって解決する?」


 仮にも下剋上をやり遂げた男。細かい事情は違うかもしれないけど、状況的には下剋上に近い。

 参考になるかどうかはさておき、聞いておいて損はないと思って聞いてみると、


 「うーん、そうだのぅ・・・・・」


 寝転んだ状態から起き上がり、道三は考える素振りを少し見せてから、


 「昔と違って、今の時代は情勢も状況もまったく異なってなんとも言えんが、恐らく、あの童がワシを現世に降ろした理由も、ワシがやった下剋上を期待してのことだと思うぞ」


 そう言う道三に、


 「・・・・・それについては、私も同感ね」


 私も間違ってはいないと思い、賛同する。

 瀧葉さんから話しを聞くまでは、ロリっ子がなぜ道三を現世に降ろしたのかはわからなかった。けど、話しを聞き終えた後なら、道三を降ろした理由にも納得できてしまう。

 結局、解決の糸口が見つからないまま、私はまた、街並みを眺めるだけ・・・・

 そんな不毛な時間を過ごしていると、ガチャッという、屋上の扉が開く音がして、私が音のした扉のほうに目を向けると、そこに立っていたのはロリっ子だった。

 しかし、ロリっ子の表情はどことなく暗い。


 「瀧葉から全部聞いた?」

 「まあ、一通りは」


 あー・・・なるほど。だから気まずそうなのか。

 事情を黙っていたことが後ろめたかったのか、ロリっ子は不安そうにこっちを見ている。


 「逃げたくなった?」

 「・・・・そうね。逃げれるなら、それに越したことはないかもね」


 彼女自身も無理なことをお願いしているという認識があったようで、そんなことを聞いてきた。

 なので、私も素直に思ったことを答えると、


 「お願い!見捨てないで!」


 まるで、恋人の別れ際みたいな醜い文言を、泣きそうな顔で言われたけど、彼女の過去を聞いているせいで、その言葉がなにを意味しているのか理解できてしまう。

 

 「あなたを私の個人的な恨みに巻き込んだことは今でも悪いと思ってる・・・・・けど、もう頼れるのはあなたしかいないの」


 スカートの裾をギュッと掴み、


 「だからお願い。私から離れないで」


 震えながら言う彼女の姿は、とても弱々しかった。

 多分だけど、相手が相手なだけに、今まで何人もの人に断られたんだろうなぁ・・・・彼女の過去を聞き、震える今の姿を見て私は思った。

 そんな湿っぽい視線が鬱陶しくて、ついつい視線を空に移してしまう。

 夕陽に染まった紅い雲と紅い空、それを見ながら彼女に問いかける。


 「一つ聞いていい?」

 「・・・・うん」


 空を見上げたままだから彼女の姿は見えないけど、きっと、私が断るんじゃないかと思って、不安な様子だということが容易に想像できた。

 だけど、そんなことは今はどうでもいい。


 「私なりに竹中夜半について調べてみたけど・・・・あなたが相手にしようとしている人間は、簡単にどうこうできる相手じゃないってのわかってる?」

 「わかってる・・・・」

 「私が協力したとしても、竹中夜半を辞任させられる確率は1%・・・・あればいいほうで、多分だけどほぼ100%、辞任させるなんてことは不可能だと思ってる」


 最初はなにか穴がないか竹中夜半を調べていたけど、調べるにつれ、その考えは甘かったと思い知らされる。

 いろいろ考えに考え抜いたけど、私なりに弾き出した結果はほぼ不可能だということ。

 私が出した結論に彼女はなにも答えないけど、それでも聞かないといけない。


 「ほとんど諦めている私に、あなたはなにを求めているの?」


 自分でも嫌な質問だなとは思っている。

 こうやって、無理やり亡霊を降ろすことでもしない限り、協力者なんて現れないと思うし、それだけ竹中夜半という人物が厄介だということも調べてわかった。

 最初に会った時みたいに「他の人に頼れ」なんて言葉は軽々しく言えない。

 それがどれだけ無神経な言葉だったのかも今ならわかる。

 だからこそ聞かないといけない。

 彼女が私になにを求め、その先になにを見ているのかということを・・・・

 

 すると、彼女は呟くようにぽつりと言う。


 「私だってそんな馬鹿じゃないよ。竹中夜半を辞任させるなんて、ほとんど無理だと思ってるよ」


 復讐することで頭がいっぱいになって、前しか見えていないと思っていた彼女から、そんな言葉が出てきたことに少し驚いた。

 思わず、空を見ていた視界を彼女に移すと、彼女は真っすぐな目で私に言う。


 「私はただ、一緒に戦ってくれる仲間が欲しかっただけ・・・・」


 その純粋な思いと寂しげな微笑みに、私はなぜか気圧されそうになる。

 だからだろうか、彼女の覚悟がどれだけのものか知りたくなってしまった。

 

 「それで、殺されたとしても?」


 話しを聞く限り、竹中夜半は堅気ではない、明らかにやばい連中と手を組んでいる。

 彼女の両親が殺されたように、竹中夜半を相手にするということは、死に直結する可能性がということ。

 今ならまだ引き返せる。そう思ってした私の質問に、彼女は笑う。


 「お父さんとお母さんがいないこの世界で、ただのうのうと生きるぐらいなら、私は人生を賭けてでも戦う」


 断固として揺るぎそうにないその決意と覚悟。


 「戦って、それで死んだとしても、私に悔いはないよ」


 彼女はなんの迷いもなく、そう言い切った。


 ・・・・はあー、もう勘弁してよー。

 ここでごちゃごちゃ言ったら、私が器の小さい人間に見えるじゃない。

 彼女の言葉に、私はため息しか出てこない。

 まったく、私はただ、平凡に暮らしたかったのに・・・・

 いろいろな感情がぐちゃぐちゃになった私は、両手で頭を掻きむしり、


 「ああッ!もう!」


 無意識でそう叫んでいた。

 

 べつに、これで覚悟が決まったわけじゃない。

 でも、叫んだおかげでいろいろと吹っ切れた。

 叫んだ後、私は彼女に近付く。


 「えっ?」


 急に近付いた私に彼女は狼狽えるけど、気にしない。

 私はそのまま、彼女の脳天にゲンコツという名のお灸を据える。

 ごちんっと、鈍い音が響き、


 「いったー!急になにするの!」


 頭を押さえ、涙目になりながら文句を言ってくるけど、


 「これでチャラにしてあげる」

 「え?」

 「私に亡霊を勝手に降ろしたこと、それをさっきので許してあげる」


 私からしたら拳一発なんてだいぶ譲歩したと思っている。


 「正直、今だってこんな無関係なことに巻き込まれたことには腹が立ってる。だけど、それを放り投げてまで、自分は無関係だと言い張るほど、私は人間腐ってないつもり」


 前までの私ならどう思っていただろう・・・・・関係ないっと思って、もしかして切り捨てていたかもしれない。

 それほど自分はドライな性格だと思っていたけど、これが道三を降ろされた影響なのか、どうしても彼女を見捨てるということに二の足を踏んでしまう。

 だったら、いっそのこと・・・・・


 「だから、例え戦って負けたとしても、私を恨まないでね」

 「それって・・・・・」


 さっきまでなかった希望の光が彼女の目に灯る。

 そんな彼女の目を見て言う。


 「しょうがないから付き合ってあげる。この勝ち目のない戦いに」


 この選択に後悔がないかと聞かれれば、めちゃくちゃ後悔していると今でもはっきり答えられる。

 だけど、そんな私の悔いをかき消すように、彼女の嬉しそうな顔はとても眩しかった。

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