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ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】  作者: 音無やんぐ
第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

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第32話 魔法少女人造計画 その一

「ど、どしたの? ふたりとも?!」


 蔵間は、体中傷だらけの白音と佳奈を見て驚いた。

 顔は擦り傷だらけ、露出した足や腕にも包帯が巻かれている。

 ふたりはお互いの顔を見合わせて、思わずぷっと吹き出す。


「いやいや、笑いごとじゃないから」


 チーム白音は、ブルームからの召集を受けて研究所に集まっている。

 小会議室で五人が待っていると、蔵間と、今は秘書モードの橘香、そしてリンクスが入ってきた。

 凜桜の持っていたTRコードから、データが取り出せたと報せがあったのだ。


「ここ最近は任務の依頼無かったよね? なんでそんな酷いことになってるの?」


 蔵間が橘香の方を見ると、橘香が耳打ちする。


「内輪もめって、そういうレベル…………?」


 橘香も肩をすくめる。


 魔法少女は傷を負うと、どうやら重傷のものから先に治癒していくらしかった。

 星石が、緊急度選別(トリアージュ)めいたことをしていると考えられる。

 大量の傷を負うと、まずは大事な器官から治していき、ひとまず動けるようにしてくれる。

 その後命に関わりの低いものや軽い傷を治す、という優先順位があるらしい

 白音と佳奈は体中がばっきばきのぐっちゃぐちゃだったから、まだ目に見える部分の治癒が間に合っていない、ということだ。


 事情を知っている、というか原因を作ったリンクスは居心地が悪そうにしている。

 白音の誕生日に端を発したあれやこれやは内輪の喧嘩ということで、居合わせた者の胸の内に収めておこうということになっていた。

 リンクスはギルドメンバーに危害を加えようとしていたわけだから、当然責任を取ってギルドを去るつもりでいた。

 しかし当の被害者は『いいこと』しかされていないと思っている。

 チーム白音に関しては騒ぎは起こしたものの、街に被害は無し。

 破壊したのはブルームの実験用の私有地。

 そもそも魔法少女が特殊な立場にいることを考えれば、せいぜいが厳重注意というところだろう。

 仮にリンクスがギルドを去ったとして、『で、ギルドはどうなるの?』ということになる。

 リンクスが辞めることはギルドにとって不利益でしかない。

 ヒトの社会での反応とは違うかもしれないが、引責したければ辞任、ではなく有能な者ならばその分頑張って働け、ということである。


「ま、まあ、あんまり、やり過ぎないでね」

「はぁい!」


 蔵間が諌めると、白音と佳奈、ふたり揃ってすごくいい返事が返ってきた。


 蔵間の都合で会議の時間が少し遅れたのだが、その間五人は荷物を広げてチクチクと縫い物をしていた。

 橘香はひと目見て、それが自分の領分であるとピンと来ていた。

 時期的にハロウィンのコスプレ衣装だろう。

 そういうのを見るとどうしてもうずうずする。

 しかし数が多いように見える。サイズもまちまちだ。


「ところでみんな何作ってたの?」


 蔵間が代弁して、秘書の知りたいことを白音に訊いてくれた。


「若葉学園でハロウィンパーティをやるんです。子供たちみんなの衣装を作らないといけなくて、時間がないんです」

「おお……。僕たちも行っていい?」


『たち』とは橘香とリンクスのことを指していると思われる。

 白音の返事を待たずに、橘香が十月末の予定をタブレット端末で調べ始めた。


「え、あ、はい。大歓迎ですけど、ハロウィンの夜は橘香さんとふたりきりで、とかじゃなくていいんですか? あ、橘香さん、うちのハロウィンは十月二十八日の日曜日にやる予定です」


 白音が男女のことについて、いっぱしの気遣いを見せる。

 莉美がちょっと笑った。


「いやいや、橘香のコスプレ見たいし、僕もコスプレしたいし。なんか仮面の紳士的な奴」


「ねぇ、橘香」、と蔵間に投げかけられて、橘香は手を添えて眼鏡のツルを持ち上げる仕草をする。

 既に頭の中ではふたりのコスプレ案を何通りか考えているようだった。

 しかし橘香のコスプレは見たいが、蔵間の方は正直なところ…………。


「露骨に興味なさそうだね……。ならばこのイケメンギルマス。リンクスはどんな格好させたい? ファンタジーの王子様的な奴?」

「それよく見てました。殿下のい…………」


 言いかけて慌てて止める。

 白音からすればそれは、むしろリンクスの普段着である。

 が、そこら辺のことは蔵間には後で自分からしっかり説明すると、リンクスに言われている。

「よく見てました」って何かのプレイかな?

 最近の子はすごいね。

 確かに似合うよね。

 名字川君はお姫様の役かな?

と、蔵間は勝手に思う。


ゾアヴァイル(ブラッディローズ)と顔だけ王子様!!」


 莉美は、変な言葉だけすぐに覚える。

 嬉しそうにそう言った瞬間に、白音が机の下ですねを蹴る。


「ぐ……」


 結構痛かった。

 白音のツッコミは、なぜこうも的確に急所を突くのか。



「みんな傷のメイクとかするじゃない? ふたりはそのままいけるよね。ゾンビメイクとか」


 蔵間が何気なくそんなことを言うと、白音と佳奈にじろっと睨まれた。

 蔵間は平気なふりをしたが、めちゃくちゃ怖かった。

 実力に裏打ちされていて、本当に怖い。

 魂が縮み上がるような思いをしていると、こっそり橘香が背中に手を回して抱いてくれた。

 それでどうにか、蔵間は平静を取り戻す。



「そ、それじゃあ始めようか。神君お願いできるかい?」


 だいぶ余談に逸れてしまったが、TRコードの解析結果報告だ。

 蔵間に請われた一恵が、会議室と外とのエネルギーのやり取りを遮断して、機密漏洩対策を取る。

 部屋が薄暗くなると、プロジェクターの映像がスクリーンに投影された。

 紙資料は一切配られないから、ここで覚えて帰るしかない。

 もちろん覚える気がある者は、の話だが。

 そらが解析の責任者として説明を始める。

 演台がそらには少し高くて、マウスが操作しにくそうだった。

 それを見て一恵が悶えている。


「そらちゃん、肩車しよっか?」


 いやいや、それは高すぎるだろう。

 天井にマウスは無い。

と、一同が一恵に心の中でツッコミを入れる。


 むっとしてそらが魔法少女に変身して、スクリーンを指さす。

 すると、スクリーン上に光の点が現れた。

 魔法の光で作ったポインターだ。

 そんなささやかな抵抗が、余計に一恵をきゅんとさせているのだが、そらは知らない。


 技術的な説明は省いてあった。

 凛桜がその命を懸けてもたらした情報のみが伝えられる。


 まず、データの中には根来衆(ねくるしゅう)が行った実験のレポートがあった。

 それは『魔法少女人造計画』と呼ばれているものだった。

 着手したのは十二年ほど前らしい。

 内容はむごいものだった。

 百人の身寄りのない少女を拉致、洗脳教育を施してその後、無理矢理星石を移植して経過を観察している。

 適合者であれば魔法少女の力に目覚めると予想されていたが、裏を返せば適合者でなければ死ぬ、ということだ。

『被験体』と呼ばれた少女たちにはCase001からCase100までの数字が振られている。

 レポートによれば、移植直後にCase035が拒絶反応を示して昏睡状態となったらしい。

 回復の見込みのない植物状態ではあったが、データを取るために生命維持は続けられた。

 その後他の九十九人も時間の差はあったものの、結局全員が拒絶反応を示した。

 ただ、035のみがその状態のままで生き続けていたのに対し、他の九十九人は生命を維持することすら叶わず、次々に死んでいった。

 そして九十九人目の死亡を待っていたかのように、035の脳波も同時に停止。

 それで全員が死亡した。

 実験は失敗に終わったと思われた。


 しかし035の脳波停止から約一時間後、異変が起こった。

 035が目を覚ました。

 既に計測機器が取り外されていたため、この瞬間に何が起こったのかは不明だった。

 しかし後から計測したところ、035の脳波は昏睡状態を継続したままであることが確認されている。

 覚醒する瞬間を間近で目撃した者は、非科学的ながら「九十九人の命を035が吸った」ように感じたという。


 035がどういう状態にあるのかは解析不能だったが、魔法少女としての力に目覚めていた。

 星石も英雄核として定着していた。

 035が持っていたのは死者を操る能力『ネクロマンシー』であった。

 そしてそれのみならず、操る死体とは感覚を共有し、その生前の能力を発揮させることができた。

 目覚めると同時に九十九人の被験体を既に操っていたのだが、彼女たちは035の傀儡として035の意思どおりに動き、それぞれが魔法少女としての力を使うこともできた。

 つまり九十九人は、死んでから英雄核が定着したと思われる。


 035の意識レベルは低下しているように見えたが、洗脳の効果は持続しているようで、根来衆の頭領である根来親通(ねくるちかみち)の命令を忠実に聞いた。

 レポートによると親通(ちかみち)は驚喜した、とある。

 目論見どおりの形ではなかったが、忠実な兵士としての魔法少女が手に入った。

 目的は達したと言える。


 会議室にず、ず、ず、ず、という低い音が鳴り響いて、机に置かれた紙コップがカタカタと音を立て始めた。


「な、何? 地震?」


 蔵間が慌てた。

 外からのエネルギーは、一恵の能力によってこの部屋まで到達しないはずなのだが。


 どうやら魔法少女たちのあまりの怒りに、放出された魔力(エーテル)が互いに共鳴して、うなりを発生しているらしかった。


「私も気持ちは同じ」


 そらがそう言いながら白音たちを観察し、少し計算した様子で白音に近づく。

 白音は笑顔を作ってみせたが、根来衆に対する怒りを抑えがたい様子だった。

 もしこっちに向けられていたら、それだけで卒倒しそうなくらいの殺気を放っている。


「みんな猛獣だから。白音ちゃんまでそっちに行かないで」


 白音の座る位置をほんの少し、20センチメートルほど横にずらすと、地鳴りがぴたっと収まった。

 何故それだけで止まるのか、不思議に思って魔法少女たちは少し冷静になる。


「そらちゃん、ごめんね。ありがとう」


 白音から立ち上っていた怒りの狼煙は立ち消えている。



「蔵間さん、根来衆っていったい何なんですか? 民間軍事会社(PMC)だということくらいしか知らないのですが。日本で武装して……ってわたしたちが言えたことではないでしょうけど、そんなの許されるんですか?」

「ああ、うん。公には主に軍事を専門とするシンクタンク、という立場を取っているね。さすがに日本で『軍事請け負います』とは言えないしね。もちろん政府との深い関係性なしには成立しない立場だけど。成立起源は結構古くてね。歴史はあるんだ、これが」

ついに根来衆が尻尾を出しました。

白音もですけど。

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