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ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】  作者: 音無やんぐ
第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
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第3話 魔法少女VS巨大イカ その三

 佳奈は魔法少女ギルドのことは「悪い人たちだとは思わないよ?」と言った。

 白音は佳奈のそういう野生の勘みたいなものは、確信めいて受け容れている。


「ねぇねぇ、ギルド員さんにものすごいイケメンの外国人がいるって話は?」

「ん、んん……?」


 莉美の話はいつも前触れなく、突拍子もない角度から切れ込んでくる。

 白音は一瞬、返答に詰まって佳奈の方を見た。


「イケメン? 何……?」


 佳奈にとってもそれは初めて聞く話らしく、首を傾げている。

 ギルドのアプリには魔法少女専用のSNS、匿名の情報交換の場のようなものがある。

 どうやら莉美は、そこで他の魔法少女たちからその話を聞いたようだった。

『イケメンさん』の事はよく話題に上るらしい。

 しかしそんな口コミ情報よりも何よりも、既に見知らぬ魔法少女たちと積極的に交流しているらしい莉美のコミュ力が一番驚きだった。



「いや、まあ……。アタシもギルドの人に会ったことはあるけど、イケメン……だったかなぁ…………?」


 仮に佳奈がその『イケメンさん』に会っていたとしても、おそらくは覚えていない。

 イケメンだとかそうでないだとか、そういう部分に興味を持って人を見ていないからだ。


「まあ、ギルドに登録せずに待ってれば勧誘に来てくれたのかもね」


 佳奈は苦笑交じりにそう言った。


「えー、そうなの? 登録しちゃったじゃない、もう!!」

「アタシに怒るなよ。そんなの知らないから……」



 先程そらも、「登録せずに放っておけばギルドの方から接触がある」と言っていたと思う。

 勝手に居所を突き止めて会いに来るなどと、白音としては怖い話だと感じた。

 しかし確かに、こんな大きな力に目覚めた子たちを何もせずに放置しておくのも、それはそれで問題だろうとは思う。

 ただ、勧誘員さんがイケメンかどうかは白音も関知するところではない。


 白音なら知らない人に勝手に押しかけられるのは嫌だ。

 しかし莉美ならきっと、誰が来るんだろうとわくわくしながら待つのだろう。目に浮かぶようだ。



「…………えっと、話を戻すわね。あとはブルームって企業のことが気になるんだけど」


 白音はスマホでブルームの事を検索しながら尋ねた。

 ブルームという企業のホームページはちゃんと存在している。

 電子機器、部品の製造メーカーであり、スマートフォンの中身などを作っている、とある。

 歴史の浅い企業のようだが、特に不審な点はない。

 本社や工場、開発施設が白音たちの街から割と近い場所にあるのが少し目を引いたくらいだ。



「時間がなかったから、ブルームについてはざっと調べただけなんだけど…………」


 そう言ってそらが教えてくれた。

 しかし『ざっと』と言った割に、その内容はとんでもなく詳しかった。

 どうやって調べたのかは知らないが、明らかに一般人では入手できそうにないものも含まれている。


「ブルームは、まだ魔法がただのおとぎ話だと思われていた頃から研究を始めている。多分、世界で最も異世界事案についての情報を持っている集団だと思うの。既に大企業と言っていいレベルにまで成長できているのも、魔法と現代のテクノロジーを融合させた革新的な技術開発のたまもの。スマホの魔力紋(エーテルパターン)鑑別システムも、その課程で生み出されたものだと思う」


 それを聞いて白音は、(ああ。やっぱり黒幕ですよね)と思った。



 そらの語ってくれた話によれば、公的な機関が異世界事案について極秘裏に存在を認定し、調査を始めたのは今から十五年ほど前のことである。

 それ以前からも異世界事案は常に一定数発生していたと思われるが、迷信深い時代であればそれは、物の怪や神仏の引き起こす類いのものとされてきた。

 そして時代が下っては、科学で説明できない物の存在自体を信じるものが少なくなる。

 異世界への転移はただの行方不明事件とされ、こちらの世界への転移事件は作り話か、それとも何かの見間違いとして捉えられていた。


 それが近年になって異世界事案が増加してきた。

 これをブルームは異世界との隔たりが『緩んできている』と表現しているが、それによって異世界へ転移した者が再びこちらへ還ってくるという『再帰事案』が複数確認された。

 彼ら帰還者の語る異世界の様子が細部に至るまで異口同音に一致しており、これによって政府は異世界の存在を信憑性が在るものとして認定、調査に動き始めた。

 ようやく政府が重い腰を上げたが、この頃にはブルームはもう実用的な研究、開発に着手していた。

 既に『星石』や『魔法少女』を具体的な研究対象としており、科学技術との融合、共存を目標に掲げている。


 そしてブルームが魔力紋(エーテルパターン)鑑別システムの原型を完成させると、政府はこのシステムを有用と判断。

 キャッシュレス決済やIDカード普及の施策で後押しして、非接触通信チップ付きのスマートフォンを日本国中に普及させた。


 ブルームは政府からのバックアップを受けて企業としての表の顔を発展させつつも、極秘裏に魔法少女の保護、支援を行っている。

 魔法少女たちの手による自治組織の色合いが強い『魔法少女ギルド』と、そのバックアップを行う『ブルーム』、どうやらこのふたつの組織が緊密に連携して魔法少女たちを支えているということらしかった。



「これ、魔法少女発見器だったのね……」


 白音は手元でスマホを弄びながらぼそっと呟いた。

 魔法少女としての活動歴が長い佳奈も、その辺りのことはある程度知っているようだった。

 そらが話した内容には佳奈から聞いた話も含まれていて、統合的に整理されている。

 ただ、それ以外のどう考えても機密情報だと思われる部分を、そらがどうやって手に入れたのかは聞かないでおこうと思った。

 黒幕からそういうやばいものを引っ張ってくる彼女の胆力に感嘆する。



「そういえばHitoeさんて……」

「うん?」


 白音がふと疑問に思って佳奈に聞いてみる。


「Hitoeさんて初めから魔法使えたのよね? 星石に選ばれる前から魔法少女だったの?」

「そう……なのかな? 魔法少女になる前から不思議な力を持ってたって話は、他にも聞いたことあるんだ。アタシだって元々この腕力とか……、まあ、魔法でもないと説明つかないしさ…………」


 佳奈がちょっと遠慮がちな言い方になったのは、その高い身体能力のせいでかなり苦労して生きてきたからなのだろう。


「でもだったらなんでその時点で発見器……じゃなくて魔力紋(エーテルパターン)鑑別システムは反応しなかったのかしら?」

「いや、ああ……。うん?」


 佳奈がそのままそらの方を見て答えを求める。


「推測だけど。星石に選ばれる前と後では、一恵(ひとえ)さんの魔法の威力が段違いだった。魔法少女になって、魔力が跳ね上がることで反応が出たんだと思うの」

「そう……。ほんとに魔法少女専用の発見器ね…………」


 内容が興味深く、白音はつい集中して話し込んでしまっていた。

 しかしふと、莉美はこういうややこしい話、きっとまともには聞いていないだろうと気がついた。

 だが莉美は、珍しく熱心にそらの話を聞いている。


「莉美、ついて行けてる?」

「ううん。まったく。でも一生懸命喋ってるそらちゃんが、見ていて飽きなくて」


 いや、まあ確かに白音にもその気持ちは分かる。

 気持ちは分かるのだが……、聞いているだけでも良しとしよう。


 プイとそらが、莉美から顔を逸らして話を続ける。


「それでね、魔法少女ギルドは独自に利益を上げていて、かつ政府からの支援も受けているの。だから所属してる魔法少女には活動に応じて報酬が出る」

「あ、そのことでちょっと確認したかったんだけど」


 そらからプレゼン資料を受け取って、白音も少し気になっていたことがあった。


「まさかわたしの学費稼ぎの手伝いを、みんなでしようって言うんじゃないわよね?」

「いやいや、逆逆。そんなん白音がいい顔するわけないの知ってるよ。アタシら基本的にみんな自分がやりたいんだよ。それで引っ張ってくれるリーダーが必要だから、そしたらみんな、白音しかいないよねって」


 確かに佳奈なら、白音が負担に感じるような考え方はしないだろう。

 至極単純に「一緒にやろうぜ」と言ってくれているだけなのだ。

 そして細かいことは、上手くいくように多分そらが考えてくれたのだろう。


「そのためのプレゼン資料なの」


 そう言ってそらが胸を張る。

 白音と一緒に魔法少女をしたいから、巻き込むために資料を作ったのだ。


「それに、うちのパパが言ってたけど、『星石は正しい志に応えて力を貸す』って言い伝えらしいんだ。だから友達のお金稼ぎの手伝い、なんて気持ちで変身できるとは思えないよ?」


 確かに佳奈の言うとおりかもしれない。

 魔法少女って、きっとそういうものなんだろうと白音も思う。

 上手く言葉にはできなかったが、佳奈や莉美、そら、そしてここにはいないけれど一恵にも、深く感謝の念を抱く。

 みんないい奴らだなと思う。

 そしてそんな彼女たちをパートナーに選んだ星石も、よくは分からないが、きっといい奴なんだろう。

 じわっと胸が熱くなる。



「ん、どした、白音?」

「べーつにー。佳奈は相変わらず『パパ』って言うんだなぁと思って」

「うっせ」


 佳奈が父親をいつも『パパ』と呼んでいるのは見た目とギャップがあって白音は好きだ。

 タヒチ出身の父親セブランはフランス語が母語なので、そのせいなのだろう。

 母親のことは『ママン』と呼んでいる。より一層かわいい。



「まあ、星石に聞いてみたわけじゃないから、なんでみんなが選ばれたのか本当のところは分かんないんだけどさ」


 そう言って佳奈は、ペンダントにしている紅玉のような星石を取り出して見せてくれた。

 佳奈のその宝石は、父方の先祖から代々受け継がれてきたものだと白音は聞いたことがある。

 莉美とそらもふたりの星石を取り出して見せてくれた。

 それぞれコスチュームの色を反映しているような、莉美のものは眩しい黄金(こがね)色の輝きを放ち、そらのものは淡い海のような青い輝きを宿している。

 莉美が趣味にしているアクセサリー作りで、ペンダントにしてくれたのだという。



「白音ちゃんのも見せてよ。桜色の綺麗な石だったでしょ。ペンダントにしよ?」

「いや、それがね…………」


 白音の星石はどこにも見当たらなかった。

 みんなが変身を解いた後ちゃんと星石を持っているのを見て結構焦ったのだが、どこをどう探しても見当たらないのだ。


「でも変身できてるんだよね?」


 莉美が心配そうに……、なフリをして白音のセーラー服の胸元を引っ張って中を覗こうとしている。


「この前白音ちゃんの体、隅から隅まで調べて分かったんだけど……」


と、言いながらそらも一緒に胸元を覗こうとしている。


「隅からって。言い方……」

「調べた結果、多分白音ちゃんの星石、変身してなくても体の中に入ってるの」

「寝ぼけて食べたの?」


 すかさず莉美が、今度は白音の口を開けさせようとする。


「いや莉美じゃあうあいひ……」



 その件に関してはそらも把握していて、既にフォローアップを終えていた。

 ギルドに問い合わてくれたらしい。

 それによると、魔法少女が星石の力を借りて変身する場合、普段の星石は体の外にある。

 そして変身した時にのみ体内へと取り込まれて魔力を供給する源となってくれる。


 しかし中には、もっと高次のレベルで星石の力と適合して、より大きな力を引き出せるようになる魔法少女がいるらしい。

 そのような少女たちは魂と星石が融合して恒久的に体内に取り込まれており、それが核となって大きな魔力を生み出せるようになっている、とのことだった。



「強さの証なの」

「おー、さすが白音だなぁ」

「やっぱり白音ちゃん、期待どおり!!」


 かなり脳天気な感じでみんなが褒めてくれる。


「人ごとだと思って適当言ってるでしょ。わたし、宝石掲げて変身よっ! てやるの憧れだったんですけどっ?!」


 白音がみんなのペンダントを羨ましそうに見ている。

 佳奈はそれを見て(あー、そこなんだぁ)と思った。


「何とかしてよ。佳奈」

「いや、アタシに言われても……、なあ……」


 とりあえず佳奈は、拗ねる白音の頭をポンポンと優しく叩いて慰めておく。



 ああだこうだと女子会を楽しみながら、情報と連絡先の交換を終えた。

 白音もようやく気兼ねなく、佳奈から魔法少女の話やこれまでの事を聞かせてもらえて満足だった。


 かなり長時間カフェを占拠してしまっていたと思うが、結局一恵からの返信は来なかった。


「わたし、もしかして嫌われたかなぁ……?」

「いやいや、変な人だけど、そんなことはないと思うけど?」

「佳奈。変な人は関係ないよね?」


 その後、丸一日が過ぎてからようやく一恵からの返信が来た。


[素敵なコスチュームですね。白がよくお似合いです]

「素っ気なくない、コレ!?」


 やっぱり嫌われたのかなぁ、何がいけなかったのかなぁと白音はしばらくめげた。

第4話に続きます。

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― 新着の感想 ―
楽しげな雰囲気の中、怪しげな企業の出現もまた雰囲気があってとても良いと思います。身体に石が入っちゃった。そして、隅々まで調べたと言うのがまた良いですね。いろいろ。今回もとても面白かったです。
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