第22話 魔法少女探知レーダー その一
若葉学園の子供たちが拉致されたと知らされ、白音たちは急いで学園へと向かった。
一恵が予め決めておいた合流地点へと迎えに来てくれて、白音、佳奈、莉美の三人を学園へと送り届けてくれた。
日が暮れて、辺りはすっかり暗くなってしまっている。
一恵は白音の手を取って両手で包み込んだ。夏だというのに、お互い手が冷たくなっているのを感じる。
「そらちゃんとふたりで居場所は必ず突き止めるわ。時間が惜しいからもう行くね。冷静にね」
「ありがとう、大丈夫。みんなを信じてる。もう焦らない。ひとりで空回りしない。若葉学園だけじゃない。さらわれた子たち、みんな助けなくちゃ」
白音は自分に言い聞かせているようにも聞こえる。
「うん」
一恵は白音の頭を軽く撫でると、ブルームへと戻っていった。
三人が学園のエントランスホールに入ると、食堂の方に人が集まっているのが見える。
名字川敬子が真っ先に白音を見つけて、飛んできてその体を抱きしめた。
「白ちゃん!! 佳奈ちゃん、莉美ちゃんも無事なのね? 蔵間理事から子供たちだけでこっちに向かってるって聞いたから心配してたのよ。来なさい」
白音と年の近い子たちが集められている。
無事の確認をしていたのだろう。
幼い弟妹たちは多分別の部屋で、先生たちが付き添ってくれているのだと思う。
スーツを来た見慣れない数人の男女が同室している。
そこで白音は思い至った。
こういう場合、普通は警察に相談するのだ。
真っ先に魔法少女を呼ぶ人は滅多にいないだろう。
彼らは多分警察官、いわゆる私服刑事という奴だ。
敬子が事の次第を説明してくれる。
既に白音たちはリンクスから聞いている話だ。
連絡が取れなくなっている子たちの名前を聞くと、やはり女の子ばかりが四人、年齢は十三歳から十六歳だった。
既に報告されていた他の誘拐事件と年齢層が一致している。
それは、魔法少女になることが多く報告されている年代だ。
少女たちがいなくなった際、他に男の子が三人、一緒にいたのだという。
その子たちによると七人で出かけていたらしい。
若葉学園では毎月、その月に誕生日を迎える子を主賓にしてお誕生会が開かれるのだが、白音は九月二十二日が誕生日になっている。
『なっている』というのは白音が〇歳で乳児院に保護されたのがこの日だからだ。
白音はその身ひとつで葦の河原にいたところを発見されており、誕生日はおろか身元に繋がるものは一切持っていなかった。
七人はそんな白音に誕生日のプレゼント贈るべく、買い物をしていたのだそうだ。
それを聞いて白音は心臓の辺りがぎゅぅぅっと締め付けられるのを感じた。
本来は金銭的な負担も考えて、誕生日の子には学園からプレゼントが贈られることになっている。
しかし七人はどうしても自分たちから白音にプレゼントを贈りたいということで、先生に願い出たのだという。
白音が最も年長で、ほとんど先生と変わらないくらい自分たちの世話を焼いてくれている。
そして高校に進んで寮に入り、多分もうあまり一緒にいられる時間がない。
だから感謝の気持ちをどうしても伝えたかったのだそうだ。
男の子三人は、気づいたら路上に倒れていたらしい。
不審なものは見ていないし、何が起こったのかも分からないとのことだった。
そして一緒にいたはずの女の子だけが忽然と姿を消した。
読心などできなくとも、白音の怒りが音に聞こえそうなくらいに伝わってくる。
気持ちは分かるが、(こんなんでどうやって敬子先生を誤魔化すんだよ)と佳奈は思う。
少し落ち着かせたくて白音のお尻を軽く叩く。
だが次の瞬間、警察官から「まだ事件と決まったわけではない」と言われた。
今度は佳奈が怒りに震えてその警察官の胸ぐらを掴む。
さすがに魔法少女としても女子高生としてもやってはいけない行為だ。
補導されて欲しくないので白音が慌てて止める。
そのおかげで、ちょっと白音は落ち着くことができた。
いささか不審な点はあるものの、確かに誘拐と決めつけることはできないだろう。
未成年と言えど、無断で一日くらいなら家に帰らない人間はざらにいる。
警察としては断定するのは早計なのだ。
もちろん最近起こっている他の誘拐と思われる事案と合わせて、事件の可能性は高いと考えてはいるらしかった。
ただ、もしすべての事案が共通の犯人によるものだったとすると、これで四件目、少女ばかりが二十人もさらわれたことになるらしい。
発生場所も関東一円に拡がっている。
組織ぐるみの犯行としか考えられないのだが、それだけのリスクを冒すメリットが見えてこない。
そのため警察も判断に迷っている。
(まあ、そうなのよね。それが普通の考え方なんだ。だからわたしたちが何とかしないと解決できっこないんだ)
白音はそう思って佳奈と莉美を見ると、ふたりも頷く。
「わ、わた、わたしたち……」
敬子に嘘をつこうとして、白音が綺麗に噛んだ。
「わたし、学校の寮に戻ってますね。み、未成年だし、みんなと一緒にいた方が安全だし…………」
莉美は(そんなわけあるかぁ。嘘つくにしても下手すぎ)と思ったが、さすがに空気を読んで何も言わない。
私服警察官が送っていこうと言ってくれたが、外に一恵とリンクスが立っているのが見えた。
この状況では未成年の少女たちだけでは行動が制限されてしまう。
警察官もまさか転移ゲートで移動しているなどとは思いもよらないだろうから、当然付き添ってくれることになる。
そうなると多方面に手間を取らせた上に時間まで無駄にしてしまう。
それを見越したリンクスが保護者の役割を担うために付き添ってきたのだ。
魔法少女だと明かすわけにもいかない彼女たちを、自由に行動させるためだ。
「む、迎えが来てくれたので平気です。が、学校の先生……です…………」
さすがに嘘が過ぎて、白音の声がだんだん小さくなっていく。
白音たちがそそくさと外へ出ると、敬子が追ってきた。
一恵とリンクスが慌てて頭を下げる。
「あなたたち、何か知ってるんでしょ? 多分さらわれた子たちを助けようとしてくれているのよね?」
「…………はい」
少し逡巡の間をおいた後、白音ははっきりと肯定した。
皆がはっとしてその顔を見る。
白音は、覚悟を決めていた。
「警察では解決できないことなの。わたしたちなら何とかできるかもしれない。おねが…………」
「そう…………」
嘆息して敬子は白音の頬を両手で挟んだ。
「少し前から、何かやってるのは知ってたわ。危険なことなのね? 私たちは見送ることしかできないのね? 何をしようとしているのかは分からない。でもお願い、本当に危なくなったら逃げるのよ?」
佳奈、莉美、一恵を順に見回し、そしてリンクスだけは少しじろりと見据える。
いつも泰然としているリンクスが珍しくたじろいだ。
「よろしくお願いします。でも皆さんも自分を大切にね」
敬子が深々と頭を下げた。
全員が襟を正す。
そして敬子は、白音の背中をどんと叩く。
「任せたわ。悠月ちゃん、明理彩ちゃん、華音ちゃん、怜奈ちゃんのことお願いね。そして他の子たちも助けてあげて。あなたに無理なら世界中の誰でもきっと無理ね」
「はい、お母さん!」
「こっちはこっちでやれるだけのことはしておくわ」
そう言って敬子は学園の中へと戻っていった。
全員、タイミングを見計らったかのようにふぅっと息を吐く。
こういう時、敬子と話すと何故か肩に力が入るのは白音だけの現象ではなかったらしい。
「迎えに来たわ」
一恵が改めてそう言った。
「今そらちゃんが最終調整をしてくれてる。あと三十分もあれば準備できるそうよ」
ウインクをしてみせる一恵の表情には、少し余裕が戻っている。
が、学校の先生です。どんな言い訳しても見た目のせいで浮いちゃうリンクスさんです。




