第23話 黄金珠玉のソロライブ その四
初代市長の智頭や百人議員たちと共に囚われていた、少女キリ。
その正体は魔族だった。
莉美がそのことをあっさり暴露してしまったので白音は慌てた。
だが智頭たちもそのことは既に知っていたという。
白音は少し試すように、彼らの前で偽装を解き、自らも魔族であること見せつける。
彼らが魔族に対してどんな思いを持っているのか、キリに対してどんな態度をとるのか知りたいと考えたのだ。
魔法少女が魔族だった。
さすがにこの事実には智頭たちも少なからず驚いていた。
だが差別意識や嫌悪感のようなものは一切窺えず、あくまでひとつの個性として受け止めているようだった。
「私たちとしては、魔族の方でもまったく区別なく市民として受け容れる用意があります。ただ、人族の皆さんとの間に軋轢があるのは確かなので、正体を隠されることについては今は何も言うつもりはありません。人族も魔族も我々も、いずれは共に良き隣人となれる、というのが基本的な考えです」
法務を担当している大宅という議員の言葉だった。
それは智頭や議員たちが持つ共通理念らしく、全員が深く頷いている。
「さすがに魔法少女さんが魔族だったとは少し驚きましたが」
大宅が悪戯っぽい笑みを浮かべてそう付け加えた。
彼女は、どうやら少し茶目っ気のある性格をしているらしい。
白音も笑顔を返し、その美しい銀翼を大きく広げて見せた。
魔法少女であり、魔族でもある。
それは確かに特異な存在だろう。
しかし白音は、今のその姿に誇りを持っている。
そして同じ魔族であるキリが、ここでは温かく迎え入れられていると知って少し安心していた。
「えと……。それではキリちゃんみたいな小さな子が、こんな所にいるのはどうしてなのですか?」
白音が大宅に、重ねて疑問をぶつけた。
どうやらこの街では、尻尾が生えているからといって逮捕されるようなことはないらしい。
だとするとこんなに幼い子が政治犯でもあるまいに、何故牢獄に囚われなければならないのか。
「キリちゃんを始めとして、ここにいる未成年の子たちは皆人質として収容……いえ、不当に監禁されているのです」
「人質、ですか…………」
「はい。この子たちの親御さんの能力に目を付けた斉木が、その力を手駒として使うためにここに閉じ込めているのです」
大宅は、未だソロライブの興奮冷めやらぬといった様子の莉美をちらりと見た。
「大空さんから事情は伺っています。彼女がここに連れてこられたのも、おそらく同じような事情でしょう」
確かに白音たちも、莉美は人質にされているのではないかと推測していた。
佳奈やそらに服従を強いて、反抗させないための脅しとしてだ。
「斉木、というのは随分酷いことを考えるのですね…………」
白音がキリを怖がらせないよう、必死で魔力が溢れ出すのを抑えている。
けれどその深い憤りは、魔力など介さなくとも、鮮明にいつきや大魔道の心を揺さぶった。
人造生命体であるちびそらですら、莉美の肩の上で襟を正している。
(あ、斉木って人死んだかも)
いつきは思った。
白音の怒りの暴風を前にして彼はもう、ほんの小さな残り火でしかないのかもしれない。
「……あの、失礼ですが、どうしてそんな人と一緒に街を興されたのですか?」
白音はこっそりキリの健康状態をチェックしながら尋ねた。
本当に失礼な質問だったが、聞かずにはおられなかった。
目の前にいる智頭や議員たちの印象と、伝え聞く斉木の人となりがどうにも交わらず違和感がある。
一緒に何か事業をやろうとしても、いずれ不協和音を奏でることは分かりきっていたように思うのだ。
「疑問を持たれるのはもっともなことだと思います。でも彼も、昔はあんなではなかったのです……。…………いえ、やはり私に人を見る目がなかったのだろうと思います」
智頭が少し、斉木のことを聞かせてくれた。
「私と斉木は共に手を取り合ってこの街を発展させてきたのですが、お恥ずかしながら、意見の対立から袂を分かちました。私としては時には議論を戦わせることも、施政には必要なプロセスだと考えていました。しかし彼は違ったようです。おそらく疑心暗鬼になったのだと思います。私に排斥されるかもしれないと危惧した彼は、それよりも先に私の動きを封じるべく、クーデター紛いの行動に出ました。議会を武力によって制圧してしまったのです。先程言った二十一人の議員だけをのこし、あとのメンバーは無理矢理すげ替えられてしまいました」
智頭の言葉からは憤りよりも、自分の不徳がこんな事態を招いてしまったことを恥じ入っている、そんな印象を受けた。
「斉木が二代目市長となり、百人議会は斉木の命令に従うだけの組織へと形骸化してしまいました。私たちはこうやって文字通りこの街の下支えとなっています。ここから逃げ出せば街を動かす魔力が枯渇して大変なことになってしまいますから、私たちがその選択をすることはない。そう斉木は考えているのでしょう」
「でも、そんなに簡単に皆さんを制圧できるようには思えないのですが…………」
白音は疑問を口にした。
ここにいる人たちはただの政治家ではない。
皆召喚英雄なのである。
クーデターを成功させるとなると、向こうに何か圧倒的な軍事力でもあったのだろうか。
「斉木は自分の命令に人を従わせるような固有魔法を使うのです。」
智頭の言葉に白音はなるほどとは思ったが、それでも疑問は残る。
「ではその魔法であなた方も従わせれば良かったのでは?」
白音の言葉に、大魔道も追随する。
「それに、命令に服従させられるなら人質を取る意味も分かりませんね」
「…………そうですね。おふたりの仰るとおりだと思います。おそらくですが、斉木の固有魔法は、ロボットのように何でも言いなりというわけではないらしいのです。命令に従うというよりは斉木の考えに同調する、というような印象でした。強制力は低いですが、政治家として支持者を増やすのには威力を発揮しそうな能力です。もちろん我々のような政を行う者は、決してそんな使い方をしてはならないのですが」
「それで支持者を集めて動員したと…………」
なるほどそんな固有魔法で大人数を扇動できれば、クーデターも可能かもしれないと白音は思った。
「大空さんやキリのような人質を取るのは、斉木の魔法が効かないか、万が一魔法が解けた時に危険だと感じるような相手だからだと思います。危険だからこそ有用、そう考えているのでしょう」
智頭の説明を聞いていると、どうやら斉木の固有魔法は洗脳のような効果があるらしい。
確かに佳奈を洗脳しておいてそれが途中で解けたら、誰にも止められなくなりそうだと白音も思う。
人質を取って安全策を講じておくのが確実だろう。
そこは智頭の考えに同意だった。
どうやら斉木という人間は、他人の弱点をよく心得て狡猾に立ち回っているようだった。
話を聞けば聞くほど白音は怒りが増してくる。
しかし斉木はむかつくのだが、あまりここで時間をかけてもいられない。
早く佳奈に莉美の無事を知らせてやらないと、動きが取りにくいだろう。
あちらはあちらででそらを守って戦っているはずだ。
どちらかが人質にされたら、チーム白音は窮してしまうのだ。
「佳奈たちと合流しましょうか、莉美。向こうにはそらちゃんがいるから、うまく時間を稼いでくれているとは思うけど」
「あ、待って、今ここを出たらみんなが大変になっちゃう。魔力が足りなくなると、お城が落ちちゃうかもしれないし」
莉美の言うとおりだろう。
彼女がここから出れば、魔力を吸収される負担がこの百二十人にのしかかってくる。
莉美と比較するからよく分からなくなるが、それはきっと相当きつい仕事のはずだ。
しかもあれだけの大きさの城がこの場所の真上には浮かんでいる。
魔力が足りなくなれば真っ先に落ちてここは潰されるだろう。
しかし智頭は迷う白音に、自分たちのことは気にせず友達を救いに行って欲しいと言った。
「ヤヌル君、ミッターマイヤー君というお友達を救い出さないといけないんですよね? 大空君からいろいろと話は聞かせてもらっていますよ。何しろ時間はたっぷりありましたから」
そう言って彼は片目を瞑ってみせる。
浮かべた精一杯の笑顔は、少しぎこちなかったかもしれない。
「あなた方にこれ以上の迷惑はかけられませんからね」
「いやでも!」
少しの間ならそれで凌げるかもしれない。
しかしその状態で、いったいどのくらいの時間耐えなければならないのだろうか。
どのくらいの時間、耐えることができるのだろうか。
「街では私たちを支持する人たちが動いてくれていると思います。この街のことは私たちでなんとかしますので、どうかお気になさらず。あなた方は、あなた方のやるべき事をやって下さい」
「…………分かりました、市長。みんなを救ったら、必ずここをなんとかします。それまでご辛抱下さい」
智頭が再び口を開いて反論しようとしたが、それを白音が笑顔で制する。
「それがわたしたちの『やるべき事』ですよ、市長。それに……」
今度は白音が片目を瞑ってみせる。
智頭とは違ってなんでも仕留められそうなキラキラな笑顔だ。
「わたしたち魔法少女が揃えば、できない事なんてないんですよ?」
それを聞いた智頭は目を閉じて瞼を震わせ、そして深々と頭を下げた。
「感謝いたします。お言葉に甘えさせていただきます。本当にありがとう」
そして百人余りの囚われ人たちの方を振り返ると、檄を飛ばした。
「みんな! 聞いたな? 名字川さんたち魔法少女が、必ず助け出してくれる。それまではなんとしてもここをもたせるんだ。絶対に城を落とすわけにはいかないぞ!」
「はい!!」
全員が声を揃え、そして一斉に魔力を高め始めた。
莉美は、洗脳するよりお菓子をあげて取り引きする方が簡単です。




