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ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】  作者: 音無やんぐ
第二部 魔法少女は、ふたつの世界を天秤にかける
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第23話 黄金珠玉のソロライブ その二

 莉美を救出すべく、集魔装置(エーテルコレクター)の設置された部屋へと侵入した白音、いつき、ちびそら、リプリン、大魔道の五人。

 彼女たちの目の前には、大勢の観客を前に唄い、ダンスを披露する莉美の姿があった。


「Do You wanna bet on me?」

(わたしを選ばないとか、アリエナイから!!)


 気持ちよくエレメントスケイプのテーマソングを唄い歌い終えた莉美は、ステージ上から白音に向かって勢いよくダイブした。

 戸惑いながらも白音はその体をぎゅっと抱き留める。

 お互いの思いを、体の温もりで伝え合うふたり。


 満足して少し落ち着いた白音は、莉美から事情を聞き出すことにした。

 いったい何があってこんなことに――莉美の独擅場(ソロライブ)――に、なったのだろうか。


「えっとね、ここにいる人たちはセージハン? とかいう人たちらしいのね」


 莉美が自分の歌に手拍子をしてくれていた人たちを、投獄されている罪状で紹介した。

 するとその中から中年の男性がひとり、少し苦笑いをしながら歩み出る。

 彼はカルチェジャポネの初代市長の智頭(ちず)だと名乗った。

 確かに『天空城』の資料展示室に飾ってあった肖像画の人物だ。

 周囲の召喚英雄たちの顔ぶれも、そこで見た記憶がある。

 白音たちも名前を名乗り、少し迷ったが魔法少女だと自己紹介した。

 すると智頭は、『召喚英雄』と言われるよりもその方が納得できますよと応じた。

 莉美と共にここに囚われていて、彼女の振る舞いがまさに『魔法少女』と呼ぶに相応しいものだったと感じたらしい。

 智頭の年齢はおよそ五十歳くらいだろうか。

 周囲の議員たちはそれよりも若い人が多いように見受けられる。

 カルチェジャポネができたのは十年ほど前と聞いているから、政治家としてはかなり若い集団だったと言える。

 ただし、召喚英雄自体は圧倒的に十代二十代の若者が多い。

 だからそんな中にあっては『年嵩(としかさ)』の部類、とも言えよう。


 莉美のソロライブ開催に至った経緯は、この元市長が簡潔明瞭に教えてくれた。

 智頭と百人議会の議員たちは、政治犯として長らくここに収監されていたらしい。

 そしてこの部屋に設置されている装置――集魔装置(エーテルコレクター)――によって魔力を搾り取られてきたのだそうだ。

 そこに正義のヒロインの如くに颯爽と現れて、すべての魔力を肩代わりしてくれたのが莉美であった。


「大空さんは、我々を地獄の苦しみから解放してくれたのです」


 智頭が改めて莉美の方に頭を下げた。

 本当に感謝の念に堪えない、そんな様子だった。


「長い間やらされてきて辛そうだったから、代わってあげてたの。ちょっとの間だけだよ」


 莉美が額の汗を拭いながら言った。

 そう言っている間にも、莉美の魔力が大量に装置の方へと流れ続けているのを肌で感じる。

 多分そのおかげで、白音たちも含め今ここにいる全員が魔力を吸収されずに済んでいるのだ。


 智頭によれば、百人議会の議員たちは全員が政治犯とされたわけではなかった。

 ここに囚われているのは百人議会の初期メンバーのうちの約八割に当たる七十九人、とのことだった。


「のこりのメンバーは斉木と行動を共にしているのだろうと思います」


 智頭が面目なさそうに言った。

 市長を領主だと考えれば、つまりこれはクーデターなのだろう。

 斉木という男が、自分になびいた二十一人だけを従えて、残りを排除したというところか。

 議員以外の者も合わせると、ここに詰め込まれているのは百二十人ほどらしい。

 この百二十人と、あとは他の犯罪者や報酬目当ての者から提供される魔力で、ずっとこの街を支えていたのだ。

 そしてそれを今は、莉美がたったひとりで担っている。


「ノリが良い方が魔力出しやすいから、唄いながらで、みんなには応援してもらってたんだ。音響とか光の魔法使ってくれてたから、エレスケちゃんみたいですっごく楽しかった!!」

「そう……」


 白音も感嘆はするが、もう驚かない。

 百人を超す人たちの肩代わりも莉美ならできるのだろう。

 たとえ街ひとつ分を賄う魔力であろうともだ。

 白音はハンカチを取り出して、莉美の汗を拭いてやる。


「でも莉美、いつの間にこの世界の言葉覚えたの? 早くない?」


 先程ステージ上で発した莉美の言葉は、間違いなく人族語だった。

 それも白音よりよほど正確な発音だったように思う。

 莉美の英語の成績を思い出すと、その上達速度は異常である。


「こっちの世界に来た時にそらちゃんに精神連携(マインドリンク)で翻訳アプリ? 頭に入れてもらったの。日本で作ってた時はいまいちだったけど、こっちに来ていろんな人と話すうちに完璧になったって言ってた。さすがそらちゃんだよね」

「あ、頭にって……」

「時間が経つと消えちゃうかもだから、その時はまた入れ直してくれるって、言ってたよ」


 莉美がなんだかワクチン注射みたいなことを言っている。

 白音がそう思っていると、いつきのポシェットからちびそらがこそっと顔を出した。


「そらは元々、ブルームや私と協力して異世界言語の脳内翻訳システムの作成に着手していた。それが異世界でのデータ収集によって補完、完成したものと思われる」


 莉美の舌足らずな部分を、ちびそらが補足してくれる。


「特筆すべき点は、そらの精神連携(マインドリンク)を使えば、そのシステムを他人の脳に移植できることだろう」


 それを聞いて白音も、本当に特筆すべき点だなと思った。

 そのシステムがあれば誰でも一瞬で外国語や異世界語をマスターできてしまう。

 まあ季節の変わり目毎に再インストールが必要になるのかもしれないが。


「私もそらと会ったらライブラリをアップデートしてもらいたい。私の方で独自に収集したデータも共有しないといけない」


 ちびそらもずっと協力を続けていたらしい。どんどん完成度が上がっていくことだろう。


「あ、ちびそらちゃん! いつきちゃん!」


 莉美がちびそらの方に手を差し出すと、ちびそらがぴょんと跳んで莉美に飛び移った。

 莉美はちびそらの右腕がないことに気づいたはずだが、何も言うことはなかった。

 そのまま小さなちびそらを抱き上げて頬ずりしようとするのだが、彼女は左腕を莉美の鼻に突っ張って抵抗している。


「ぬぬぬ……。いつきちゃんとちびそらちゃんは白音ちゃんと一緒だったんだね。なら良かった」


 頬ずりを諦めて、ちびそらを肩に乗せた莉美がいつきの手を取った。


「新コスチューム、随分派手だねぇ。すごくかわいい」

「ありがとっす。でもこれ、僕ひとりのものじゃないんす。今僕の体の中にはリプリンちゃんてスライムの子が入ってて、その子の力っす」

「へー、すごいねぇ」


 普通に考えればややホラー要素のある話なのだが、莉美はその程度のことでは驚かない。

 スライムは柔らかいから体に入ることもあるんだろう、くらいに思っている。

 莉美で間違いないだろう。

 人族語をすらすら話せたとしても、これは間違いなく莉美だ。


「それと、えーと…………」


 莉美の視線が怪しい鉄兜を被った大魔道の上に止まった。


「初めまして、大空さん」


 大魔道は初めて会う魔法少女、大空莉美(おおぞらりみ)と話してみたかったらしく、先程からちょっとそわそわしていた。


「ああ。莉美、こちら大魔道。リンクスさんをこの世界から日本へと転移させてくれた人よ」


 白音がそう紹介すると、莉美が瞳をキラキラと輝かせた。


「おお! 凄腕のマジシャンだね!!」


 そんな言い方をすると、脱出マジックとか人体切断なんかをする人みたいに聞こえる。

 できなくはないだろうが。


「莉美でいいよう。莉美って呼んで?」

「はい。では莉美さん。よろしくお願いします」

「よろしくね。大魔道って名前じゃないよね? なんて呼べばいいの? 鉄仮面ちゃん?」

「はい。では鉄仮面ちゃんで」


 白音が吹いた。


「いやいや……。わたしは『道士』って呼んでるけど」

「それ、あんまり可愛くないよう」

「ああもう、莉美! ちょっとこっち向いて!!」


 白音がもう一度莉美を抱きしめ、そのさ迷いがちな注意を無理矢理自分の方に向けさせた。


「莉美……良かった、無事で。あなたが一番、心配だったんだから……」


 莉美の体は汗だくで、まだソロライブの余韻で火照っているのを感じる。


「お、おお……。よしよし。」


 莉美が白音の頭を撫でた。

 白音はふたりでちょっと泣きたかったのに相変わらずの莉美っぷりを見せつけられて、もう涙が引っ込んでしまった。



 莉美がこちらの世界にやって来た時にはやはり白音と同じ、荒野のど真ん中にただ独りという状態だったのだそうだ。

 そこで莉美は、体内の魔素(オド)(たか)ぶらせて魔力(エーテル)狼煙(のろし)を上げた。

 もちろん白音が予想していたとおり、一緒に異世界へとやって来ているはずの仲間たちに自分の位置を知らせるためだ。

 その凄まじい大きさの狼煙(のろし)を目印にして、すぐに佳奈とそらには合流できたらしい。

 そこからしばらく三人で旅をして、なんとかこのカルチェジャポネに辿り着いたのだそうだ。

 そらのおかげで言葉には不自由しなかったし、身の危険からは佳奈が守ってくれた。

 それを聞いた白音は、莉美の傍にふたりが付いていてくれて本当に良かったと思った。


魔力(エーテル)ぶわぁぁってやる奴、あれやったおかげで佳奈ちゃんとそらちゃんには会えたんだけどさ、でもそのせいでこんなことになっちゃった」


 どうやらその強大な魔力波(エーテルブーム)のせいで、カルチェジャポネの召喚英雄たちに目を付けられてしまったらしい。

 それで三人の能力を有用と考えた街の上層部の人間に、うまく利用される羽目になってしまったのだ。


「やっぱ、考えなしにあんなことしちゃダメだよね」

「え、ええ、そうね……。行動は、慎重にするべきよね……」


 白音にも身に覚えのありすぎる話ではある。

タネも仕掛けもないのに、なんでもスパスパ真っ二つにしちゃう、という手品。

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