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ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】  作者: 音無やんぐ
第二部 魔法少女は、ふたつの世界を天秤にかける
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第22話 囚われの魔法少女たち その四

 魔法封じの施された区画の入り口には、ふたりの召喚英雄が見張りとして立っていた。

 白音、いつき、リプリン、ちびそら、大魔道の五人はいつきの幻想(ファンタジア)で姿を消し、召喚英雄たちが守っている扉を調べる。

 扉にはしっかりと鍵がかかっていて、どうやら壊す以外に侵入方法がないらしい。

 そこで白音は姿を消したまま、その拳を握りしめて牢番の方へと近づいていった。

 牢番たちは自分たちの身に危険が迫っているとも知らず、笑って雑談を続けている。


(こわっ……。姐さん、こわっ!!)


 いつきが固唾を呑んで見守っていると、突然その視界の中に絵文字が現れた。


「ん? リプリンちゃん、すか?」


 リプリンがいつきの胎内で極細の触手を操り、網膜に影を落としてメッセージを送っているのだ。

 にっこり笑った顔文字と共に、脈打つように明滅する矢印が描かれている。

 矢印を目で追うようにすると、丁度いつきの顔が牢番の方へと向くような格好になった。


「何かあるっすか? リプリンちゃ……のぶぁはぁっ!!」


 突然いつきの口からカメレオンの舌のようなものが飛び出した。

 その先端がふたつに分かれ、それぞれが獲物を求めるように別々の牢番へと向かう。


「い、い、いつきちゃん?」


 驚いた白音たちが呆気に取られていると、舌はほぼ同時にふたりの牢番の耳の中へと侵入した。

 それは、ほんの一瞬の出来事だった。

 耳の中へと長い舌の侵入を許した召喚英雄たちは、ぐらぐらと揺れるように体を傾かせたかと思うと、すぐに声もなくその場にくずおれてしまった。気を失ったらしい。

 仕事を終えたふた股の舌(スプリットタン)は、耳から出てくるとすぐにまた縮んだ。

 ぴっぴっと先端を振って清潔にすると、再び何事もなかったかのようにいつきの胎内へ戻っていく。

 もちろん白音たちも、いつきがカメレオンの能力を手に入れたのだとは思っていない。

 やったのはリプリンだろう。

 しかしその恐ろしくスマートなやり口にどうコメントしていいものやら、反応に困っていた。

 有り体に言えば空恐ろしい。


「脳の血流を一時的に遮断して気絶させている。同時に三半規管も刺激しているから、目眩を起こして瞬発的な抵抗もできない」


 ちびそらが目の前で起こったことについて詳細な解説をしてくれた。

 どうやらこれは彼女の入れ知恵だったらしい。


「リプリンの能力とちびそらちゃんの医学知識のマリアージュね」

「いやいや、姐さん……。そんな素敵な言い方しても怖いものは怖いっすよ……」

「何言ってるのいつきちゃん。真・幻想(パーフェクトリアル)がなければこんなことできてないわよ?」


 白音が少しからかうように言った。


「うあ……、僕もしっかり片棒担いでたっす!?」

「ふふ。ま、気持ちは分かるわ。でも、わたしが気絶させるよりずっと痛みが少なそう。できればあまり酷いことはしたくないしね」

「なるほどっす」


 白音と大魔道で手分けして牢番を縛り上げるのだが、無言のままどちらも図ったように関節を可動域いっぱいまで曲げてからロープをかけている。

 これは牢番が肉体強化系の固有魔法(ユニーク)持ちだった場合に備えての対策だった。

 こうしておけば抵抗しようとしても力が入りにくいのだ。


「いや、えっと……、姐さん。おふたりとも仕事が手慣れすぎてないっすか……。そっちはそっちで怖いんすけど…………」

「んー、否定はできないわね……。道士とは一緒にゲリラ戦を戦った仲だしね」


 そう言って白音がちらりと目を向けると、案の定大魔道が嬉しそうにしている。

 もう鉄兜越しでも十分に感情が伝わってくる。


「でも仕上げはいつきちゃんよ。お願いね」

「りょ、了解っす!」


 最後にいつきが幻覚の魔法で縛り上げられたふたりを覆い隠し、何事もなく見張りを続ける幻を描き出した。

 実物よりもよほど熱心に仕事に励んでいる姿だ。



「さてと…………、じゃあこの結界をなんとかしないといけないわね。壊そうなんて考えたこともなかったけど……。いったいどんな感じなんだろ?」


 試しに白音は手に魔力の剣(イセリアルブレード)を出現させて、扉を斬りつけてみた。

 するとその魔法に光り輝く刀身は、扉にぶつかる瞬間に霧散して消失してしまった。

 まったくダメージを与えられていない。


「まあ、それはそうよね……」

「では白音様、こちらをどうぞ」


 そう言って大魔道が魔法陣(ひみつのカバン)から剣を取り出した。

 魔法のものではない。実体のある金属製の剣だった。

 それを白音に捧げる。


「あら。ありがと、道士」


 白音がそう言って受け取る。


「わぁ……」


 その姿を見て、いつきが思わず声を漏らした。

 近衛隊長時代、白音は魔族随一と謳われた剣の達人だったという。

 剣を持つその立ち姿だけで、ため息が出てしまうほど隙がない。

 戦士としても、芸術としても。


「ですね」


 大魔道もそれだけを言って一緒に見惚れている。


「な、何?」


 そんな風に熱心に見つめてうんうん頷かれても、白音としては当惑する。


「じゃ、じゃあやるわよ? ちょっと離れててね。三重増幅強化トリプルハウリングリーパー!!」


 白音は魔族の姿を現して、リーパーの魔法を投射(キャスト)した。

 体への負担が大きな魔法だが効果範囲は自分ひとりに限局している。

 今の白音なら問題なく耐えられそうだった。

 そして白音は、扉ではなく壁の方に剣を向けた。


「さすがにこの頑丈な扉はちょっとね」


 そう言って笑うが、壁にしても明らかに尋常ではない強化が施されている。

 この世界の技術に詳しくないいつきにもそれは感じられる。


対戦車グレネード(RPG)でも無理だな」


 壁を調べていたちびそらが、ざっくりとした予測を報告してくれる。


「戦車の装甲程度なら、楽だったんだけ……どっ!!」


 そして桜色の軌跡をのこし、白音の動きが見えなくなった。


「キンッ!!」


 金属があげる甲高い悲鳴のような音が聞こえた。

 そして気がつけば、いつきのすぐ目の前に剣の切っ先が突きつけられていた。


「ひっ!!」

「ごめんね、いつきちゃん。もう少し上手くやるつもりだったんだけど、二回目で折れちゃった」


 どうやら剣が真っ二つに折れてしまったらしく、いつきに向かって飛んでいったその破片を、白音が指で摘まんで止めていた。


「あ、ありがとっす……」


 いつきは危うく死にかけた、と思う。


「飛んでいく破片って、後ろから追いかけて摘まめるもんなんすか……」


 壁の方を見ると一カ所、剣で穿たれた穴が空いていて、もう一カ所は傷がついた跡だけが残っている。


「もっと完璧な突きを入れられてれば、折れなかったと思うんだけど。ちょっと悔しいわね」

「いやいや……。しっかり壁に穴、空いたじゃないすか……」


 いつきは「悔しい」という白音の言葉に恐ろしいほどの重みを感じた。

 彼女はこんなに優しくて可愛い姐さんなのに、やはり『魔族随一の剣士』でもあるのだ。


「お、折れちゃいましたけどその剣、伝説の聖剣かなんかすか?」


 いつきのその問いには、大魔道が応えてくれた。


「ちょっと業物(わざもの)の剣ですが、ただの剣ですよ。剣に魔法効果が乗っていても無効化されますし、物理的な攻撃のみで破壊する以外、この壁は壊せません。白音様のような技量がなければ到底無理なことです」

「なるほどっす…………」

「でも穴しか空けられなかったわ。人が通れるようにしないと。道士、まだ剣持ってる?」


 白音がそう言いながら再び精神統一を始めている。


「ふふふ。いろんな剣がまだまだあります。それに素晴らしい剣技をもっと拝見したいとは思います。しかし白音様が今空けて下さった穴で十分ですよ。結界にほころびができていますので、転移魔法を通せると思います」

「……そう。あんまり壊さなくてすんで良かったわ」


 言葉とは裏腹に、白音はもう少し試してみたそうに見える。


「それじゃあ中に入りましょうか。道士、転移陣お願い」

「承知しました、白音様」

「それといつきちゃん、穴が分からなくなるよう偽装お願いね」

「おっけーっすよ」

もちろん大魔道がいっぱい剣を持っているのは、白音のためです。

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