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ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】  作者: 音無やんぐ
第二部 魔法少女は、ふたつの世界を天秤にかける
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第18話 紅の弾丸 その三

 白音が宿泊した宿のフロントで聞き込みを行った。

 するとフロント係の男性は、警備隊に入った『赤の戦士』と、青いコスチュームに身を包み未来を言い当てる魔法を使う『予言の巫女』なる召喚英雄が最近噂になっているという。

 コスチュームカラーと能力の描写が佳奈とそらに酷似しており、白音はそれを慌てていつきとリプリンに通訳して伝える。



「黄色は?! 黄色の魔法少女は噂になってないっ?」


 白音は思わず、フロントの男性に詰め寄るようにして聞いた。

 しかも『魔法少女』と言ってしまっている。

 こちらの世界では『召喚英雄』としか呼ばれていないはずだ。


「い、いえ……。黄色のコスチュームの方の話は聞き及んでいません。申し訳ございません」

「あ……。い、いえいえ、こちらこそご免なさい。興奮してしまって……」


 しかしフロント係の男性は、そんな焦る様子の白音になんとか応えようと一生懸命記憶を辿ってくれる。


「仮面を着けた正義の戦士、というのも最近話題になっていましたね」

「正義の戦士…………ですか?」

「はい。多分召喚英雄様なのだろうと言われていますが、仮面で顔を隠されているらしいのです。夜道で暴漢に襲われている女の子を助けた、あるいは酔って暴れている召喚英雄様を一瞬で叩き伏せた、などという噂が聞こえてきています」


 仮面の戦士というともしかしたら、魔族の夫婦アレイセスとリビアラから聞いた仮面の魔族と同一人物かもしれない。

 その魔族は彼ら夫婦が窮地に陥っていた時に、逃げ延びるのを手助けして共に戦ってくれたと言っていた。

 少なくとも魔族にとっては、正義と呼ぶに相応しい行いだろう。

 それにどうやら魔族と召喚英雄は、簡単に区別を付ける方法がないらしい。

 今白音がやっているように、翼を隠して偽装さえしてしまえば、どちらも『魔核を持った戦士』にしか見えないのだ。

 アレイセスたちを助けてくれた魔族の男性が、この街でも正義の戦士として活躍している可能性は十分にある。

 魔族の生き残りが他にもいるということなら、確かに会ってみたいとは思う。

 ただしそれは、白音たちが今求めている情報ではない。

 白音は男性の貴重な情報提供に感謝をして切り上げた。


「ありがとう。本当に助かりました」

「お役に立てましたなら幸いです」



 情報収集に少し時間をかけ過ぎていたらしい。

 辺りがもうすっかり暗くなってしまっている。

 普段なら館内を探検したり、部屋の設備チェックをしたりして楽しみたいような豪華な宿なのだが、白音たちは取る物も取り敢えず湖へと向かうことにした。

 念のため、宿を出た直後からいつきが幻覚(ファンタジア)で姿を隠してくれる。

 夜間の外出はトラブルに巻き込まれる可能性も高くなるだろう。

 余計なことに時間を割かずに済ませるためだ。


「莉美パパに会いに行こう!!」


 リプリンがちびそらを頭頂部にめり込ませながら言った。

 随分張り切っているらしい。

 直接対面したことはまだないので、莉美と会えるのを楽しみにしているのだ。


「……そうねリプリン。急ぎましょうか」

「姐さん……?」


 多分白音が少し厳しい顔つきになっていたのだろう。

 そういうことにいつきは聡く、よく心配りをしてくれる。


「何かまずいこと、あったっすか?」

「ああ、うん……。いつきちゃんも、赤の戦士と予言の巫女の話聞いたでしょ?」

「姐さんが通訳してくれた、フロントのおじさんの話すね。多分佳奈姐さんとそらちゃんのことっすよね? 手ががりが見つかって良かったんじゃないんすか?」

「お、おじ……。ま、そうなんだけど、黄色い魔法少女の噂はなかったでしょ? もし莉美がこの街に莫大な魔力を供給してるとしたら、何の噂にもなってないのは変だなって」

「あー……、確かにそっすよね。あの三人の中だと、莉美姐さんが一番目立ちそうなのに、変すね」


 白音がちょっと苦笑いをした。


「ええそう。きっといろんな奇行で目立つはずの、莉美だけが知られていないっていうのはおかしな話かなって」

「姐さんは、莉美姐さんが人には言えないような形で魔力を取られてるんじゃないかって……、心配してるんすね?」

「ええ。だとしたらやっぱり捕まって、無理矢理っていう可能性が高いのかなって」

「莉美パパ、囚われのお姫様?」


 リプリンが変な言い方をするから、白音は塔の上に囚われて助けを待っている莉美を想像してしまった。

 そして即座にそれを否定する。


「いや……、ないわね…………」


 莉美が大人しく捕まったままでいる姿を想像できない。


「莉美姐さんなら、あんな小さな島吹っ飛ばして出て来そうっす」


 いつきも莉美を繋いでおける鎖は存在しないに一票を投じる。


「それに、噂のとおりなら佳奈が警備隊にいるのよねぇ。あの子がそんなこと見過ごすとは思えない。何が起こってるのかちょっと想像がつかなくて。…………ともかく、早く無事を確認したいのよね」




 夜の人工湖の(ほとり)には人影が皆無だった。

 日本人が住む街のご多分に漏れず、人々が眠りにつくことはまだない。

 しかし賑やかなのは大通りの方ばかりらしい。

 この辺りには防犯用の明かりが煌々と灯されている以外、何の気配もなかった。

 風に揺れる水面のざわめきだけが耳に届いている。

 心象というものは勝手なもので、夕刻来た時には美しい湖だと思ったものが、夜陰に紛れて偵察に来ると至極不気味な景色に思えてくる。


「どうやって入るっすか?」


 いつきが少し身震いをしながら白音に聞いた。

 魔法少女に変身しているのだから、寒さのせいというわけではあるまい。


「そうね……」


 先程から白音は、何か思案顔で辺りを探っている。


「ちびそらちゃん、発電……発魔機って言えばいいのかな。それって、あの小島にある建屋で収まりきると思う?」

「仮に発魔機エーテルジェネレーターと呼称するとして、その機構が不明。情報が少なすぎる。しかしこれまでの情報を勘案すると、ジェネレーターには大勢の召喚英雄から魔力を提供してもらう必要があると推測。だとすれば人員を集めるための空間が必要。あの建屋では不足している」


 ちびそらの答えはいつも最速で、明快に返ってくる。

 多分熟考しているのだとは思うが、思考速度が速すぎてそのように見えない。


「やっぱりそうよね……。わたし、あの地下に大きな施設があるんじゃないかと思ってるんだけど、どうかな?」

「同意。犯罪者からも魔力を提供させているのなら、その収監施設に地下は最適」


 白音は前世の記憶を辿り、ひとつの仮説を得ていた。

 そこにちびそらの力を借りて、論理的に矛盾がないかの検証をしてもらっていた。


「なるほど、収監施設ね…………。やっぱり最適だわ。わたし、その収監施設に心当たりがあるのよ。あの小島の下の辺りって、多分あの城が地上に建っていた頃、地下牢(ダンジョン)があった場所だと思うの」

地下迷宮(ダンジョン)すか?」


 いつきは昔ハマっていたスマホゲームを思い出しながらそう言った。


「牢屋の方のダンジョンね」


 白音も近頃は迷宮をダンジョンと呼ぶらしいことは知っていた。

 そこに、ちびそらも補足説明を入れてくれる。


「城の地下には、地下牢や、拷問施設などがあったという。それが地下牢(ダンジョン)

「ひい…………」


 拷問、と聞いていつきが思わず顔を引きつらせた。


「ああ、確かに牢屋としても使ってたんだけど、普通に食料の貯蔵庫とか、お酒作ったりとかにも使ってたんだけどね。そのスペースをジェネレーター用に使ってるんじゃないかと思うのよ」


 石造りの堅牢な城は世代を重ねるごと、増築に増築を繰り返すことがままある。

 そうして何百年も経てば、その全容が誰にも把握できなくなってしまう。

 特に地下部分は広く、そして暗くて涼しいので、どこに何があるのかよく分からぬままに様々な用途に使用される。

 それがダンジョンと呼ばれるものだ。


「で、もしそうだとすると、アレがまだ残ってるんじゃないかと思って」

「アレってなんすか?」

「アレはアレよ」


 白音が三人に、黙って付いてこいと促した。

 その様は、心なしか探険を楽しんでいるようにも見える。

 浮いている城と下の地形を見比べながら、記憶を辿るようにして夜の街並みを抜けていく。

 そうしてやがて、白音たちは街の南端にあたる街壁へと辿り着いた。


「うん。ここね。間違いない」


 魔族の統治時代にはこの向こう側はもう街の外だった。

 しかし今はそうではない。

 街が栄え、増加した人口を抱えきれなくなり、街は壁の外にも広がってる。

 そして今はこの街壁の外側にさらにもう一重、街を守るための防護壁が築かれている。

 初めに白音たちが通過した郭門は、その外側の壁に設営されたものだ。



「今からここを飛び越えるから、いつきちゃん目隠しお願いね」

「了解っす」


 白音が白銀の翼を解放していつきを抱え上げると、そこに小さくなったリプリンとちびそらが飛び乗る。

 もう全員、手慣れたものだった。

 夜の闇の中、三人は白音の腕に抱かれたまま舞い上がり、一瞬の無重力を感じたかと思うとすぐにまた地上に降り立つ。

 何の苦もなくふわっと飛び越えた白音に、いつきが素直な疑問を口にする。


「この壁、役に立ってるんすかね?」

「元々は人族の侵入を阻むためのものだしね……。あ、でも召喚英雄なら飛び越すのは簡単かな?」


 そう言っていつきの方を見る。

 身体能力が強化された魔核持ちなら、翼などなくとも飛び越えることは可能かもしれない。

 しかしいつきは白音が簡単に飛び越えた壁を振り返り、その高さにぶんぶんと首を振る。


「いやいや、僕には無理っすよ……」

「じゃあ役には立ってるのかな。障害物くらいにはなってそう」


 壁を越えた先にも街並みは続いている。

 新市街という奴だ。

 しかし通常の街の新市街区にありがちな、急造されてごちゃついたような雰囲気は一切ない。

 むしろ新しい土地にきっちりとした建設計画を立ててから造った、そんな感じだった。

 広めの街路が碁盤の目のように引かれて、すっきりとした区画が形成されている。


「景色が変わりすぎてて……。でもこの辺りに……」


 白音はすっかり見知らぬ街並みとなったその光景にかなり戸惑った。

 かしやがて路地の片隅に、ひとつの井戸を見つけた。


「あった。多分これよ」

むしろ塔の上のビーム兵器

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