第18話 紅の弾丸 その二
冒険者ギルドが担っているのは、カルチェジャポネの『移民管理局』とも呼ぶべき役割だった。
この街に流れてきた召喚英雄たちを市民として受け容れる玄関口となり、軍務関係を中心とした職業を紹介している。
おそらくはここでの成果が、タイアベル連邦との対立の行く末に少なからぬ影響を与えるのだろう。
白音は初め、随分立派なその建物の外観に驚いたが、どうやらその規模に見合うだけの重責を負っているらしい。
「すみません、一時滞在者なんですけど、厩のある宿を紹介していただけませんか」
「はい! は……。よ、よよよ、ようこそカルチェジャポネへ」
白音がカウンターに近寄って話しかけると、受付をしていた男性が明らかに一歩後ろへ退いた。
どうやら魔力を感じ取っている。
顔立ちからしても召喚英雄らしい。
「う、わ、分か、分かりました。し、少々お待ちを」
男性はそう言って逃げるように奥へと消えた。
いつきが笑いながらジェスチャーで両の掌を下に向け、『抑えて、抑えて』と言っている。
白音としては一応、舐められず、怖がられずの良きところを狙ったつもりだったのだが、まだまだ魔力過多だったらしい。
さらにぐっと魔力放出を抑えてしばらく待っていると、先程の男性が宿屋の案内を持って戻ってきた。
彼は一瞬、「あれ?」という顔をして周囲を見回した。
先程の刺すような魔力が消えていたので、白音がいなくなったのかと思ったらしい。
「ありがとう」
そう言って白音が手を出すと、ようやく同一人物だと認識された。
「あ、あ、はい。どういたしまして」
手渡された案内には手頃そうな宿屋が三軒ほどリストアップされていた。
それと一緒に、職業適性検査の案内と、『来たれ英雄たちよ』と書かれた兵士募集のパンフレットがついていた。
多分有望そうな子たちが来たら、受けさせるようにと言われているのだろう。
「ごめんなさい。こういうの受けてる時間がないんです。やらなければいけないことがあって」
白音は律儀にそれを辞退した後、佳奈たちの特徴を説明して見たことがないか聞き込みをした。
受付の男性は白音の言う「やらなければいけないこと」が、どうやら人捜しらしいと知って少しほっとした。
先程の殺害予告のような魔力放出を考えれば、もっと物騒なことでも決しておかしくはないのだ。
そしてもしそうなら、それは街の危機を招きかねない。
「記憶にはないのですが、なにぶん毎日大勢の方が来られますので……」
男性の答えはやはり、郭門で聞き込みをした時と同じようなものった。
しかし少しだけ声を落としてこう付け加える。
「私どもは公的な機関ですので、業務以外で利用者様の個人情報を扱うことはしません。ですので人捜しでしたら、市井でなされた方が良いかもしれません。ただし、不正確な情報も混ざってくるかとは思いますが……」
「なるほど……。ご親切にありがとうございます。それともうひとつ教えてください」
やはり緊張を解いて魔力を抑えていると、普通に対応してもらえるらしい。
会話がスムーズに進む。
「魔力を買い取っていると聞いたんですが、どんな感じなんですか?」
「受付はこちらの五番カウンターでやっています。日時と時間の予約を入れていただいて、その時間にまた集合していただきます。場所は天空城の真下にある小島で行いますが、直接向かわれてもお通しできませんので、必ずこちらに集合していただくことになります。報酬は一時間で銀貨二十枚になりますね」
銀貨二十枚というと、だいたい二万円ほどだ。時給が二万円にもなるらしい。
「結構いい報酬ですね」
「魔力持ち、すなわち召喚英雄は貴重な存在ですから。それに、魔力はこの街のインフラを支えていますしね」
文字通りの意味で城も支えているんだろうなと白音は思う。
しかし一律に時間換算をしているということは、ひとり当たりの効率は皆同じようなものということだろうか。
莉美のような傑出した魔力保有量、放出量の持ち主は想定されていないように思える。
「ただ、これはかなり大変なお仕事になります。平均的な魔力量の方でしたら、二、三時間もやれば魔力が枯渇してしまうと聞いています」
「なるほど……。いろいろありがとうございました。紹介いただいた宿に行ってみますね」
そうして白音たちは市役所、もとい冒険者ギルドを後にした。
「大変なお仕事って言ってたっすけど、莉美姐さんなら平気な顔してずっとやってそうっすよね」
いつきが防犯のための幻覚を解除しながら言った。
二頭の馬にずっとはむはむされ続けながら、笑顔を絶やさないリプリンの幻影だ。
「そうね。莉美なら平気で結構な金額稼いでそう。でも言葉の問題があるわね……」
言葉が通じなくて莉美が心細い思いをしているのではないか。
白音がそんな心配をしていると、ちびそらがいつきのフードの中から出てきて、白音の頭にぴょんと飛び移った。
「問題は、莉美が魔力を自発的に提供しているのか、それとも強制的にそうさせられているのか」
それだけを言うと、ちびそらはもう一度飛んで馬のたてがみへの中へ着地する。
別に白音を慰めようとしたわけではなく、ただ踏み台にしただけのようだった。
「そうね。ちびそらちゃんの言うとおりね。莉美が強制的にそんなことさせられてるんだったら、許さないけど」
その言葉を聞いて、いつきが少しぞくっとした。
もう最近は、このぞくぞくが癖になっているかもしれない。
冒険者ギルドが紹介してくれた宿は、とても品のいいものだった。
費用的にも庶民がおいそれと泊まれるものではない。
ギルドによれば、日本人向けで厩付きの宿はどれもある程度は高級仕様なのだそうだ。
馬を連れている時点で普通は異世界に来たばかりの日本人ではない。
既にある程度は生活の基盤ができているはずだ。
であればそんな召喚英雄様が安宿に泊まるはずがない。
ということらしい。
召喚英雄が特権的立場にいる、ということを今更ながらにはっきりと認識させられる。
二頭の馬を預けつつ、フロントでやはり白音は仲間たちの聞き込みをした。
フロント係の男性は、高級宿に相応しく物腰が柔らかく丁寧な対応だった。
ここで白音は、少し聞き方を変えてみることにした。
ただ特徴を並べて普通に聞いても、記憶にないものは答えようがないだろう。
白音自身がこの異世界に来た時には、強力な魔力波を発生させたことで随分話題になってしまっていたと思う。
もし佳奈たちも、何か目立つことをやっていたら、それが街の人々の記憶にのこっているかもしれない。
特にそれが魔法少女に変身してのことなら、あのカラフルなコスチュームはかなり印象的だったのではないだろうか、そう考えたのだ。
「人を捜しているのですが、最近話題になった召喚英雄の話を聞かせていただけませんか? 特に赤、黄、青のコスチュームを着ている人はいませんでしたか」
そう言いながら白音は、以前一恵が、佳奈、莉美、そらのことをひとまとめにして『シグナルカラー』と呼んでいたことを想い出す。
しかし異世界の人間であろうフロント係の男性には、信号機などと言ったところで伝わらないだろう。
男性は少し考えて、赤色と青色には心当たりがあると言った。
「新しく警備隊に入られた方が大変お強いらしいです。その方が『赤の戦士』と呼ばれて噂になっていましたよ。それと『予言の巫女』と呼ばれている方が、確か青いコスチュームを着ておられると聞き及んでおります。なんでも、未来を言い当てる魔法をお使いになるとか」
白音は驚き、慌てていつきとリプリンに通訳して伝える。
コスチュームカラーと能力の描写が佳奈とそらに一致している。
「黄色は?! 黄色の魔法少女は噂になってないっ?」
馬としては、リプリンの食感が不思議でならない。




