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ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】  作者: 音無やんぐ
第二部 魔法少女は、ふたつの世界を天秤にかける
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第15話 かわいいおしり その五

 白音たちは、荒野のど真ん中でスイーツ作りに挑戦した。

 メレンゲを使った『ウフ・ア・ラ・ネージュ』というスイーツだ。

 大喧嘩の後でぎくしゃくしていたちびそらとリプリンをなんとかしたくて、白音が提案したのだ。


 スイーツに目がないふたりは、徐々に距離を詰めて協力し合うようになっていった。

 一緒に作業をするうちにかなりわだかまりは解けたように思う。

 そして皆の協力の甲斐あって、その出来栄えは白音が今まで作った中でも一、二を争うものになった。


 楽しく皆でスイーツ作りに挑戦し、最後は笑顔で『ウフ・ア・ラ・ネージュ』を味わうことができた。

 やはり甘いもの(スイーツ)は偉大だった。



 夜のスイーツパーティを終えると、もう深夜に近い時間になっていた。

 みんなで眠る準備を始める。

 手分けして食事の後片付けをして、寝具を荷室(キャビンに)用意する。

 馬車泊を何度かこなすうちに、随分要領が良くなっている。

 ベースキャンプを出てもう六日が過ぎていた。


 白音は前世で散々経験しているので元々野宿は平気だった。

 いつきは危険な荒野のど真ん中で眠るということに、最初は戸惑っていた。

 しかし今は、むしろみんなでわいわいと過ごせるのが楽しいと感じている。

 リプリンは、元より白音という抱き枕さえあればいつでもどこでも眠れるらしかった。


 交代で見張りを立てるのだが、ちびそらは睡眠の必要がないのでかなりの時間を買って出てくれた。

 見通しが良いようにと、荷室(キャビン)の幌の上へと登っている。

 白音が厚手の毛布にくるまって幌を見上げると、ちびそらの座っている部分が小さくへこんでいるのが分かる。


「姐さん、まだ起きてるんすか?」

「うん。いつきちゃん、見て」


 白音が小声で囁いて天井を指さす。

 いつきが見ると、幌の端の方からもうひとつのへこみが、ちびそらの方へと近づいているところだった。

 多分リプリンだ。へこみ具合からすると、ちびそらと同じくらいの大きさに縮んでいるのだろう。

 ちびそらのへこみが少し場所を譲って、ふたつのへこみが横並びになる。



「ごめんね、ちびそらちゃんが白音ちゃんの胸の谷間に入ってるのを見た時になんだかもやもやして、それで意地悪したの。あのポシェットにはちびそらちゃんの匂いがのこってたから、ちびそらちゃんの居場所だって分かってたのに、先に入っちゃえって思っちゃった」


 小声でリプリンが話すのが聞こえてきた。


「こっちこそ悪かった。ごめん。知らない子が白音といつきの間にいて楽しそうにしてて、なんだか取られたみたいに感じてた。それに性能低下で思考がまとまらなくて、いらいらしてた。酷いことして、反省してる。火傷してないか?」

「大丈夫、平気。ちびそらちゃんこそごめんね。魔力みたいなの、いっぱい吸い取って、苦しかったでしょ?」



 ちびそらとリプリンは、幌の上で深夜の集会を開くようだった。

 ふたりきりの、緩やかな時が流れ始める。


「お互いエネルギーを補給して修理が必要だな?」


 ちびそらが少しおどけてそう言った。

 今までずっと暗く沈んでいたので、すっかりなりを潜めていた本来のちびそらの口調だ。


「うんうん。そう思って、これ」


 リプリンがちびそらに何かを見せている。


「ん。…………ミカンの、皮?」

「うん、白音ちゃんがなんか作ってた。美味しいに違いないと思って少しもらって来たの」



 下で耳を澄ませていた白音が、がばっと起き上がった。


「やられたっ!?」

「皮っすか?」

「ああもう。勝手につまみ食いして……」


 いつきには、ミカンの皮なんか何にするのか見当も付かない。

 しかしわざわざ白音が用意していたのだから、リプリンが言うとおり、きっと美味しい奴なのだろう。


「でもまだ……」


 白音は諦めてもう一度寝転んだ。

 今はそっと見守るしかない。

 たとえつまみ食いをされても。


 幌の上ではふたつのへこみが少し距離を縮めた。

 どうやらミカンの皮を分け合っているらしい。


「…………苦い」

「…………苦いね」


 幌の上が微妙な空気になったのが、下からでも分かる。


「白音の失敗作!!」

「失敗だね、あはは」


 リプリンがちょろまかしてきたミカンの皮とやらはまずかったらしく、ふたりはそれを笑い飛ばしている。



「失敗作……、なんすか?」


 幌の下でいつきが聞いた。

 白音が失敗なんて珍しいと思う。


「チョコレートがあるから、オランジェットでも作ろうと思ってたのよ……。でもまだアク取りしかしてないから……、それはそうでしょうよ。味ついてないわよ。失敗作じゃないわよ、もう!」


 白音は上に聞こえないように、小さな声でぷりぷりと怒っている。

 いつきはそんな白音が、なんだか可愛い姐さんだなと思った。

 これは是非、そのオランジェットというものの完成を手伝わねばなるまい。

 そしてちびそらとリプリンに食べさせて、美味いと唸らせてやるのだ。



 結局リプリンが持ってきた巨大柑橘類の分厚い皮は、苦い苦いと言いながらふたりで食べきってしまった。

 まだ調理前だとは知らない。

 しかし勝手に取ってきた白音の料理を食べ残すなんて選択肢は、ふたりにはない。


「苦すぎるよね、これ。あとで白音ちゃんに文句言っとかないと」

「うむ。上質なクレームは人を育てることに繋がるだろう」


 下で聞いていたいつきが必死で笑いを堪えて震え始めた。

 白音ももう笑うしかない。



 ちびそらとリプリンはしばらく、お互いが知っているチーム白音の魔法少女たちの話をして情報交換をしていた。

 そしてふと、ちびそらの言葉が少し真剣な調子を帯びた。

 どうやら第一回ちび魔法少女集会が終局を迎えている。


「リプリンは、いつきのことどう思ってる?」

「ん、大好き」

「分かった。いつきは私のものだけど、リプリンもポシェットに入っていいよ」


 ちびそらが宣言をするように言った。


「あい。んじゃあ白音ちゃんはわたしのものだけど、ちびそらちゃんも好きだよね? 胸の中へはご自由にどうぞ」


 応えてリプリンもそう宣言する。


「了解した。だけど白音の作るお菓子は美味しい。私も欲しい」


 ちびそらが、決して譲れない部分の要請を行った。


「それは独り占めしないよ、ふたりで分けよ?」


 リプリンにとっても、それは元から織り込み済みの条項だったようだ。


「分かった」


 それですり合わせの確認は終わったらしい。

 良く晴れた冬の夜。

 満月を間近に控えたふたつの月を背にして、ふたりのUMAが和解の握手をした。



「山分け…………されたっすね」


 下で話を聞いていたいつきが、しみじみとそう言った。


「そうね、ふふ」


 自然と白音の顔に、笑みがこぼれる。

 ふたつの小さな、愛しいくぼみを見つめながらふたりは眠りについた。

下から突っついてみたい衝動にも駆られるわけですが。

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