第11話 開拓村の小さなお友達 その三
ちびそらを救おうとして、メイアは手が焼けるのにも構わず火のなかに手を突っ込んだ。
手には裂傷や火傷による水ぶくれができていたが、幸いなことにどれもあまり酷いものではなさそうだった。
白音が消毒をして包帯を巻いてやる。
しかしメイアは治療の間、ずっとちびそらの方を気にしていた。
自分の傷の痛みよりも、物言わぬちびそらのことが気になっているようだった。
「これでよし、と。どう? まだ少し痛むと思うけど平気?」
白音が手際よく包帯を巻いていくと、メイアは首を縦に振る。
「うん、へーき。ありがとう、お姉ちゃん」
「ん。……それで、メイアちゃん。ちびそらちゃんと出会った時のこと、ちょっと教えてくれる?」
「分かった」
メイアによると、彼女の家の畑でちびそらがフラフラと徘徊していたのだそうだ。
それを独りで遊んでいたメイアが見つけたとのことだった。
その時のちびそらは疲労困憊の様子だったらしい。
しかもよく見れば右腕を失っていた。
それでメイアは慌てて家に連れ帰って介抱したのだった。
「少ししたら元気になって、わたしといっしょに遊んでくれたの。いろんなことおしゃべりして、わたしの知らないこと、いっぱいおしえてくれて、すっごく楽しかった」
「おしゃべり」をしたということは、ちびそらがこの世界の人族語を喋ったということだ。
やはり研究熱心なそらがこの世界の言語を――おそらくは魔族語も人族語も――既に習得していて、その情報をちびそらと共有していたのだろう。
そして自分のことを『ちびそら』と、この少女に教えたのだろう。
「でもね……、ちびそらちゃん、だんだん元気がなくなっていったの……。なにも食べてくれないし、どうしていいか分からなくて。そしたら、そしたら、うごかなくなっちゃって…………」
メイアの瞳から大粒の涙がぽろぽろと零れ始めた。
白音が、メイアを優しく抱きしめて、背中をさする。
「ちびそらちゃん、さいごに、でんき? さえあればまたお話できるようになるって言ってた……」
メイアは白音の胸に顔を埋めて、その腰をきゅっと掴んだ。
「わたし、みんなに遊んでもらえなくて、むしされること、多いんだけど……。ちびそらちゃんをなんとかしてあげたくて、それでそうだんしたら……、人形がしゃべるわけないだろって。うそつきって言われて、こんな……、こんな、こと…………」
「そか。頑張ってくれたのね。ちびそらちゃんを助けてくれてありがとうね、メイアちゃん。わたしたちね、ちびそらちゃんの友達なの。わたしたちなら、ちびそらちゃんを動けるようにしてあげられると思う」
白音の言葉を聞いたメイアは、ぱっと顔を上げた。
「でんきがあるの?」
「ええ。わたしたちならちびそらちゃんに電気を分けてあげることができるわ」
「じゃあ、じゃあ、ずっと一緒にいられるのね?」
メイアのその言葉に、白音は一瞬、口ごもってしまった。
「…………。ちびそらちゃんはね、わたしたちの大切な仲間なの。ずっと捜していて、ちびそらちゃんもわたしたちを捜していたと思うの……」
白音の言わんとするところを敏感に察知して、メイアはその先を続けさせなかった。
「お姉ちゃんも、わたしからおともだちをとりあげるのねっ!!」
横たえられていたちびそらを奪って、メイアは逃げ出してしまった。
白音は走り去るその後ろ姿を見送りながら、言い方間違っちゃったな、と反省した。
「どうするっすか? 取り戻すだけなら簡単すけど、姐さんそんな選択しないっすよね?」
一緒に女の子を見送りながらいつきが問うた。
「ええ、そうね……」
そもそも白音がその気なら、ちびそらを奪われることすらなかっただろう。
本気の白音を制して何かを奪うなんてことができるのは、およそ佳奈くらいのものだ。
「魔法少女は困ってる子の味方だもんねっ!!」
リプリンが白音の背後から腰に手を回してまとわりついてきた。
「もちろんよ」
◇
どうすればメイアを傷つけずにすむだろうかと白音は思案した。
彼女が普段から他の子供たちにいじめられているような様子だったのも気になる。
そうしていると、壮年の男性が白音たちの方に近づいてきた。
男性の後ろに、先程ちびそらを焚き火に放り投げた男の子が隠れるようにしている。
「息子がとんだ失礼をいたしました」
その男性は白音たちに対して深々と頭を下げた。
多分男の子は見知らぬよそ者に何かされたと告げ口をしに行ったのだろう。
だが父親の反応は、男の子が期待したものとは正反対だったようだ。
男の子も一緒に頭を下げさせられる。
男性はこの集落の村長をしているアルノーだと名乗った。
「召喚英雄様方ですね。ようこそお待ちしておりました。これでどうにか、この村は命を繋ぐことができそうです」
「え、何?」
どちらかというとこういう法の支配の及ばないところでは、召喚英雄は厄介者扱いされている印象だった。
彼らはその武力に物を言わせて傍若無人に振る舞うことが多く、下手をしたら山賊紛いの徒党を結成している連中もいる。
対抗するすべを持たない人族にとっては、できれば関わり合いになりたくないというのが本音だろう。
しかし、この村長は、召喚英雄が来てくれれば命が繋がる、と言う。
いったいどういう意味なのだろうか。
「あの、事情は分からないのですが、何かお困りですか?」
白音がそう言うと、村長の顔に失望の色が広がった。
「ああ…………、早とちりでしたか……。かねてより魔獣の討伐をカルチェジャポネにお願いしていたのですが、なかなか来ていただけなくて…………。召喚英雄様とお見受けしましたので、ようやく助けに来ていただけたのかと勘違いを……。申し訳ありません」
村長の様子を見る限り、その魔獣の討伐は死活問題なのだろう。
魔獣が直接の脅威となっているのか、それとも食料を競合するのか。
いずれにせよ白音には、そこまで聞いておいて知らぬふりをすることはできなかった。
「あの、よろしければ事情を聞かせていただけませんか。お力になれるかもしれません」
それを聞いた村長の顔がぱっと明るくなったのだが、すぐに慎重な態度になる。
「お礼に差し上げられるものは、あまり多くないのですが……」
「いえ……、まあ、お話だけでも聞かせてもらえますか」
白音はこの村が困っているというなら、報酬など要求せずに手を貸すつもりだった。
しかしそんな風に安請け合いを繰り返していると、無用な面倒ごとを呼び込む可能性もある。
そこで少し曖昧なまま、言葉を濁して話を進めた。
「そうですか。ありがとうございます。それでは私の家へおいで下さい」
むろんメイアのことも気にはなっている。
しかしあの子ならちびそらを傷つけるようなことは絶対にしない。
そう確信が持てたので、先に村長の話を聞かせてもらうことにした。
それに村長なら、メイアの事情も何か知っているだろう。
村長の家は多少立派だったが、他の村人たちの家と比べてそうたいして代わり映えのない、簡素なものだった。
煮炊きをする炉のある居間があって、寝室がある。
それだけの造りだった。
あとは庭には貯水槽、家畜小屋と納屋、穀物倉。
実用一辺倒といった雰囲気だ。
客人をもてなすための応接室などはもちろん無く、白音たちは居間へと通された。
村長は、この村が現在置かれている状況を聞かせてくれた。
それを白音が日本語に通訳していつきとリプリンにも聞かせる。
白音もいい加減慣れてきて、会話しながら通訳するコツを掴んできた。
ふたりが異世界言語を習得するよりも、白音が通訳のエキスパートになる方が先なのかもしれない。
日本人に出くわしたら、見てくれに限らずめちゃくちゃ強いと思え。
という感じにこの世界の人々は考えていそうです。




