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ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】  作者: 音無やんぐ
第二部 魔法少女は、ふたつの世界を天秤にかける
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第11話 開拓村の小さなお友達 その二

 白音、いつき、リプリンの三人は仲間の情報を求めつつ、カルチェジャポネへと向かっていた。


 その道中、リプリンがちびそらの痕跡を発見した。

 風に乗ってちびそらの匂いが漂ってくるのだという。

 常人には到底感じ取れないようなほんの微かな匂いが、空気の中に混じっているらしかった。


 白音たちはそんなリプリンに導かれるまま商路を逸れ、小さな村を訪れた。

 リプリンの鋭敏な嗅覚に頼って村内を探し回ると、やがて白音たちは小さな空き地へと行き着いた。そこには村の子供たちがたむろしており、その中にちびそらを手に持つ小さな女の子の姿があった。



「嘘つき!!」


 その時男の子の大きな声が響いた。

 そして小さな女の子が男の子に突き飛ばされるのが見えた。

 突き飛ばされた女の子は、手に人形を握りしめている。

 青いコスチュームを着ていて、片腕のない…………。


(ちびそらちゃん!!)


 白音は思わず叫びそうになったが、ぎりぎりのところでそれを堪えた。

 そして同じように声を押し殺していたいつきとリプリンの方を見ると、お互いにうんうんと頷きあう。



 突き飛ばされた女の子は手にしたちびそらが傷つかないよう、自分の体で庇うようにして転んでしまった。

 かなり痛かっただろう。

 男の子は、なおも女の子に食ってかかる。


「嘘ばっかつきやがって!! 村のお荷物のくせにっ!!」

「うそじゃないもん……。うそなんか、つかないもん…………」



 どうやらその場にいた子供たちは、よってたかってその女の子をいじめているようだった。

 全員で取り囲んで「嘘つき」「嘘つき」とはやし立てている。

 女の子は年の頃は五歳くらいに見える。

 女の子を突き飛ばした男の子はもう少し年かさだろう。

 体格もかなり大きい。

 彼が中心になって女の子をいじめているようだった。



 女の子が懸命に涙を堪えているのを見て、白音は大股でずんずんと歩き始めた。

 白音は弟妹たちに対しては基本的に放任主義である。

 ただし、いくつか放任しないことがある。

 中でもいじめは、絶対に看過しない。

 やっていいことと悪いことの区別はつくように育って欲しいと、願っているからだ。


 白音は歩きながら、なんと言って仲裁に入ればいいものかと思案していた。

 いじめはやめさせる。

 しかしよそ者の魔法少女が無理に割って入って、遺恨がのこるようなことになってもいけないだろう。



「こんな人形が喋るわけないだろっ!!」


 男の子が倒れたままの女の子に馬乗りになり、手からちびそらを取り上げてしまった。

 ちびそらはピクリとも動かず、まるで人形のようにされるがままになっている。


「やめてっ! やめてよっ!!」

「うるさいっ。こんなもんっ!!」


 女の子が必死で叫ぶのにも構わず、男の子は物言わぬちびそらを焚き火に向かって投げ捨ててしまった。


「いやあぁぁぁっ!!」


 泣き叫ぶ女の子の目の前で、ちびそらが炎の中に放り込まれ、めらめらと燃え始めてしまった。

 女の子は必死で体格の大きな男の子を押しのけ、躊躇なく炎の中へと手を突っ込む。


 さすがに女の子のその剣幕に勢いを削がれたようで、周囲の子供たちは無言になってしまった。

 本当にただの人形だったのなら、手が焼けるのにも構わずそこまでできるだろうか。

 そんな疑問が子供たちの心の中に浮かぶ。


挿絵(By みてみん)


 このままでは女の子の手も酷いことになってしまうだろう。

 それでも手を焦がす熱を堪え、少女はちびそらを助け出そうとする。

 しかしそれを、後ろから白音が引き留めた。


「手が焼けちゃう。もうやめて。それにあなたたち、さすがにやり過ぎよ。見過ごせないわ」


 結局我慢ができなくなって、白音はいじめていた子たちを思いきり睨みつけてしまった。

 率先していじめていた男の子が縮み上がって逃げ出すと、周囲の子供も蜘蛛の子を散らすように走って退散した。

 もしかしたら彼ら()夜泣きが止まらなくなるのかもしれない。



 白音と女の子の目の前で、ちびそらは激しく炎を上げ、あっという間に燃え尽きてしまった。

 女の子は力が抜けてぐったりとへたり込み、そして泣きじゃくる。


「おともだち、おともだち、なのっ!!」


 嗚咽を漏らす女の子の背中を白音がさすってやる。


「どうするっすか?」


 いつきがそっと白音に耳打ちするようにして問うた。


 そしてリプリンが、両手で優しく包み込むようにしていたちびそらを白音に手渡す。

 男の子が投げたのを、咄嗟にリプリンが触手で絡め取って助け出していたのだ。

 それをいつきの幻覚魔法でそのまま燃えてしまったように見せかけていただけだった。


「このままちびそらちゃん、連れて行っても誰も気づかないと思うっすけど」

「そうね……」


 いつきは、何の反応も示さないちびそらが心配で堪らないのだろう。

 本当にただの人形のように見える。

 一刻も早くなんとかしてやりたい、その気持ちは白音も同じだった。


 白音は物言わぬままのちびそらを見つめる。

 コスチュームの色はいつきが言っていたとおり少し違っていた。

 なぜだか白音が知っているものより少し濃い色、藍色に近くなっているように思う。

 しかしそれは、間違いなくちびそらだった。


 とても綺麗にされていた。

 大切に扱われていたのだろう。

 千切れた右腕の傷口には包帯が丁寧に巻いてあり、コスチュームのほつれた部分もきちんと縫い繕ってある。


「でも、それじゃだめよ……」


 白音は決めた。


「ごめんね驚かせて。お友達、無事よ。焚き火に投げ込まれる前に、わたしたちが助けたの」


 そう言って女の子にちびそらを見せる。


「ちびそらちゃん!!」


 人族語訛りの発音だったが、女の子は確かに「ちびそら」と言った。

 女の子がその名前を知っているということは、ちびそら自身がそう名乗ったに違いない。

 女の子と出会った時はちびそらは動き、喋ることができていたのだろう。


「ありがとう! おねえちゃん!!」


 無事だったちびそらを見て、女の子は心底ほっとした表情になった。


「言うのが遅れてごめんね。手は大丈夫?」

「…………ちょっと熱い……」


 火傷をしていることに、今気づいたみたいだった。

 その痛みに顔をしかめる。


「治療しましょ。おてて、見せて?」



 白音は女の子を小屋の側に積まれていた木材の上に座らせると、傷の手当を始めた。

 ちびそらを救おうと頑張ってくれた小さな手はあちこち皮膚が避け、水ぶくれができ始めていた。

 現世で『魔法少女ギルド』から支給されて、こっちの世界にまで持ってきていた応急処置キットを使う。


「ちょっと沁みるよ?」


 まずは煤で汚れた女の子の手を水で丁寧に洗い流しながら、白音はこっそり能力強化(リーパー)の魔法をかけた。

 魔核を持つ者ほどの劇的な効果は見込めないが、少しでも治りが早くなるようにと願う。



「あなた、お名前は?」

「メイア」


 辛抱強く痛みに耐えながら、女の子は応えた。


「そう。メイアちゃんね。わたしは白音。この子はいつき、それとこっちの子はリプリンていうの」


 人族語だったが、自分たちが紹介されているらしいと察したリプリンが満面の笑顔になって小さく手を振る。

 そしてやや戸惑ったままだったいつきの手も取って、一緒に振ってみせる。

 いつきの方は一瞬困ったような顔を見せたが、やがて控えめに笑顔を見せてくれた。

 小さな子供が相手だと、人見知りなはずのリプリンの方が俄然積極的になる。

 ふたりの反応がなんだか対照的だった。



 メイアの手は傷だらけだったが、幸いなことにどれもあまり深いものではなさそうだった。

 廃材の中に手を突っ込んだせいでできてしまった裂傷は消毒し、火傷でできた水ぶくれを破らないようにそっと清潔なガーゼを当てる。

 手当をしている間中、メイアは傍に寝かされているちびそらの方を見ていた。

 メイアは自分の傷の痛みよりも、彼女のことが気になるようだった。

大人と話すのは慣れていても、子供とあまり話したことのないいつきと、

他人は恐いけど、子供は好きなリプリンです。

ちなみにこの場合の「好き」は、美味しそう、の「好き」ではないです。

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