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ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】  作者: 音無やんぐ
第二部 魔法少女は、ふたつの世界を天秤にかける
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第6話 さすが姐さん、魔法少女っす!! その四

 隊商(キャラバン)を襲撃していたのは魔族の男女だった。

 彼らは白音が伝説の血まみれの薔薇(ゾアヴァイル)だと知ると抵抗を諦め、ひれ伏してしまった。


「ああ……、うーん…………」


 困った白音は、とりあえずゾアヴァイル様としてふたりの申し開きを聞かせてもらうことにする。



 ふたりはやはり夫婦らしかった。人族との戦争では共に兵士として戦っていたのだそうだ。

 だが大勢の同胞たちが死に、戦争は魔族側の完全な敗北で終わった。

 やがて魔族側の組織的な反抗が途絶えると、人族による魔族狩りが始まった。

 人族は魔族の王国を国家としては認めず、僅かに生き残った魔族に対してただ『秩序を乱す反逆者』との烙印を押して弾圧したのだ。

 大きく数を減らした魔族たちはそのほとんどが捕まり、人族の奴隷として売られてしまった。

 彼らは皆、差別と貧困に喘いでいるのだという。


 この夫婦のように自由でいる者は、もう本当にひと握りしかいない。

 人族は憎くとも、反抗しようという気運は霧消してしまったのだと、男性魔族が悔しそうに語った。

 そして女性魔族が、少し遠慮がちに口を挟む。


「こんな大変な時なのですが、恥ずかしながらわたしたちは子供を授かったのです」


 白音は唐突なその言葉に一瞬意味を捉え損ねて黙る。

 しかしすぐに、


「子供を産むのに恥ずかしいことなんてない!!」


と、つい大きな声を出してしまった。またふたりが怯えて縮こまる。


「あ……。ごめんなさい……。続けて?」

「……はい。子供ができたと知ったのは、各地を転々と逃げ延びていた時のことでした」


 男性魔族も、少しばつが悪そうにそう付け加える。


 それで何とか落ち着いて産める場所を探している時に、この近くにある地下施設のことを知ったらしい。

 人族には知られていない場所のようだったのでそこに隠れ住み、なんとか無事に子を産むことができたのだ。


「魔族軍の研究施設であることは聞いていました。ですがもう使われていないようでしたので、勝手ながら住まわせていただきました」


 許可も得ずに軍の施設で出産や子育てをしていた。

 そのことをゾアヴァイル様が咎めるのではないかと、男性は思っているようだった。


「大魔道が何の研究してたのか知らないけど、子供を育てる役に立てたなんてきっと本望よ。存分に使ってあげて?」


 白音のその言葉を聞いて、夫婦が深々と感謝の土下座を捧げる。


「いや…………もう……」


 何を言っても頭を下げられてしまう。

 いつきたちにも分かるように適当に通訳を挟んではいるが、あとでもう少し詳しく説明した方がいいだろう。

 特に白音が決して彼らをいびっていたわけではないことを、はっきりさせておかなければならない。


「できるだけ早く、もっと安全な地を求めて旅立ちたいのですが、今は子供がもう少し大きく育ってくれるまで動けない状況です」


 女性魔族がそう言うと、その後を男性魔族が続ける。


「人族は憎いのですが、この状況で居所を突き止められるわけにはいきません。ですので事を構えるつもりはありませんでした。ただ子供を飢えさせないためには、どうしても食料を得る必要がありました」

「なるほど、それでキャラバンを狙っていたのね。でもね、まだ正体はばれてないみたいだけど、キャラバンが襲われている件は人族の間で問題視され始めているの。このままだと討伐隊が組まれる恐れもあるわ」


 子供が一緒に逃げられるくらいに育つ、それにはどのくらいの時間が必要なのだろう。

 そしてその時間を稼ぐにはどうすればいいのだろうと、白音は考え始めていた。


「おお、ゾアヴァイル様。このような下々の者へのお心遣い、誠に…………」


 再び魔族の夫婦が揃って頭を下げる。


「いや、もう…………。ホントにやめて? 普通に話して欲しいんだけど……」


 しかし白音がそう言ったところで、夫婦は顔を見合わせて対応に困るばかりだ。


「敵よりも、味方に怖がられる魔法少女っすね」


 いつきが笑いながらそう言った。

 断熱材入りのレジャーシートを敷いて、みんなで座るように促してくれる。

 白音の前世は魔法少女ではなかったが、まあ、残念ながらいつきの言うとおりだと思う。


「立ち塞がる敵は全部じゅうじゅう蒸発させるの! かっこいいんだから!!」


 魔族夫婦の様子を見ながら、徐々に近づいてきていたリプリンが嬉しそうに言った。

 ちゃんと通訳してね? という顔で白音を見ている。

 確かに魔法少女になって初めての戦いはそんな感じだったが、それは今言うべきことではないと思う。

 悪いが事態を悪化させないために通訳はしないでおく。



「あのね、わたしたちキャラバンを襲ってる魔物を討伐してくれと依頼されてここへ来てるの。こっちも訳あって、依頼を投げ出すことはできないのよ」


 レジャーシートの上で膝をつき合わせ、ようやく土下座をやめてくれたふたりに、白音は少し真剣な顔になって告げる。

 それを聞いた魔族夫婦は、死刑宣告をされたような絶望的な顔になった。


「待って、待って。もちろん、あなたたちに酷いことする気はないわ。だから相談に乗らせて。ね?」


 いつきとリプリンがふたりでカフェラテを淹れてくれた。

 インスタントだから魔法でお湯を沸かせば、道具がなくともあっという間に温かいものを用意できる。

 そしてふたりの気遣いは、魔族夫婦の心も温めてくれる。

 生まれて初めて甘めのカフェラテを飲んだ彼らの表情が、少し緩んだように見える。


 魔法があれば、必要な時に必要なものを得ることができる。それは夢のような力だろう。

 そしていつきやリプリンは、何かを必要とする人に必要なものを分け与えてくれるのだ。

 きっとそれこそが魔法少女の存在意義なのだろう。

 自分自身も是非そのようにありたいと、白音は思わずにはいられなかった。


「まあでも……」


 白音がカフェラテを飲む手をふと止める。


「んー?」


 そう言って顔を上げたリプリンも、いつの間にか一緒に座ってカフェラテを愉しんでいる。

 魔族夫婦の警戒心の隙間に滑り込むことに成功したらしい。


「この水をどこから得たのかは教えない方がいいかもね…………」

「なはは、確かに。特に旦那さんの方がまたリプリンちゃんを目の敵にしそうっすね」


 いつきが笑って応じる。日本語での内緒話だ。

 白音は、せっかくだから魔族夫婦にはリプリンのことも受け容れて欲しいと思っている。

 リプリンがけして悪いスライムじゃないってことを、分かって欲しいのだ。



 白音は我知らず、彼ら夫婦と自分の前世の両親とを重ねて見ていた。

 今ほど絶望的ではなかったかも知れないが、自分が生まれた時も多少なりと似たような状況だったのだろうと思う。

 周りに誰も味方がいない状況で、なんとしてでも我が子を守るという決意。

 それは白音の両親にしろ、この魔族夫婦にしろ、等しく尊ばれるべきだと思う。


 事情を説明してもらううちに、彼らも少しは心を開いてくれたみたいだった。

 名前を教えてくれたので、白音の通訳を介してお互いに名乗り合う。

 夫婦の名前は夫がアレイセス、妻がリビアラ。

 ふたりの間にできた子の名前はアーリエというらしい。生まれて半年の女の子だそうだ。


「女の子」と聞いて、白音の目が期待に輝いた。

 魔族は総じて美形である。

 もちろんこの夫婦とて例外ではない。

 このふたりの間にできた子供が可愛くないわけがないのだ。

 是非アーリエを抱っこしてみたい。

 白音は、うずうずっとそう思った。

あなたの心の隙間に滑り込みます。リプリンです。

「中ニ、入レテ?」

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