第42話 魔法少女上陸作戦 その三
[拙者たちは戦力の温存でござるよ?]
率先して巫女を倒していく佳奈に、咲沙は少し心配そうに聞いた。
目標地点に辿り着いた時に、戦う力がのこっていないなどということになっては困る。
[こんなの準備運動だって]
佳奈は少し笑って応じた。
実際のところ咲沙が存在を感知できなくしてくれているおかげで、戦闘にすらなっていない。
佳奈がほとんどひとりで倒していたが、日課の走り込みほどにも疲労は感じていない。
[まあ、死人とは言え気分のいいものじゃないけどな……]
[ええ、せめて安らかに]
白音も少し、NekuruCaseの報告書にあった少女たちのことを思い遣る。
[白音は平気か? そらも結構無理してるだろ?]
それを心配して佳奈はさっきからひとりで戦っているのだろうに。
[まあ、お前らは切り札だからな。前線は任せとけって]
展望台まであと少しというところで、ちびそらから全部隊に向けて発信があった。
[オホン。3、2、1。通信、通信]
戦闘中に突然、頭の中に声が聞こえると驚くかも知れないという気遣いだろう。
海上の味方まではまだリーパーが届いていないから、ちびそら自身の学習能力で体得した行動のはずだ。
白音たちは、成長していく子供を見守っているような気持ちになる。
[合戦開始ー! 全速前進、ようそろー!!]
ちびそらが楽しそうに風を切っている姿が目に浮かぶ。
[今更だけど錆びたりしないよね?]
潮風にさらされているのだろうけれど、防水とかどうなっているのかしらと白音は心配になる。
[うーん?]
そらは小首をかしげた。彼女に分からなければもう誰にも分かるまい。
自衛隊が使用している船は漁船に見せかけてはいるものの、強力なエンジンを搭載しているので足は速い。
ものの数十分で所定の配置について海上封鎖を完了させるだろう。
◇
山頂には報告にあったとおり、真新しい建屋があった。
それほど広くはなさそうなのだが、面積に対して背が高い。
5メートルくらいありそうだった。
もしそれが転移ゲートを守る目的で建てられた物だったなら、それだけ大きなゲートなのだろうかと思わせられる。
建屋の周辺には、他よりも明らかに密に警護の巫女たちが配されていた。
しかしその能力はそらの遠隔鑑定によって簡単に丸裸にされる。
[風使い、炎使い、重力使い、念動力使い、それに肉体強化系がふたりいるの]
[ふうん?]
肉体強化系のところで佳奈が反応したが、白音がたしなめる。
[ちょっと、変な気を起こさないでよ。普通の子がちょっと強化したくらいであんたに敵うわけないでしょ]
[あと、建物の中に感知魔法系がいる! こっちに気づくかも]
しかし今のところ、誰もこちらを向く気配はなかった。
[拙者の忍術で今は気づかれておらぬようでござるが、いずれ近づけばばれるでござろう。限界距離がどのくらいかは相手の能力次第かと]
咲沙が忍術っぽく両手で印を結んでいる。
いや、魔法少女でしょう、あなた。とは思うが、本人がそう思っているならこれは忍術なのだろう。
[それと中に、もうひとりいるの。コピー能力。人を増やせる]
[それはちょっと嫌ね]
それを聞いて、一恵がどうしたものかと思案顔になった。
建屋の内部からは転移ゲート特有の歪みを感じている。
空間歪曲に似た時空の悲鳴である。
桃澤千尋の能力は元々ゲートを開くタイプではなかったはずだ。
しかし中からは瞬間的な転移現象ではなく、ゲートが定在している気配がするのだ。
ただ、異世界へ開こうというゲートにしては、まだ少し魔力の強度が低いようには思える。
コピー能力は厄介そうだから先に叩くべきなのだが、相手の手の内が読めない以上迂闊に手を出しにくい。
[じゃあ建屋ごと吹っ飛ばすね]
莉美があっさり手放しかけた思考力をみんなで必死に引き止める。
[待て待て待て、脳筋はアタシの役目だろっ?]
まあ確かにそうだ。
佳奈は自覚のある脳筋で偉いと白音は思う。
[コピーは人の劣化コピーを作り出すみたいなの。でも効果は限定的。一時的なもので時間が来たら消えちゃう。ひとりから複数作れば能力はどんどん劣化していくの]
劣化はするものの、魔法少女でもコピーできるということらしい。
ミコが操る集団には最適の能力ではないだろうか。
[生み出せる総数は術者の魔力次第。同じコピーをたくさん作っても弱くなっていくだけ。だから今みたいな状況だとひとりの巫女から一体ずつ作った方が効率がいいと思うの]
そらの鑑定結果を聞いて、白音がひとつの可能性に気づいた。
[それってもしかして、わたしと同じような事ができるんじゃないの?]
巫女たちは独自のネットワークを構築することで、それぞれが持つ能力のポテンシャルを引き上げている。コピー能力が強化されればコピー体の数も増え、一体ずつの能力も上がるだろう。
そして能力を強化されたコピー体が増えれば、それによって構成されるネットワークもより強化され、またコピー能力が強化される可能性があのではないだろうか。
[確かに…………。それはまずいかも]
一恵も同意する。
このまま放置すれば、かなり危険なことなるかもしれない。
[白音ちゃんはリーパーによる負荷を受けてるの。でも巫女のネットワークにはそういうリスクがないから、放っておくと無制限に強化されていくのかも]
そらの言うとおりなら、永久機関のように巫女ネットワークが強化され続けて、そのうち手が付けられなくなるということだ。
そうなる前に叩くべきだろう。
[よし、突っ込もう]
白音はふたりの言葉を受けて即決した。
結局脳筋的結論だったが、それにはみんな従う。
[あたしとそんな変わんないじゃないのよぅ…………]
莉美は愚痴ったが、さっと切り替えて、では白音の言うとおりに吹っ飛ばせば大丈夫なんだろうと考えを改めた。
外には戦闘力の高そうな巫女が配置されている。
そして内部の見えない建物に監視要員と厄介そうなコピー能力者が待ち構えている。
コピー能力者が恐らく戦力の中核を担っていると思われた。
さすがに何も分からない状態で丸ごと吹っ飛ばすのは乱暴だと思えるが、どのみち外から順に全員無力化していくしかないだろうと白音も思う。
乱暴なやり方だが、相手の思惑に乗るしかない。
建屋から20メートルほどの距離に近づいたところで、巫女がこちらに気づいたようだった。
戦闘態勢をとって動き始めた。
やはり咲沙の隠形を破る形で、何らかの感知が行えるのだろう。
炎の巫女と風の巫女が協力して火炎の嵐を巻き起こして建屋を囲む。
エレスケが似たようなことをやっていたが、こちらは設定とか幻覚ではなく本物だ。
内部への進入を阻みつつ、燃えさかる炎が、視覚も聴覚も遮って内部の様子を窺えなくしている。
計算された効果的な防御だと言えよう。
接近する者があった場合に、予め決められていた行動を取ったように見える。
そして、のこる四人の巫女、『重力使い』『念動力使い』『肉体強化系がふたり』とそらが看破した狐面の巫女が、白音たちのいる方向に向かって身構えた。
魔法少女には特徴的でユニークな能力を持つ者が多い。
そのため戦闘においては強みも弱点もはっきりとしがちになる。
だからそれを補い合うようにチームを組めば、圧倒的な力を発揮することができる。
やはり相手の戦略はよく考えられた完璧な布陣だと感じられる。
ただし相手がチーム白音でなければ、だ。
[莉美ちゃんは、中にいる魔力感知できる奴を狙っててね]
莉美であれば、障害物をものともせずに星石を狙い撃てるだろう。
そらとしてはできるだけ情報を得たかった。
コピー能力を持つ奴に話が通じればいいのだけど、と考えていた。
コピー能力者以外を速やかに無力化出来れば、対話できる可能性はある。
ただし、他の巫女と同じくそいつも死体操作能力者に操られているだけなのであれば、早々に無力化するしかないだろう。
[肉体強化のふたりは任せとけ!!]
結局というか、やはりというか、佳奈はそっちを選んで突っ込んでいった。
爆発的に強化をする白音VS無限に強化していく巫女集団
時間を味方に付ける必要がありそうです。




