第41話 魔法少女ギルドVS根来衆 その四
「今回の件は、我々が根来衆に肩入れをし過ぎたが故に招いた事態です。魔法という新たな枠組みに、まったく対応できていない我々の失態を、毎度後始末させることになって本当に申し訳ない。よろしくお願いします」
外事特課の宮内課長補佐がそう言って頭を下げた。
宮内さんはいつも頭を下げてばかりだなと白音は思う。
年端もいかない小娘たちに頭を下げる仕事だなんて、ストレスあるんだろうなと同情する。
白音は当局の人間に対しては、蔵間同様あまりりいい感情を持っていない。
しかしその中にあって、宮内にだけはなんとなく好感を持っていた。
もちろんそうなるように誘導されているだけなのかもしれない。
何しろ自分は年端もいかない小娘なのだ。
ただ、宮内が国家と、魔法少女と、両方の意見に耳を傾けてバランスを取ろうとしてくれていることは分かる。
だから白音も蔵間と同じく、宮内のことは一応信用しているのだ。
「よっし。ではみんな、呉越同舟と行こうじゃないか」
蔵間は上手いこと言って締めくくったつもりだったのだが、魔法少女たちには響かなかったようだ。
意味が分かっていない者も結構いる。
それはもうとっくに失われた古代の呪文に等しいだろう。
「厳しい戦いになると思うが、きっとみんな無事で帰れ。終わったら祝勝会をしよう。いい肉を用意させてもらうぞ」
魔法少女ギルドの戦闘部隊は花より団子だ。
リンクスのこの言葉に少女たちは大いに沸いた。
「もうイケメンとか関係ないし…………」
ちょっとは魔法少女たちからちやほやされたい蔵間だった。
しかし今回は最前線に赴くリンクスに敬意を表して、不満は言わないことにした。
「全然顔だけじゃないよね、まったく……」
◇
「ではいくぞ。貴様ら変身だっ!!」
作戦開始予定時刻三十分前となった。
橘香の号令で五十人が一斉に立ち上がると、とりどりの光、オーラに包まれて変身を始める。
白音は男の子はどうなるんだろうかと、ちょっと要らぬ興味をかき立てられた。
魔法少女に変身するわけじゃなし。
男の子は自分が思い描くヒーロー像のようなものがあるのだろう。
それに沿った姿に変身している。
怒られそうだけれどハロウィンの時の着替えを思い出す。
「さすがに男の子はミニスカート履かないよね」
莉美が白音の気持ちを代弁する。
「それより、あれ見てよ」
蔵間が魔法少女たちの変身をぼーっと見ていたが、橘香がその顔を挟み込んで自分の方を向かせた。
そしてその目を見つめたまま変身する。
橘香のその軍服をモチーフとしたコスチュームは、ギルドの全魔法少女にとって畏怖の対象である。
特にここにいるような戦闘能力の高い者たちは、新人の頃に必ず厳しくしごかれている。
そしてその経験は、魔法少女としての任務をこなすにつれ、自分たちの身を守る武器となっていることを実感するのである。
そんな橘香が、蔵間の瞳の中でだけ変身する。
やがて変身を完了し、橘香が手を離しても、蔵間は目を離せなくなっていた。
「貴様は俺のことだけ見てやがれって感じだよね。橘香ちゃんてやっぱ、かわいいよね。おとめー」
言葉遣いがそれだとあんまりかわいくないのだけれど、確かに言うとおりだと思う。
蔵間は本人が思っているほどモテなくはない、のだろう、とは思う、多分。
変身を終えた少女たちがそれぞれの決意を胸に颯爽と扉へ向かう。
「ああ、待って、待って。まずは皆さん作戦指揮所へ案内します」
一恵が転移ゲートを出した。
その先に急ごしらえだが指揮所がある。
各転移ポイントはこの指揮所と結ばれており、転移ゲートのターミナルになっている。
無制限に双方向通過できてしまうので、不測の事態に備えて直前まで繋がないでいたのだ。
「ほらほら、やっぱみんな出口に向かうんだって!」
佳奈が我が意を得たりといった様子で白音に言う。
「あの子たちは初めての経験でしょうに……」
何らかの理由で転移ゲートが使えなくなった時のために、指揮所は地理的にも近い場所、紀淡海峡に面した紀伊半島側に設営されている。
いざとなれば白音が飛べばものの数分で着く距離だ。
「わたしたちも遅れないように、変身よっ!!」
最近このかけ声が板についてきて嬉しい。
合図すると、みんながこちらを見て頷いてくれるのも嬉しい。
ただ、周りの反応を見ていると、もしかして変身したら怖がられて遠巻きにされるんじゃないかと、白音はそれが不安だった。
女帝と呼ばれたり、逆巻姉妹を倒して驚かれたり、それにこれから魔族としての姿も晒さないといけないし、化け物扱いされるのではないかと心配だったのだ。
そういうのはちょっと、もう、去年まででたくさんなのだ。
しかし変身すると、既に変身を終えていた魔法少女たちが押し寄せてきた。
記念に一緒に写真を撮りたいらしい。
一恵がいるからなのか、芸能人紛いの扱いをしてサインを求めてくる者までいる。
以前橘香から、サインの練習をしておいた方が良いぞとアドバイスされていたことを白音は思い出す。
『漂泊症候群』。
ここにいるのは、独りになるということの意味を知っている子たちばかりなのだ。
白音を独りにすることも決してない。
写真を求める子たちの話によると、なんでも、チーム白音全員の写真を集めるとニジコン――虹色コンプリートの略だろうと思われる――と言って幸運のお守りになるらしい。
えらいことになっている。
時間が迫って橘香の目が吊り上がってきたので、みんなで一枚だけ集合写真を撮ることにした。
以前そうしたように莉美が魔力障壁でスマホを空中に固定し、そらがマインドリンクでシャッターを切る。
そしてその写真を全員のスマホにデータ転送してくれる。
ネットは介していない。そらが直リンクで自分の脳を介して送ったのだ。
白音たちの所行に少しは慣れてきた魔法少女たちも、その仕組みが理解できずにまたどよめく。
写真は最高の出来映えだった。リンクスも蔵間も入っている。
そして一番綺麗にポーズが決まっているのはやはり橘香だった。
ニジコン写真が幸運のお守りなら、この写真は一体どれだけの幸せをもたらしてくれるのだろうか。
「僕はここにのこるからね」
この作戦はギルドマスターも参加しての総力戦となる。
とは言えギルド本部の機能も止めるわけにはいかない。
自分で身を守るすべのない蔵間がのこるのが適任なのである。
ここにのこっても、そらが送ってくれるデータである程度のモニターはできる。
橘香は特段に蔵間と言葉を交わすことはなかった。
橘香と蔵間の関係を知る者はこの場にも少なくない。
だから多少のことを気にする必要は無かったかも知れない。
しかし鬼軍曹としての統率力を維持するためということなのだろう。
さきほど見つめ合った時に、もう伝えたいことはすべて伝わっていた。
蔵間が右手を差し出すと、橘香がそれにハイタッチした。それで通じるのだ。
白音はそんなふたりを見て、ちょっといいなと思った。
だから真似をしてリンクスに向かって両手を伸ばしてみる。
リンクスの身長に合わせて高い位置に腕を伸ばす。
と、リンクスは空いた胴をそのまま抱きしめてしまった。
「え、あ…………。ハイタッチを…………」
「ん? ああ、ハイタッチか。日本の習慣はよく分からないな」
クククと笑いながら腕を放す気配はない。
嘘だ、絶対わざとだ。
一恵もそらも、佳奈に押されるようにして転移ゲートに入っていってしまった。
しかし莉美がのこってにやにやと笑っている。
「もちふわベッドいる?」
「うるさい、うるさい」
リンクスに抱かれたまま莉美を転移ゲートに蹴り入れる。
「必ず無事でな」
「…………もう」
白音もリンクスの腰に腕を回す。
そうしないと、通じないこともあるのだ。
冬の波濤を望む小高い丘に、五十名を超す魔法少女たちが集結した。
魔法少女たちは戦いを前にして、ナーバスになる代わりに、ちょっと乙女になっています。




