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ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】  作者: 音無やんぐ
第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
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第40話 Out of Place AI その三

 ちびそらが根来親通(ねくるちかみち)の心理分析を交えた行動予測を披露する。

 その言葉にそらも、


「うん」


とだけ肯定する。他に付け足す言葉はいらないようだった。


「ちびそら先生」


 莉美がもう一個、モンブランケーキを謹んで進呈する。


「うむー」


 嬉しそうに食べ始めた。


 ちびそらが今やって見せた分析を行うには、正確な情報を持っていなければならない。

 そらの記憶か、ブルームのスパコンか、その辺りへのアクセスが自由に行えるということだろう。

 そしてそれはちびそらにとって、世界中の情報が丸裸であることを意味しているのかもしれない。


 ちびそらのことは後回し、ともう一度心の中で繰り返して蔵間はブリーフィングを進める。


「それから資料の中にある島の地図なんだけど」


 無人島ではあるが、古い時代に廃棄された砲台跡などがあり、廃墟も多数あるらしい。


「一恵君の能力を見ていると、魔法少女の力を使えば短期間の内に地形に大規模な変更を加えることもできそうだから、最新の情報を待ってね」



 ギルドが総力を挙げてギリギリまで島内の情報を集め、ブルームと協力の上で分析。

 白音たちは静養して体調を万全に整える。

 親通確保の作戦決行日時は分析の結果と、白音たちの回復度合いを諮って決める、とされた。


 親通サイドの計画の進捗状況によっては待ったなし、佳奈の傷が治りきる前になる可能性もあるということだ。

 去り際、人目を憚りもせずにリンクスが白音を抱きしめた。

 時間が取れなくて、ずっと声をかける暇もなかったのだ。



「逆巻姉妹のことはよくやってくれたね。無事で良かった。こんな話ばかりですまない」

「いえ…………」


 ふたりだけを置いて、他の者はお見送りと称してさっさと病室を出て行く。

 ちびそらだけは興味津々でふたりを見ていたのだが、佳奈がひょいと捕まえて一緒に出て行った。

 多分ちびそらは佳奈の手を避けようとしたのだが、あまりに速すぎてなすすべがなかったようだった。


「ちびそら、野暮って言葉を覚えようか」



 その夜。

 昨晩とは少しメンバーの入れ替えが行われて、白音と佳奈が窓の外を眺めていた。

 そらと一恵が、莉美を連れてこっそり出て行ったのだ。ちびそらも多分一緒だ。


 白音は昨日の三人の気持ちがよく分かった。

 白音とそらが夜空の散歩を楽しんでいる間、こうして佳奈たちは待っていたのだ。


 白音たちとは違って転移ゲートをくぐって出て行ったから、窓から帰ってくるわけではない。

 ただ今晩もよく晴れて月が綺麗だったので、なんとなくふたりで眺めている。


「やっぱ、置いてかれるとちょっと寂しいね」

「いや、アタシだけ二日連続お留守番なんだけど?!」


 しかし佳奈は笑っている。


「ごめんて、佳奈。でもあなた重傷だから…………。これが終わったらどこか行こ。ね?」



 しばらく白音と佳奈のふたりきりでどこに行くか話し合っていたら、転移ゲートが開いた。

 慣れてくれば、ゲートが開く直前に空間が揺らぐのが分かるようになって、それで察知できるようになってきた。


「どこ行ってたのよ?」


 白音がわざと拗ねるような口調で言ってみる。

 夕べのことを考えればお互い様だと思うのだが、置いて行かれた寂しさはしっかり伝えておこうと思う。



「あそこー!」


 だが莉美は意に介さず、びしっと天空に輝く月を指さした。

 莉美の肩に乗っていたちびそらも、何故か一緒に格好つけて指を指している。

 月光を背にしてなんかちょっと正義のヒロインぽい。

 どうやら莉美は月に行ってきたと言っているようだ。



「げ」

「ごめんね、白音ちゃん、佳奈ちゃん。今日は下準備だったから、まだ怪我が治ってないふたりは誘わなかったの」


 一恵が申し訳なさそうに頭を下げる。

 白音がちょっと拗ねて見せたせいだ。逆に申し訳なくなる。

 だがもはや問題はそこじゃない。



「月って……どうやって?!」

「昔月に行ったことのあるおじいさん、そらちゃんにリンクしてもらって行ってきた」


 莉美の言う『おじいさん』とは、月探査に参加したことのある宇宙飛行士なのだろう。

 確かにそれなら、月面に転移ゲートを開くことは可能なようには思われるが、そんなに簡単なものでもないだろう。


 いろいろ浮かんだ疑問をぶつけてみたが、だいたいの問題は莉美の魔力障壁(バリア)で解決されていた。

 転移ゲートをもちふわのバリアで覆っておいてそこに人間が密着、さらに後ろからもちふわバリアで挟み込めば空気は漏れなくなる。そして前側の障壁を取り除けば人間だけが通過。

 空気のロスを極限まで抑えられる優秀なエアロックになってしまうらしい。

 ちょっと笑える力業だ。



「いいなあ」


 今度は拗ねている演技ではない、白音の心からの感想だった。


「実証試験はできたから、今度は一緒に行きましょう。ね?」


 一恵のそれも、心からのお誘いだ。


 佳奈が白音のことを小突く。


「お前もさっきおんなじようなこと言ってたよな」

「むー…………。よし、みんな。これが終わったらみんなでお出かけしようね。約束」

「おー!!」



 莉美とちびそらが一番元気よく返事した。が、直後にみんなに口を押さえられる。

 今日はさすがに看護師さんに見つかるわけにはいかない。

 何度も続けていると本当に追い出されかねない。


 白音にあっさり捕獲されて、ちびそらがもごもごと何か言っている。

 既に白音もちびそらの動きには対応しているようだった。

 もっともちびそらの方でも、この経験によって回避アルゴリズムが最適化されていくのだ。



「それで?」


と少し声を潜めて白音が尋ねる。


「月まで行って何してたの?」

「そらちゃんが現場監督して月面基地を造ってた」


 莉美が変な言い方をするから、そらが作業着にヘルメットをかぶって指示を出している姿が思い浮かんでしまった。

 しかし月面に基地の建設などとと、大手のゼネコンがそんな計画を提示しているのは確かに見たことがある。

 ただそれはあくまで技術の研究、向上のためという話だ。

 まだ机上の段階を出てはいなかったと思う。

 今実現したらダメな奴だ。安全第一であろう。



「あたしは地球が凄く綺麗だったから、ずっと見てた」


 つまり莉美は、特に悪さはしていないということだ。ひとまず少し安心する。


「わたしたちも今夜は月が綺麗だったから、佳奈とふたりで見上げてたのよ。待ってる間ね」


 ちょっと嫌みっぽい言い方になってしまったが、莉美に対してはそういう当てこすりはまるで意味をなさない。


「あ、じゃあじゃあ、あたしたち見つめ合ってたんだね。なんかいいね」


 莉美はごく自然体で、時々そういうロマンチックなことが言える。

 白音も我知らず「ああ、ほんとだ」と心惹かれていた。



「わたしたちは莉美ちゃんのバリアで守ってもらってたけど、ちびそらちゃんは真空とか放射線とか影響ないみたいね。そのまま走り回ってたわ」


 白音も今後のための検証や研究が目的だったのだろうなとは思っていたが、一恵のその言葉にちらりと嫌な予感がした。


「まさか、月面走り回って足跡だらけに?!」

「あ、あー……………………」


 一恵が目を逸らす。彼女はいつも白音たちのために心を砕いてくれる頼れるお姉さんなのだが、チーム白音以外のこととなると途端に適当になるやばい人だ。



「月面に謎の小さな足跡発見!!」

「しかもブーツ履いてるってさ」


 佳奈と莉美が大ウケしていた。


 入院中何度かこの三人+1で出かけているようだった。

 多分毎回目的地は月面で、聞けば何をしているのか教えてくれるのだろう。

 ただなんとなく内緒にしたい、という雰囲気を感じていたので白音は何も聞かなかった。

 終わったら教えてくれるだろう。みんなで一緒に行こうと約束したのだから。


 しかし白音は、魔法少女とは夢を叶えてくれる存在だと思っている。

 さすがに足跡だらけはまずかろう。

 人の夢を壊してはいけない。


(あとで、みんなでホウキ持って掃除しに行きましょうね…………)

月面が枯山水の庭みたいになってたりして。

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