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ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】  作者: 音無やんぐ
第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
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第40話 Out of Place AI その二

 橘香が佳奈の身体を撫で回すようにして確かめている。

 重傷だったことを聞かされているらしい。


「いたた、ちょっと痛い。いや、くすぐったい。やめて」

「その様子ならかなり回復したみたいね。よかった」


 ようやく変身解除の許可が医者から下りて、佳奈は病衣姿になっている。



「おー、さすが橘香ちゃん、白音ちゃん以外にも猛獣使いできる人がいるとは……」


 莉美がぼそっと漏らす。

 いやいや、特殊技能みたいに言われても、と白音は思う。


 そして橘香もやはり最後に、ミニチュアそらのところで動きが止まる。


「な、何これ。よくできてるわね。誰が……」


 橘香が手を伸ばすと、小さなそらはするりと避けた。



「動くの?! ちょっと、あれ。全然捕まらな……。避けるの上手過ぎ…………。避け方までそらちゃんそっくりじゃない!!」


 橘香が捕まえようとするのをやめて手招きしたら、素直に近づいてきた。

 頭を撫でさせてくれる。


「うう…………。これ、大丈夫? オーパーツもどきなんだけど…………」



 しかし橘香は撫でるのをやめていない。

 リンクスは興味深そうに見ているだけだが、蔵間は頭を抱えていた。

 かなりやばい発明品だと見ただけで直感できる。


「そら君、名前はついているのかい?」

「ううん。特には考えてない」


 それが発明品としての名前なのか、個体名なのか、質問の意図に迷うほどには小さなそらは生き生きとしている。



「ちびそら!!」


 決まってないなら早い者勝ちだと思う。

 莉美はそう思う。

 びしっと莉美に指を指された小さなそらは手を上げた。


「はーい!」

「うあ…………」


 喋っちゃったよ……、とオーパーツの処置について考えていた者は思った。


 最初に見た時からうんうん呻いていたし、白音は喋れそうだなと思っていた。

 そらと一恵が創ったものならそのくらい当たり前だろう。


「ちびそらちゃん?」

「はい、はーい!」


 白音が呼んでもちゃんと応えてくれた。

 普通に面白い。



 ちびそらのことは後で議論が必要になるかも知れないが、今は喫緊の問題がある。

 とりあえずは見なかったことにして、大きなテーブルにパイプ椅子を用意してみんなで囲む。

 白音と一恵がお茶を淹れている間に、橘香が手早く各人のスマホにデータを送信していく。



「あ、ちょっと、こら!!」


 白音の慌てる声にみんながそちらに目をやると、ちびそらがモンブランをひとつかっぱらって逃げていくところだった。

 手を伸ばすがやはり捕まらない。

 ひらりと身軽にカーテンレールの上に飛び上がると、そこに座った。


 時間が無いのは間違いないのだが、全員ちびそらから目が離せなかった。

 食べる気だろうか。

 エネルギー源は魔力と電力だったはずだが。


 ちびそらは、ぱくっとひと口モンブランをかじると、親指を立てて見せた。

 美味しかったらしい。


「ふふ、ちびそらちゃん、怒らないからこっちおいで。お茶も淹れてあげる」


 性格というものがあるとするならば、そらとはかなり違うらしい。


 白音は笑っている。

 しかし、食べたものはどうなったのだろうか。お茶も飲むのだろうか。

 見ている者の疑問は尽きない。



「いや、ごめん。こっちに集中しよう」


 蔵間がふんわりとしていた空気を現実に引き戻す。

 根来親通(ねくるちかみち)を国外や、まして異世界になど逃亡させてはならないのだ。

 全員が顔を引き締めて居住まいを正すと、ちびそらも真剣な顔になってテーブルの上に正座する。

 座布団代わりに、折りたたんだタオル地のハンカチを敷いてもらっている。



「ブ、ブリーフィングを始めるよ」


 まずはブルーム側で掴んだ情報から、チーム白音と共有化していく。

 露見しないようにまだ遠方からの監視を行っているの状態なので、昨日の時点からそれほど多くのことは分かっていない。


 しかしやはり大阪湾にあるという件の無人島には多くの人間が潜伏している気配がある。

 ただし事前の情報から百人ほどは|NekuruCase035《根来ミコ》が操る死者だと思われる。

 なのでそれ以外、他に生きている人間がいるのか、また親通がそこにいるのかどうかまでは確定情報がない。

 既に魔法少女の潜入チームを編成して派遣しており、準備が整い次第島内への潜入を開始する予定とのことだった。


 佳奈が手を上げる。


「潜入って、アタシたちがやるよ? 危険なんだろ?」


 しかし蔵間はそれは認められないと言う。


「いや、君たちは今は休んで欲しい。優しさで言ってるんじゃないんだ。一刻も早く回復してもらって、根来を叩く作戦に参加してもらわないと勝てないかもしれないからね」


 更にリンクスも付け加えて言う。


「隠密能力に特化した魔法少女がいるから安心してくれ。こと、見つからないという一点に関してなら、君たちよりも優れた子たちもいる」


 みんな『義理堅いくノ一』こと佐々木咲沙(ささきささ)のことを思い出した。



「NekuruCaseのリポート解析もかなり進んだからね。相手の保持する能力はかなりのところまで把握できてるんだ。ただ、外特の宮内君の言っていた予測が正しければ、報告にあったもの以上に能力が増しているはずだから油断は禁物だけどね」

「ギルドからチーム白音へのオーダーは、くれぐれも静養して万全の体調で待機していて欲しい。ということさ」



 相変わらずリンクスと蔵間は息が合っている。

 何もするなと言われると、つい反発してしまう佳奈も大人しく話を聞いており、白音は素直に感服する。

 こう言っては悪いが、見た目が対照的なのもコンビでプレゼンする時の演出のひとつになっているようだ。



「ああそれと、親通を確保する時は一気に行きたいから、すまないが一恵君には一度島へ行っておいてもらいたい」


 リンクスがそう言った。転移ゲートをいつでも開けられるように準備をしたいと考えているのだろう。

 今の一恵に白音が協力すれば、無人島に複数の大きなゲートを出現させて、ひと息に船舶、車両、航空機などを出現させることだって可能になるはずだ。


「ああいえ。実証済みなのですが、島内を知る人間と、そらちゃんとわたしがマインドリンクで繋がれば、それで目標地点が把握できます。わたしが直接行かなくても大丈夫ですよ」



 蔵間が驚きで言葉が詰まる。今日これで何度目だろうか。


「チームとしてまとまると、君たちは本当に規格外の力を発揮するね。それだと人類の行ったことがある場所には、すべて行くことができそうだね」

「そうなりますね。チームリーダーが白音ちゃんですから、当然です」


 一恵が真顔でそう応えた。



「う、うん。それともうひとつ、転移能力があったとして、たとえば一恵君なら異世界への扉を開くことはできるのかい? さっきの話だと、異世界帰りの人間とリンクするとか?」

「いえ、白音ちゃんにめちゃくちゃにしてもらったとしてもわたしには無理ですね。見当もつかないというか。三次元の人間が四次元を目指そうというような感じです」


 めちゃくちゃに、というのは文脈からすれば悪い意味ではないのだろう。

 いい意味でめちゃくちゃにするってなんだろう…………? 控えめに言って変態ではないかと白音は思う。


「めちゃくちゃになんかしないからね…………」


 うんうん、とちびそらが白音に頷いてくれている。

 白音には、虐待から庇ってもらった恩義を感じているらしいのだ。


「ただ、千尋ちゃんの能力は元々わたしと違って目標地点の認識が自由な印象でした。地図上で指定した地点に移動してましたし。他に百人の能力が使えるとなると、何が起こるか予想ができません。親通にはそれが見えていて準備をしている可能性もあります」



 白音が質問の手を上げる。


「異世界へ渡るには魔核を持っていることが必須と聞いています。魔法少女でもない親通が異世界へ行ける勝算があるのでしょうか?」


 それには……、それにはちびそらが答えた。


「親通は魔法少女を製造する研究をしていたから、星石に自分が選ばれないのなら強制移植するつもりなのかも。大量の人体実験データを元に、より確実な移植方法を確立している可能性がある」



 はっとして全員テーブルの上で正座している小さな人形を見る。モンブランを横に置いて、紙コップを両手で抱えている。


「もうひとつ。悪い方の予測なら、退路を断たれた親通が一か八かの賭けに出ているパターン。捕まるくらいならと、命がけで異世界への道を選んでいる可能性。その場合、親通の性行分析からして直前にこの世界に対して何らかの破壊行為を行おうとする可能性大」


 思わず全員が本物の方のそらの見解を待つ。


「うん」


とだけそらも肯定する。

チーム白音の無事に安堵する橘香、リンクス、誠太郎たちですが、

どうしたっもちびそらのことが気になってしまいます。

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