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ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】  作者: 音無やんぐ
第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
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第39話 見慣れた天井 その二

 一恵は観念した。

 ミニチュアを造る試みは実験としては有用だが、この状況で白音のものを造るわけには行くまい。

 仕方なく自分のミニチュア人形を造ることにする。

 一恵としてはよりによって一番欲しくない奴だ。



「必要なら手伝うよ?」


 リーパーで能力のかさ上げをしてくれると言っているのだろう。

 絶対ダメだと一恵は思った。

 そんなことをしたら中身まで一恵そっくりに仕上がってしまう。

 白音にどんないたずらをするか知れたものではない。


 白音が人数分のコーヒーやカフェオレを頼んでいる。

 この喫茶室は売店も兼ねているので、テイクアウト用のものも買えるのだ。


「莉美がケーキ買ってきてくれるって。行こ?」


 作りかけの人形を次元ストレージにしまうと、温かい飲み物を半分持つ。

 それはまあ間違いなく本物が一番いいのだ。愛でるには。



 病室に帰ると、莉美たちも既に戻ってきていた。

 この病室にしかない大きめの折りたたみ式テーブルが中央に出され、ケーキが並んでいる。

 鳴門金時、和栗と違いはあれど、結局全部モンブランだった。

 白音は、彩子の言っていた事は思い出さないように食べようと思う。


 飲み物を並べてテーブルに着くと、そらが離れた所にいた京香をどうやって鑑定したのか、その方法を莉美が聞いていた。

 あの時の事は、白音も知りたかったところだ。

 ずっと身につけたいと言っていた遠距離での鑑定を、そらはついに会得したのだろう。


 ただ口ぶりからすると、莉美が興味を持っているのは遠距離から気づかれずに相手のバストサイズを測れるのではないか、ということのようだった。

 確かにそらも、そこを重視している可能性は十分にある。困ったことに。


 そらは魔力オーラを使って、ドミノ倒しのように魔力紋をリレーさせていく方法を丁寧に説明してくれた。

 メモ用紙を使って図まで付けてくれる。

 実現するのはもちろん難しいことなのだが、理屈自体はそれほど複雑ではない。

 なんとなくのイメージは莉美にも伝わったようだった。



「リレーアタックね」

「ん?」


 怪訝な顔をしたそらの頬に和栗のモンブランが少しついている。


「その技の名前、リレーアタックね」


 ドイツ語で命名されると、莉美としてはあまりぴんと来なくて困るのだ。


「う、うん」


 そらが切望し、ようやく手にした魔法の名前が、莉美によって遠隔鑑定(リレーアタック)に決定した。

 決定して、良かったのだろうか?



「ねぇ、そらちゃん」

「んー?」


 そらのモンブランを頬からつまみ食いしながら、白音はもうひとつ知りたかったことを聞いた。


「あの青い鳥は何だったの?」



 彩子がものすごい形相で追いかけてきて破壊したあの青い鳥(ブラウアフォーゲル)

 焦り方が尋常ではなかったと思う。

 あれが白音の元にまで届いていたら、もしかしたら何か、変わっていたのだろうか?



「あれはただの光の魔法。基本魔法なの」

「え、そうなの? なんでそんなもの飛ばしたの?」

「あれを飛ばしたら、きっと何かあると思って追いかけるだろうって。でなければ彩子は私の星石を必ず砕いていたと思う」


 それを聞いて一恵が感慨深げに同意する。


「うん……そうね。異世界帰りって言ってたから魂と魔核の関係は知っていたみたいだし、あの性格ならきっとそうしてたでしょうね」



 あの一発のシンプルな魔法のおかげで、今ここにそらが居るのだ。


「私、みんなには内緒にしてたけど、死ぬのは覚悟してた。何回シミュレートしても、それしかあのふたりに勝つ方法がなかったから。でも、でも…………この場所を、チーム白音でいることを諦めきれなかった……。だから、みんなが奇跡を起こしてくれることを、信じて託したの…………。みんな、ありがとね…………」


 少し年長の四人の少女たちが慌て始めた。

 そらが顔をくしゃくしゃにして泣いている。



「こちらこそ、ありがとう。頑張ってくれて、ありがとうね」


 白音はそう繰り返す。

 そして今度はそらの頬から、流れ伝う雫を唇ですくい取っていく。


「あれは、最高の魔法だったわ」



 夕食を終えて、みんな思い思いのスタイルでくつろいでいた。

 佳奈を除いて入浴の許可が出たので、ちょっと楽しみにしている。

 佳奈だけかわいそうだと莉美が言うので、みんなで拭いてあげようという迷惑な計画がこっそりSNS上で持ち上がっている。佳奈は何も知らない。


 白音のスマホに音声通話が入った。

 ちょっと嬉しそうにしている白音の様子を見て、四人がひそひそと話をする。


「お兄ちゃんからだねー」

「お兄さんだな」


『…………そう、ですか。いえ、こちらは大丈夫です』


 白音が少し残念そうな声を出した。


「お兄ちゃん来られないの」

「遠くのお兄ちゃんより、やっぱり近くのわたしたちよね」


 通話を終えると、白音が現状を報告してくれた。


 位置情報に従って根来(ねくる)のアジトを発見したとのことだった。

 近畿地方の南部、大阪湾入り口付近の無人島にあるらしい。

 やはり逆巻姉妹は、本当の情報を教えてくれていたのだ。


 根来衆は元々その辺りに本拠を置いていたから、土地勘があるのだろう。

 どうやら、親通(ちかみち)が潜伏している兆候も見られるとのことだった。

 調査を継続するので今日は見舞いには行けないが、チーム白音はくれぐれも静養しておいてくれと言われた。



「みんなわたしたちに休んでるようにって念を押すのよね…………」

「ちゃんと休んでるのにね」


 そうやって白音の言葉に同意しつつ一恵は、ずっとフィギュアの製作に没頭している。高度な魔力操作が必要なので魔法少女に変身してしまっている。



「みんな疑り深いよねぇ」

「ホントそれな」


 少し痛みの引いたらしい佳奈は、莉美に手伝ってもらってストレッチをしている。

 多分次にするのは筋トレだ。



「そうだ、そらちゃん。何かして欲しいことはない?」


 そらはこの中で最も健康体なのだが、白音は一番の重傷者扱いをしていた。

 そらをみんなで看病しているような感覚でいるのだ。


 そらは病み上がりというか、蘇りというか、あんなことがあった後で「わたしたちの方が重傷です」みたいな気にはとてもならないのだ。

 だからいろいろ世話を焼き、甘やかそうとしている。


 白音自身がそうであったように、酷い痛みを与えられるという体験が、精神へ影響を与えているのではないかと心配でもあった。

 メンタル面でのケアは必須であろう。そらはまだ十三歳なのだ。


 そらは基本的に子供扱いされるのがあまり好きではない。

 だから一方的に甘やかされるのは嫌なのだが、白音のそれはつい心地よくて受け容れてしまう。



「空が飛びたいの」

「ん?」

「白音ちゃんと一緒に、空を飛びたいの」


 莉美が『そらだけに?』という顔をしたので枕を投げつけておく。

 こっそりとそらの耳元に囁く。


「じゃあ今夜、ふたりで行こっか?」



 消灯時間を過ぎて、チーム白音は寝静まった。

 いつもならもう少し騒ぎそうなものだが、やはり回復したとはいえ体力の消耗はあるのだろう。

 そもそも怪我人が昼間に騒ぎすぎではあるのだが。


 しかしそらは布団を頭からかぶってノートPCとにらめっこを続けていた。

 いろいろ調べ物があったのだが、まるで頭に入ってこない。

 白音が夜間飛行に連れて行ってくれると聞いて、楽しみ過ぎて夕方から何も手につかなくなっている。


 白音の甘い言葉(クリティカルヒット)に対するメンタルケアが必要だった。


「そらちゃん、行ける? 眠くない?」


 そっと布団をめくって白音がそらの様子を窺う。

 是非もなし、であろう。


 ふたりで窓際に立って魔法少女になる。

 薄紅と空色の光芒が絡み合い、踊るように競艶する。

 これで音速を超えても寒くはないだろう。超えるつもりはないが。


 白音は魔族の姿になって準備万端である。

 抱え方について夕方から試行錯誤していたのだが、やはりそらの希望は『お姫様抱っこ』だった。

 抱き上げてみると、小さな体がこそっと腕に収まって具合がいい。やはり神がかり的にフィットする。


「いくよ、そらちゃん」

「あい!」

抱き心地のいいそらを連れて、深夜の散歩へと飛び立ちます。

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