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ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】  作者: 音無やんぐ
第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
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第35話 チーム白音VS逆巻姉妹 その一

「あんまり宮内さんいじめちゃだめよ、お兄ちゃん」


 莉美がリンクスの頬を引っ張って、無理矢理笑顔を作る。

 その顔がちょっと面白かったので白音は吹き出してしまったが、顔を引き締め直してキッと莉美を睨んでおく。

 莉美は佳奈とは違う。

 絶対わざと『お兄ちゃん』と呼んでいるのだ。

 決して定着させてはならない。



 飛竜(ワイバーン)の討伐からそれほど日も経たぬうち。

 再び、ブルームの研究所内の会議室にリンクス、蔵間、橘香、外事特課の宮内課長補佐、加えて今回はチーム白音の面々も集まっていた。


 先日、根来親通をみすみす取り逃がしたと聞かされた時は、リンクスもかなり辛らつな言葉を放ってしまった。

 宮内に当たっても詮のないことなのは重々分かっている。

 今回は冷静さを保つよう努めていたつもりだったのだが、しかしどうしても不機嫌な感情が顔に出てしまっていたのだろう。

 莉美からだめ出しを食らってしまった。


 集まったのはもちろん、行方をくらましたまま、いまだ足取りを掴めない根来親通(ねくるちかみち)への対策を練るためだ。


 宮内は莉美に対して律儀にお辞儀をして返す。

 リンクスも、表情を少し軟化させてフッと笑う。


 全員が着座すると、眼鏡をかけた秘書モードの橘香が飲み物と書類を手際よく配布していく。

 よく考えればこの人は、秘書というよりもギルドのエース級戦闘要員なのだけれども。


 まずは宮内からの報告がされる。

 もちろん会議室内は、一恵に頼んで空間断絶による情報漏洩防止策が施されている。


 宮内によるとアズニカ連邦から根来親通の件に関して、「一切関知しない」との言質が取られている。

 日本とアズニカは同盟関係にあったから、この言葉を引き出した上でこれ以上の組織的な関与を行えば国際問題に発展する。

 すなわち親通の逃亡に手を貸すのは諦めたと言うことだ。政治的な勝利と言えるだろう。

 加えて親通が逃亡した後の根来衆の残党は、解体が決定したとのことだった。



「幸い、という言葉を使うべきか迷うのですが、親通はあまり部下に信用を置かず、重要なことはほぼひとりでこなしていたようです。彼が抜けた後の根来衆はもはや組織としての体を為しておらず、残党と言うよりは残滓と言った方がいいような状態でした」


 外事特課が査察に入った時には大した抵抗もせず、すべての資料を接収されて素直に解体を受け容れたらしい。

 しかしその宮内の言葉を額面通りに受け止めるなら、今の親通は根来衆のすべてを持って逃亡しているということになる。

 そして依然としてその行方は掴めていない。

 いつの間にか国外に脱出されて、海外に潜まれてはどうしようもなくなるだろう。



「千尋さんの力を使って国外へ飛ぶつもりでは?」


 あの巫女装束の中に、千尋がいるのかもしれないと思うだけで白音は虫酸が走った。

 しかし想定しないわけにはいかない。


 隣席の一恵がすすっと何気なく、テーブルの下で手を握ってくれた。

 彼女の方を見ると、とびきりの笑顔で微笑んでくれていた。

 今日は彼女が精神安定剤をしてくれるらしい。

 一恵は今日は密やかに狙って白音の隣を陣取っていた。


(なんだったらほっぺたでもどこでも、突っついてくれていいのだけど?)


などと考えている爽やかな笑顔だ。



「神君?」


と蔵間に声をかけられて全員の視線が一恵に集まっていることに気づく。

 転移能力者としての見解を求められていた。

 内心あわあわしていたが、そうは見えないクールな表情で応える。

 実はそうやって、便利に誤魔化すために使っている時もある。



「……ん、直接は無理だと思います。千尋ちゃんの能力は狙いは正確無比でしたが、距離的には他国へ渡る手段としては厳しいかと。やるとしたら船舶や航空機へ転移を使って密航する、とかでしょうか。ただ…………」

「ただ?」


 蔵間が問い返す。

 注目を浴びていても白音の手を離す気はないようだった。

 長い腕を有効に活用して、姿勢をまったく崩さずに白音の膝の上で手を握っている。



「ミコの支配下にあれば、そのイレギュラーがどのように作用するか予測がつきません。それによって何か未知の影響が出るかもしれません」



 宮内が少し遠慮がちに手を上げる。


「これは我々の分析ということになるのですが、NekuruCase035、通称根来(ねくる)ミコに操られた魔法少女の力は、操られる前よりも増強されると考えられます。取り込まれた魔法少女たちは、いずれも登録されていたデータよりも強い魔法を使っていました。この仮説を元にNekuruCaseの実験結果を再検証したところ、支配下にある魔法少女の数が増えれば増えるほどそれぞれの能力も高まっていくのではないか、という結論に達しました」


 検証が甘く、確度は低いのですがと宮内は付け加える。



「わたしたちがチームとしてまとまることで高い能力を発揮できるように、ミコも支配下の星石が増えるほどに力を増す、と?」


 言いながらふと白音は、この状況に対して星石たちはどう思っているのだろう? と考えた。

『思う』ということをするのかどうかは分からない。

 しかし今まで見てきた星石たちのことを考えれば、ミコに支配されることは耐えがたい苦痛なのではないだろうか。



「それに」


とそらが補足する。


「高まることで変容する可能性もある。私のマインドリンクや一恵ちゃんの転移も白音ちゃんが助けてくれれば単に強くなるだけじゃなくて、どんどんできなかったことができるようになっていく。魔法少女の能力の相互作用に関しては、まだ何も分かっていないに等しい」

「ふむ」



 リンクスが腕を組んで少し天井を見上げた。

 込み入った考えごとをする時にやる彼の癖だ。白音はよく見たことがある。


「時間が経てば経つほど、我々にとって致命的となる変化が起こる可能性がある、ということだね?」

「逆巻姉妹だっけ? あいつら何か知ってるんじゃないの?」


 こういう会議ではいつも眠そうにしている佳奈が、珍しく身を乗り出している。


「いや、いやいや…………」



 そらでなくとも「とっ捕まえて締め上げたら何か分かるんじゃないの?」と言い出す未来が予測できたので、蔵間が慌てて割って入る。


「根来とは直接繋がりのないただの傭兵だよ?」

「でも、根来と連絡を取ることはできそうですよね?」


 白音が佳奈に助け船を出すと、途端に攻撃力が跳ね上がる。



「国外逃亡に付いていくとは思えないよね?」

「姉の彩子は抜け目のない印象でしたから、裏切られた時のために何か情報を握っていそうな気がするんですよね」

「いや…………しかしどこにいるか分からないという点では逆巻姉妹も同じことじゃないかな?」

「そうですよねぇ…………」


 白音が攻めあぐねた。

 こういう時、一点突破の破壊力を見せてくれるのは…………。

 佳奈がちらっと莉美の方を見る。



「聞いてみよっか?」


 全員が一斉に莉美を見た。特にそういう捜査を専門にやっている宮内が一番ギョッとしている。


「これ」


 莉美が自分のスマホを見せると、逆巻彩子の名前がSNSアプリにお友達登録されていた。


「はぁ?! おま、彩子と友達だったん?」


 いや、佳奈そこじゃない、とは思うが白音もさすがに驚いた。



「地下であいつらと戦ったでしょ? 帰る時に申請されたからOKしといた」

「さすが莉美。よっし、とっ捕まえようぜ!! 締め上げたら何か分かるんじゃないの?」


 蔵間が頭を抱えてしまった。



[ねくるちかみちのことなんか知ってたら教えて?]


…………、

…………、

…………、

…………、


 大人たちが固唾を呑んでその不躾なひと言への返事を待っていると、すぐに通知音が鳴った。


[いいけど、勝ったらネ]

[逆巻姉妹VSチーム白音]


 返事が果たし状になっていた。


「あああああーーーー。もう!!」


 蔵間の嘆きが虚空に消えた。


 莉美と彩子、ふたりのそれぞれに個性的過ぎて読みにくいメッセージのやりとりを要約すると、


[殺し合いをしましょう。そっちが勝ったら根来に関して知ってる情報を全部教えてあげる]

[じゃあそっちが勝ったらおいしいケーキをごちそうしてあげる]

[OK、串刺しにしてやるから楽しみに待ってろ]

[あなたの丸坊主姿楽しみだなぁ]


ということのようだった。


 逆巻姉妹の恐ろしさ、おぞましさを嫌と言うほど知っている宮内は、二度戦ったことがあってなおこんな態度が取れる莉美に対して、もはや尊敬の念を抱いていた。

 白音、佳奈、一恵、三人の少女は止めるでもなく、面白がって見ている。

 そして一番年少の少女そらは既に倒すための算段を考え始めているようだ。


 誰を敵に回したとしても、彼女たちだけは絶対に敵に回してはならないのだと、心の深いところで理解させられた。

 そして敵に回さないためには、他人の気持ち、立場、尊厳を踏みにじらなければよいのだ。


 宮内はこんなに明快で強力な抑止力を他に見たことがない。

 政府がそのように在ることを、心から願うばかりだ。

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