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ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】  作者: 音無やんぐ
第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
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第34話 雪空の飛竜(ワイバーン) その二

 莉美が魔法少女に変身し、膨大な魔力を放射して周囲の雪を融かした。

 周囲に雪崩を起こしかねない強引なやり方に、白音は慌てて止めようとする。


 だがその時、大きな魔力を発するものが三体、そう遠くない場所で動き出すのを感じた。

 温泉では少年漫画の主人公のようなことができるかと思ってやってみたのだが、その時付近の鳥獣が強大な魔力に当てられて騒いだのを思い出した。


 ひょっとしたらこれで飛竜(ワイバーン)とかいう奴も動き出すのではないかと考えたのだ。

 雪も融けて一石二鳥。

 我ながらいい作戦だと莉美は思った。


「白音っ!」


 佳奈が白音にアイコンタクトをする。


「みんな、変身よっ!!」


 せっかく一番決めたかった台詞をなかなか良い感じに言えたのに、一恵が水を差した。


「変身しちゃうの?」

「へ? 何?」

「メイドちゃん、かわいいのに………」


 一恵はメイド服のままで戦えと言いたいようだった。

 確かに今の白音は、変身しなくてもそれなりの戦闘力はあるかもしれない。

 しかし……


「こんな格好じゃ寒いわよっ!!」



 魔法少女に変身すると、気温や気圧など周囲の環境の変化にも耐性ができる。

 見た目に反して寒くないのだ。


「うう…………」


 諦めて一恵が変身する。

 佳奈もそらも先に変身を終えて、莉美が融かしてしまったスペースに着地している。



「吹雪に舞う桜色の魔法少女も好きだけどね?」

「素敵な表現ありがとう」


 一恵が白音の手を取りエスコートして東北の地に降り立つ。



飛竜(ワイバーン)たちが逃げようとしてるの」


 そらは感覚を研ぎ澄ませて飛竜(ワイバーン)の動向を追っていた。

 どんどん遠ざかっている。


「さっきの莉美ちゃんの魔力を感じたのなら、餌になるのは嫌だって思うのが普通」



 トカゲなんか食べないよう、と言っている莉美を無視して白音が銀翼を広げる。

 広げると同時に全員の身体能力がグンと上がるのを感じる。

 白音が正帰還増幅強化(ハウリング・リーパー)を使ったのだ。

 黙ってやられるとかなりびっくりする。



(だま)リーパー禁止!!」


 莉美が抗議する。

 確かに莉美が何かする瞬間に急に使えば、世界をひっくり返すような出来事が起こるかもしれない。


「ふふっ、ごめんね」



 ひょっとしたら今のチーム白音なら、能力の増強なんて必要ないのかもしれない。

 でもハウリングした時にかかる身体的な負担に慣れるため、また持続時間を延ばすために練習のつもりだった。


「わたしがこっちに呼んでくるから、ここで倒しましょ」



 白音が飛び立つ瞬間、ずうっと目の前でゆらゆらと揺れていた尻尾に一恵が思わず手を出しそうになった。

 でも引っ張ったら本気で怒られそうだから、危ういところで我慢する。

 白音が飛び立った後で佳奈が一恵を見て、


「フフ」


と笑った。似たような気持ちだったようだ。



「それじゃあ戦いやすいように、待ってる間に雪を全部融かして…………」


 莉美が付近の町を壊滅させようとしたのでみんなで止める。


「と、融かすのはまずいんじゃないかな? わたしがゲートを使って除雪するね?」

「ぬう……」



 白音はできるだけ自分の魔力を抑えて飛竜(ワイバーン)たちに接近する。

 フラフラと弱っている感じを演出してみる。

 それほど狡猾な相手でもないので、魚釣りを思い出して相手の興味を引いていく。

 そして三体ともこちらを餌と認識したらしいのを確認したら引き返す。


 デイジーだった頃、飛竜(ワイバーン)を相手にした時には飛行能力の高さに翻弄されたのだが、どうやら今は白音の方が速く飛べるようだった。

 相手を引き離さないよう、注意しながら逃げ惑うふりをする。


 しかし逃げながら白音は、手抜かりに気づいた。

 吹雪で帰り道が分からない。

 四人はどこにいるのだろうか?

 せめてそらに精神連携(マインドリンク)してもらってから来れば良かったと思う。



(あれ、これ遭難してるんじゃないかな? でも飛べるからひとりでも街までは帰れる…………。あ、こいつら連れて帰れないから、ひとりで倒さないといけなく…………)


 ちょっと絶望的な気分になっていると、地上から放たれる強烈な光が見えた。

 分厚い雲に隠された太陽に代わって、燦然と地上に輝く巨大な矢印だった。

 吹雪の中でもしっかりと見える。



「莉美大好きっ!!」


 白音は大きな声で叫びながら飛竜(ワイバーン)を二体、矢印に向かって蹴り落とした。

 100メートル四方くらい、戦えるように除雪された地面にズドンと地響きを立てて巨体が落下する。



「嬉しいけど、こんなプレゼントもらっても食べないよ?」


 にやけ顔の莉美の頭を佳奈がくしゃくしゃと撫でてから、落下した一体に向かう。

 立ち直る隙は与えない。



「ブラッドレイン!!」


 両拳の周囲に大きく魔力を纏わせ、高速で連打する。

 広範囲に打撃を与えるためだろう。

 複数の敵や巨体を相手にする時のために考えていたようだ。


 ほんの一瞬で何発もの佳奈の拳を受けた飛竜(ワイバーン)は、その巨体にもかかわらず上半身があっさりと爆ぜてなくなってしまった。

 体内にあったであろう魔核も砕け散ったはずだ。

 それきり動かなくなってしまう。


 技の名称はおそらくそらが用意してくれたリストから取ったものだ。

 しかし『ブラッド』の辺りで白音がぴくりと反応する。


「その名前は却下よっ! 一閃!!」



 己の標的と見定めて残した一体に向かって、裂帛の気合いと共に白音が光剣を振り下ろす。

 彼女が得手としている魔力を収束させて作った剣だが、以前よりさらに振りの鋭さも切れ味も増しているようだった。


 おいしそうな食事にありつけるはずだった飛竜(ワイバーン)は、悲鳴にも似た咆哮を上げて他の二体同様地面に叩きつけられる。

 飛竜(ワイバーン)よりも、白音の方がよほど空中戦が得意なようだった。



「一閃?」


 チーム白音の面々が似たような疑問を抱いた。

 落ちてきた飛竜(ワイバーン)に、一閃と言うには切り口がたくさんでき過ぎている。

 それはむしろなます切りだと思う。


 生魚の寄生虫対策のようだった。

 深く斬りつけられた飛竜(ワイバーン)の体内に、アニサキスよろしく魔核が覗いている。


 さらにもう一撃、急降下した白音が間髪を入れずにその核を綺麗に二等分にする。

 魔核を持つだけあって魔獣は普通の動物よりもタフである。

 やはり倒すには核を潰すか、回復不可能な大ダメージを与えるしかない。

 しかし魔獣は個体差が大きくて核の場所が一定していない。

 それで白音はなますにしてしまったのだ。


 魔獣を切り裂く瞬間に魔力の刃を多層に重ねているからこんな風になっているのであって、何度も切っているわけではない。

『一閃』であっているのだと白音は主張したいところだった。

 しかしその剣線を肉眼で見切るのは困難である。確認のすべはない。



「やっぱ空飛べるのずりぃ」


 見えていたのはそんな風に言う佳奈くらいだろうか。

 残る一体が体勢を立て直す頃には、白音と佳奈は既にそれぞれの獲物を仕留めていた。


『怪獣』たる飛竜(ワイバーン)にも食う側と食われる側の分別はつくようだった。

 その一体は即座に皮翼をひろげて逃避の姿勢をとる。


 だが残念なことに、ふたりの活躍を見た莉美がやる気になってしまった。


破天砲(ローグキャノン)、全力全開!!」


 叫んだ瞬間にチーム白音が一丸となって莉美を引き倒してそれを止める。


 その破壊兵器は的に向けるだけでなく、後ろに何があるかとかくれぐれもよく考えるようにと、白音たちから口々に注意される。


「背後に塔とか富士山とか、月とかそういう物があるとあんた歴史に名前が残るんだからね?」

「えー、でもあいつの核がどこだか分かんないよう?」


 分からないから丸ごと消し飛ばすつもりだったらしい。

 実行されなくて本当に良かった。


 良かったのだがその間に、飛竜(ワイバーン)が飛び立ってしまった。

 ぐんぐん離れていく。

 白音が追撃しようと再び銀翼を広げたが、一恵がそれに待ったをかける。



「大丈夫、莉美ちゃんあいつに向けて撃って。でも威力はめちゃくちゃ低く抑えてね。そらちゃん、例の奴試したい。軌道計算と収差の補正お願い」

「あい」


 莉美がぐっと抑えた、それでも十分に破滅的なビームを発射する。


空間歪曲(ディメンジョンレンズ)!!」



 莉美の発射した無頼砲(ローグビーム)を、一恵が空間を歪めることによって収束させる。

 さながらレンズを通して光が収束していくかのようだ。

 そして歪曲させた空間が極細になった高密度ビームを誘導していく。


 最大速度で逃走を図る飛竜(ワイバーン)だったが、そらの計算どおりの軌道を描いたビームが狙い過たずその頭部を易々と貫く。

 そのままビームは虚空へと消えていった。

 脳を焼かれた魔獣は、その瞬間に絶命したようだった。

 力なく落下し、再び地面に激突する。



 周辺にはもう他に魔力の反応はなく、ただ雪の嵐だけがごうごうと吹き荒れていた。

 任務の達成を確認すると、誰が言い出すともなく集まってハイタッチをする。

 春はまだまだ遠いというのに、吹雪にも負けず色とりどりの花が咲いているようだ。


 しかし全員の無事を確認していた白音が一輪、遠慮がちの蕾のような花を見つけた。

 淡い水色のネモフィラだ。


「そらちゃん? どこか怪我でもした?」

莉美は歩く黄色信号。

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