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スケルトンは人間に戻りたい。  作者: すいがら。
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邂逅。



 その子は一言で言えば痛々しかった。

 両足ともに変な方向に折れ曲がり、血が滲んでいて、服も肌もボロボロ。



 あのモンスターに襲われてできた傷、であれば理解はできたが、どうやら見たところ人為的なものを感じる痛めつけるための傷跡。

 痣や切り傷が目に見える肌に複数確認できた。



 一番目を引いたのは、右目から右頬に掛かる火傷跡で、その目に怯えるように見つめられた俺はしばらく身動きが取れずにいた。



 かと言って、こんな場所に置いておくわけにはいかないわけで。

 声帯がないことがこんなにももどかしくなるとは。

 俺はただひたすらに、その少女が言葉を発するのを待つ。



「やだぁ…、死にたくない…いたぃ」



 震える声で、言葉を溢す少女の涙に、ただ骨の指を這わせることしかできなかった。



 その行動に意味はあったのか、力なく気を失う少女。

 こんな場所に放置するわけにもいかず、かと言ってむやみに動かせば足の痛みに目を覚ましてしまうかもしれない。

 そんな何もできない状況で、俺は必死にどうするか考える。



 考えて考えて、わかったのは俺にできるのは近くで安全を確保するってことくらい。

 


 足の曲がり方にしても、このまま放置すれば変な形のまま固まってしまうかもしれないし、鬱血したような紫色の肌も、このままでは最悪切断することになるかもしれない。

 無理やりにでも元に戻して俺の骨でも使って添え木の役割でも担おうかと考えながらも、医療に関する知識のなさ故に思い切った行動ができない。



 なんとも情けない限りだ。



 なんて、あーでもないこーでもないと考える振りを続けていたところ、直感が浮かんだ。

 それは直感というよりも、確信に近い感覚。

 俺の無力感を消し去るための気休めにでもなればいいなと、無駄な足掻きに似た祈りは、何の因果か俺自身の理解を深めるのに繋がった。



 俺は、第三者的な、俯瞰した視点をもって、推定自分と思われる人骨を操っている。

 その範囲を勝手にこの無駄に白い骨限定だと視野を狭めていたらしい。



 気付いた時には少女の変に折れ曲がった足の骨を操作して、元通り、とまではいかないまでも、少なくとも真っすぐに整った両足を再現することに成功した。

 見た目だけじゃなく、折れた個所の接合まで完璧である確信があった。

 操作中は苦悶の表情を浮かべていた少女だったが、操作を終えた今となっては心なしか顔色がよくなったように思う。

 足だけじゃなく、肋骨にもヒビを確認できたのでついでに治した。



 とはいえ、俺が弄ったのは骨のみで、擦り傷や痣、火傷跡や鬱血した状態を元に戻すことはできていない。

 一刻も早くその道の相手に状態を確認してもらわなければ不安な状況である。

 骨折は治せたし、多少動かしても問題はないのではないだろうか。

 どちらにせよ、少女が自分でここからダンジョン外まで移動することは難しいだろうし、意識を失っている今のうちに移動しておこう。



 …俺に怯えて変に暴れられたら危ないし。



 少しだけ哀しい気持ちになりながら、そっと少女を抱きかかえる。

 なんだか、懐かしいような、不思議な気持ちを抱く。



 俺は、独身だったはずだけど、この暖かい気持ちはなんだろうか。



 よくわからない気持ちに戸惑いながら、俺はなるだけ衝撃を与えないよう、ゆっくりと空中を移動する。

 そうやって、そろそろ三人組が利用していた魔法陣近くかなといったところ。

 もぞもぞと動く腕の感触に意識を向ければ、おっかなびっくりといった表情でがらんどうな頭蓋のくぼみを見つめている少女を確認できた。



 先ほどまでの死んでしまいそうな表情ではなく、恐怖とも戸惑いとも取れる表情に変わったことは素直に喜ばしかった。

 それ以上に歓喜する謎の強い感情に振り回されそうになりつつ、ゆっくりと、怖がられないように、地面に少女を降ろして距離を取る。



 ここまでくれば危ないモンスターも少ないだろうし、その内誰かが彼女を見つけてくれるだろう。

 そう思っての行動だったが、心細そうな少女の表情に後ろ髪を引かれる。

 …髪なんてないんだけど。



「ほねさん?どっかいっちゃうの?」



 彼女はきっと、俺という異質なスケルトンに介抱される恐怖よりも、広いこのダンジョン内で置き去りにされる恐怖の方が勝ったらしかった。

 少し行けば出口であることもきっと気付けていないのだろう。



 言葉を発せない代わりに、出口の方向へ指をさす。



 首を傾げながら、指した方向へ視線を向ける少女は、まだ状況が呑み込めていないようで、悲しそうに顔を伏せる。

 胸が締め付けられるような感情の波に、どうしてここまで少女の一挙手一投足が気になるのか、本格的に考える必要がありそうだ。



 なんて冷静な部分では思うのだが、どうしても抗えない感情のまま、少女の傍に寄る。

 気付けば安心させるように頭を撫でていた。


「ここにいちゃだめ?」


 涙をにじませながら、そう告げる少女に俺は返す言葉を持ち合わせていなかった。





 いつまでそうやっていたのか。

 トントンと少女の背中を叩きながら、落ち着かせていると、近づいてくる気配を捉えた。

 たぶん人間だろう。モンスターではないはずだ。



 これで俺もお役御免だと、近づいてくる気配に向かって指を指す。

 さっき指した出口と同じ方向。近づいてくる気配は六。



 俺みたいなモンスターと一緒にいることがバレたら少女に要らぬ疑いが向けられてしまうかもしれない。

 そう思って、踵を返す。

 なるべく少女の顔を見ないように。見たら離れられそうにないから。



「…あんたが噂の親切なスケルトンさん?」



 どうやら離れるまで時間をかけすぎてしまったらしい。

 立派な皮鎧を纏った、美人が六人、武器を構えて俺を警戒していた。




 

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