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スケルトンは人間に戻りたい。  作者: すいがら。
2/6

助けたはずなんだけど。



 それから、ぽつりぽつりと質問形式で言葉を投げられた俺は、首を縦に振るか横に振るかしかコミュニケーションの取れないもどかしさよりも、この姿で初めて出会った人間とコミュニケーションをとれた嬉しさが上回っていた。


 そんな折、とんでもない一言を受けて俺は固まることになる。


「じゃあ、ありがとうございました、では」


 いや、冷静に考えて、この場で別れを告げるのは正しい判断だろう。

 言葉は通じるものの、得体のしれないモンスターを連れていくわけがない。

 けど、この時の俺はなぜかこのまま人間の住居にでも招待される気満々であり、別れを告げられ背を向けられたところで、言葉を発することのできない俺は、無理やり後を着けるという暴挙に出た。


 その結果。


「どこまで着いてくるんでしょうか…」

「わ、わかんねえよ、なんかお礼でもしないとだめなのか?」

「…スケルトンの欲しい物なんてわからないわよ?」


 すごく警戒されている。

 チラチラと俺の様子を伺いながら、死体になった男性を引きずり歩いている三人組の内緒話は、無駄に集音性能の高いこの骨にはすべて筒抜けであった。



 まあ、そうなるよなと。

 でも、右も左もわからないこの洞窟で唯一話の通じる人間に出会えたのだ。

 はいさようなら、とは流石にいかない。



 見たところ、真っ赤な髪だったり、彫の深い海外のモデルのような顔立ちをしながら日本語を放っていたりと明らかに俺の知っているのとはまるで違う世界だろうと推測できる相手を前に、言葉を発せないディスアドバンテージを背負いながらうまく立ち回れるわけもなく。

 何とかして俺が人間であることをわかってもらえないかと頭を働かせる。

 …いや、俺は人間だと胸を張って言えるだろうか。



 明らかに人骨であり、それを自在に操れる不思議な状況から、俺はいつの間にか最新のVRゲームでも体験しているのか、それともこの骨が元俺で外側から操る何らかの要因を獲得しているのか。

 あまりにも突飛すぎる現状のせいでそのどれもが可能性を孕んでいて判断がつかない今のうちは、少しでも情報を得るためにもこの三人組との出会いを棒に振りたくはない。


「こ、このまま帰って大丈夫なんでしょうか?」

「…少なくとも外に出るときにひと悶着はあるでしょうね」

「けどよ、あんな強えスケルトン引き離すなんて無理だぜ?」


 どよんとした重い空気を漂わせながら進む三人組はこそこそとあーでもないこーでもないと頭を悩ませている様子。

 ごめんなさいね。

 俺も何が何だかわかっていないのだ。とにかく手がかりが欲しい。



 なんて考えながら進んでいると、どうにも嫌な気配を前方に感じた。

 目を凝らす、と言っていいのか、ともかく小指の先をその方向へ飛ばして確認してみれば、今まで出会ったモンスターとは一味違う異彩を放っているミノタウロス。

 巨体もさながらに、片手で運んでいる馬鹿でかい大斧がこれまでの雑魚とは違うと物語っている。



 筋骨隆々なその見た目と頭の牛が絶妙にマッチしているそのモンスターは、すでにこちらを捕捉しているらしい。

 鼻息荒く構えるミノタウロスに対して、こっちの三人組は未だ気付いていない様子。



「ん?なんか変ね?」

「・・・ヤツだ」


 ズンズンとこちらへ中々の速度で近付いてきたミノタウロスに気付いた時にはもうすでに射程圏内のようで、唯一その存在を確認したベリーショートの女性は険しい表情で構えた。



 どうやら会話を聞いてみるに、この空間で有名なモンスターらしい。

 命を賭して逃した男性の努力も虚しく、なんとも災難な三人組である。


「す、スケルトンさん、助けてくれませんか?」

「ネネ!?」

「だ、だって、それくらいしか・・・」


 意外にも俺を頼ってくれるらしい。

 いや、意外でもなんでもないか。それ以外に方法がないんだし。



 ブルルンと、鼻息荒く構える半獣半人のやべえ気配に当てられて動けそうにない三人をチラ見しながら、特に恐怖を感じない自分自身に生き物として大事な何かが欠落しているような気さえしてくる。



 所詮はゲームのキャラクターを操っているような状況な訳で、どちらかと言うと現実味がないために焦りも恐怖も感じていないと言った方が正しいだろう。




 カラカラと返事をしながら三人組とモンスターの間に立ち塞がるのを見て、ホッと息を吐く人間と、興奮しているのか雄叫びをあげる牛人間。

 意外と用心深いようで、いきなり突撃してくる、なんてこともなく、ジワジワと距離を詰めてくる。



 焦ったくなった俺は今まで通り、指の骨を向けて発射する。




 どしんと、まだ少し距離があったにも関わらずなかなか揺れた地面は、その重量感と、命が失われた結果だけを教えてくれる。




 つまりは一撃で伸してしまったわけで。



 今までコメディチックな空気が流れていた三人組は、ギギギと首を動かして、恐ろしさを隠すことなくその畏れを表情にしっかり貼り付けていた。

 顔色が悪い。

 逆の立場だったら俺は腰が抜けて動けないかもしれない。



「っ、こいつおもったよりやべえよ!」

「知ってます」

「・・・なんとかして興味を他に移さないと」



 ここまで嫌われてしまうと、こちらとしても申し訳ない気持ちが溢れてくるわけで。

 初の人間との出会いは、怖がられて終了ということになる。




「、どっかいきますよ?」

「し、っしー!戻ってきたらどうすんだ!」

「あんたが一番うるさいわよ」




 そんな背後からの声をbgmに俺はまた一人ぼっちに戻るのであった。




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